特集2:新展開を目指す中国資本市場
中国での「新たな質の生産力」の発展に向けた資本市場の機能活用を巡る議論
関根 栄一
要約
- 中国では、2024年に入り、11年ぶりとなる中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議が開催され、「新たな質の生産力」の発展を促進するという新たなイノベーション政策が打ち出され、私募ファンド投資に関するエコシステムを形成していく方針も確認された。そのための資本市場の機能活用では、機関投資家の株式運用を促進するとともに、上海の科創板(新興市場)改革を進めていく方針を確認した。
- 「新たな質の生産力」にふさわしいイノベーションの促進に向け、投資家から見て魅力的な銘柄への投資機会が提供されるエコシステムの形成が重要になっており、国務院(内閣)及び科創板を有する上海市政府は創業(起業)投資を促す為のガイドラインを策定し、M&Aや新規株式公開(IPO)を通じた投資の出口(エグジット)ルートを整備する方針でもある。
- 創業投資を担う私募基金の管理残高を見ると、新型コロナウィルス(新型コロナ)の流行防止に伴う行動制限の影響を受け、2022年以降、管理残高の伸びが鈍化傾向にある。投資案件数ベース(累計)でエグジット率を試算すると、2022年は平均で32.4%となっている。
- 他に、科学技術部系研究院のアンケート調査では、新型コロナ流行期間、2022年の出口ルートは、IPOの23.86%、M&Aの11.03%に対し、株式買戻しが51.09%と過半となった。同調査では、ベンチャーキャピタル(VC)が期待する政策として、キャピタルゲインの二重課税防止に向けた税制優遇政策の整備や、政策性基金の設立が挙げられている。そのうち後者では、上海市政府はアーリー期の科学技術企業向け基金を新たに設立する計画である。
- 一方、同調査によると、2022年の創業投資の資金提供者では、国有・政府資金が全体の54.54%を占め、新興企業への公的資金による支援度合いが高まっている。民間VCによる投資をクラウディングアウトしないよう、外資を含めた多様な投資家層が参加するエコシステムの形成が求められている。併せて、投資・回収サイクルを確立するため、投資銀行の機能をうまく使ったエクイティストーリーの描き方も重要となっている。