個人マーケット
英国の投資アドバイス・ギャップ解消に向けた試行錯誤
-サービスの低コスト化と担い手確保の両立に向けた模索-
関田 智也
要約
- 英国では、2012年から実施された金融商品制度改革(RDR)によりファイナンシャル・アドバイザー(FA)の負担が増えた結果、富裕層未満の個人への投資アドバイス供給が手薄になる「投資アドバイス・ギャップ」が生じた。これを解消すべく、英国政府・英国金融行為規制機構(FCA)はこれまで、試行錯誤を繰り返してきた。
- FCAは2022年11月、コア投資アドバイス制度の導入を提案した。同制度案は、株式型の個人貯蓄口座(株式型ISA)における初めての投資に限り、規制緩和を行うものであった。しかし、そのような投資アドバイスを事業として成り立たせるのは困難である等の見方から投資アドバイス業界の支持が限定的であり、同制度案はFCAによって撤回された。
- 英国財務省及びFCAは2023年12月、「アドバイスとガイダンスの境界に関するレビュー」のディスカッションペーパーを公表した。そこで提案された「対象を絞った支援」は、同質な特性を有する「ターゲット顧客群」を想定した投資行動の提案等を行うものである。また、「簡易アドバイス制度」は、コア投資アドバイス制度案を修正したものであり、シンプルなニーズ及び少額の投資資金を有する顧客に対して、一度限りの安価な投資アドバイスを提供するものである。
- 投資アドバイス・ギャップ解消に向けた最大の課題は、マスリテール層向けの支援の低コスト化と、担い手である金融事業者の支援提供意欲の両立にあると言えよう。投資アドバイス業界の初期的な反応等を鑑みると、今般の施策案によって英国の投資アドバイス・ギャップが劇的に解消へ向かうシナリオは、現時点では想定し難い。今後、英国政府・FCAとして、どのような施策を講じていくのか、日本の投資アドバイスを巡る制度設計の観点からも注目に値しよう。