特集1:金融機関のサステナビリティ経営の焦点

気候関連金融リスクの監督・規制の現状と課題
-政策ツールの開発における初期的な知見-

小立 敬

要約

  1. 気候関連金融リスクが金融機関の健全性や金融システムの安定に与える影響について国際的な関心が高まっており、金融機関がどのように気候関連金融リスクを把握し管理するかがプルーデンス監督・規制上の重要な課題となりつつある。
  2. 国際基準設定者は、国際基準の中で気候関連金融リスクを対象とする際に生じるギャップについて分析を始めた。各法域の監督・規制当局も能力構築とともに、気候関連金融リスクに対する監督・規制政策の整備に向けた検討を進めており、金融機関のリスク管理やガバナンスに対して監督上の期待を提示するようになっている。
  3. 監督当局や金融機関は、気候関連金融リスクの測定とその影響を評価するためのツールの開発に取り組んでいる一方、政策ツールの開発は初期段階にある。特にシナリオ分析やストレス・テストは、リスク・エクスポージャーまたは物理的リスクや移行リスクが金融機関や金融システムに与える影響について初期的な特定・評価を可能にしており、気候関連金融リスクを把握するための主なツールとして各法域で幅広く利用されている。
  4. 気候関連金融リスクへの対応は今後、リスク管理手法や政策ツールの開発を含め日進月歩で進んでいくことが予想される。「2050カーボンニュートラル」を宣言する日本としても、気候関連金融リスクへの対応を図っていくことは、金融当局や金融機関にとって不可欠の課題であろう。