中国・アジア

新興国向け貿易等で2023年も増加を続ける中国・人民元の越境決済と今後の展望

関根 栄一

要約

  1. 国際銀行間通信協会発表の世界の外国為替市場取引高統計によると、2023年11月から2024年2月まで4カ月連続で人民元が日本円を抜いて世界第4位となった。また中国人民銀行によると、人民元建てクロスボーダー決済金額は、2022年の42兆1,000億元(前年比15.1%増)に対し、2023年は52兆3,000億元(同24.0%増)と前年を更新し、過去最高となった。
  2. 人民元の国際化は、従来の「継続しかつ慎重に進める」方針から、2022年10月の中国共産党第20回党大会で「秩序立てて推進する」方針に変更され、スピードを着実に上げ、同時に主体的かつ系統的に取り組むものとなった。2023年の人民元建て貿易決済金額も、新興国向け・自動車関連で増加する貿易金額・伸び率を反映し、前年の記録を更新中である。
  3. 第20回党大会を経て、2023年は、上海外国為替市場の取引時間の延長や、中小企業向け人民元越境決済の宣伝強化、二国間の人民元クリアリング銀行設置・人民元建て通貨スワップ協定の継続が行われている。クロスボーダー人民元建て証券取引金額も、グロスの金額は増加の一方、外貨建てを含む対中証券投資全体では、同年7月~9月に純流出が発生している。
  4. 2023年10月末の中央金融工作会議では人民元国際化の方針の表現が再度変わり、「安定的・慎重かつ着実に推進する」とされた。また2024年1月、中国人民銀行はこの新たな方針を「重点企業、重点分野、重点地域での人民元の使用を推進する」と表現した。重点地域ではユーラシア大陸諸国と「一帯一路」構想のハブとなる新彊ウイグル自治区での人民元決済の拡大や、上海市ではデジタル人民元建てでの貿易決済や越境貴金属取引の実験、他に中国・シンガポール間での旅行者向けデジタル人民元決済の実験が始まろうとしている。
  5. 人民元建てクロスボーダー決済金額は、2022年の場合、資本取引は31兆7,000億元と全体の75%を占めている。このため、対中証券投資・直接投資の活発化度合いが、今後の人民元国際化の進展の鍵を握るものとなろう。その際、中国当局が、短期的な経済対策・市場対策とも連動させて人民元国際化をどのように進めていくのかも引き続き注目される。

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