特集2:新展開を目指す中国資本市場
15年ぶりに改正された「上海市国際金融センター建設推進条例」の概要と展望
関根 栄一
要約
- 2024年8月22日、上海市の(地方議会常任委員会に相当する)市人民代表大会常務委員会は、「上海市国際金融センター建設推進条例」の改正版(以下、新条例)を可決し、公布した(同年10月1日施行)。新条例は、旧条例が2009年6月に制定されて以来、15年を経て、初めて、かつ抜本的に改正されたものである。
- 国務院(内閣)や上海市は、従来、2020年を目標に上海の国際金融センターを構築するとしてきたが、2023年10月末に約5年ぶりに開催された中央金融工作会議の新たな方針や、2024年4月に制定された国務院の資本市場改革に関する指針を踏まえ、旧条例を抜本的に改正する必要が出ていた。
- 新条例では、上海の国際金融センター化の進め方を、従来の「構築する」から「加速する」に変更した。また、金融分野での「上海プライス」、「上海指数」といった指標体系を増やし、グローバルな人民元建て資産取引センターを目指す方針を明記した。
- 新条例上、重点分野として、科創板(新興市場)上場企業の支援、5大分野(フィンテック、グリーン金融、金融包摂、年金金融、デジタル金融)での取り組み促進が明記されている。また、新条例では、人民元国際化の推進、及びデジタル人民元の研究開発・応用の段階的推進を、独立したテーマとして取り上げた。他に、金融市場でのリスクの発生防止・処理に向け、中央の金融当局と協働した管理監督体制や協議体を構築するとした。
- 新条例では、特に外資系金融機関のみを対象とした規定は書き込まれていない。一方、外資系金融機関は、ライセンスの取得、データの越境管理、海外の金融人材の導入に向けた利便性について、国際金融センターとしてふさわしい支援を関係当局に求めていると思われる。新条例の公布後、金融当局は適格投資家制度の最適化に着手し、上海の国際金融センター化を側面支援しているが、海外投資家の集積度合いを更に高めるための取り組みも課題である。