ESG/SDGs

香港取引所によるカーボンクレジット市場の創設
-グレーターベイエリア統合カーボン市場構築への一歩-

北野 陽平

要約

  1. アジアを代表する国際金融センターの1つである香港では、2022年10月28日にカーボン(炭素)クレジット市場が創設された。香港は、グリーンファイナンスの域内ハブになる目標を掲げており、グリーンファイナンスの促進に向けた様々な取り組みを進めている。今般、香港取引所が「コア・クライメート(Core Climate)」と呼ばれるボランタリー(自主的な)カーボンクレジット市場を創設したのは、その一環である。
  2. コア・クライメートは、カーボンクレジットをワンストップで調達、保有、売買、決済、無効化する機会を提供する。主な参加者には、中国企業、香港上場企業、多国籍企業、金融機関が含まれる。当該市場で取引されるカーボンクレジットは、世界中の森林や再生可能エネルギー発電プロジェクト等から創出され、国際的な認証基準に基づいて発行されたものである。
  3. コア・クライメートでは、カーボンクレジットの現物取引のみ行われているが、今後、カーボンクレジットに連動する指数や上場投資信託(ETF)が開発される可能性が示唆されている。もしそうした指数やETFが導入された場合、伝統的な資産運用会社を含む新たな参加者の参入につながると考えられる。他方、カーボンクレジット取引は香港証券先物条例の下で明確に規制されておらず、今後の規制動向に留意することが求められる。
  4. 香港は、広東省9都市、マカオとともにグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)という経済圏を構成しており、グレーターベイエリア統合カーボン市場の構築に向けて、中国本土との連携を強化する方針である。香港のカーボンクレジット市場は、先行して開始されたシンガポールのカーボンクレジット市場と一定の競合関係にあると言えるものの、参加者の棲み分けや政府の政策の違いを踏まえると、各市場が独自の経路を辿って発展していく可能性が考えられよう。