中国・アジア
中国本土投資家の日本株投資ブームと背後にある二国間ETFコネクティビティ
関根 栄一、宋 良也
要約
- 中国本土の投資家の間で、2024年に入り外国株への投資ブームが過熱している。中でも、日中両国でETFを相互上場する「日中ETFコネクティビティ」に基づき、中国本土に上場する日本の株価指数連動型ETFに対する中国本土投資家の買付が殺到し、ETF基準価額と取引価格との乖離が急速に拡大した。その結果、管理会社として、投資家に冷静さを促すための警告や取引の一時停止等の施策を取らざるを得ない事態が生じた。
- 中国本土市場での適格国内機関投資家(QDII)の運用枠を使った海外株指数連動型ETFの上場は、海外株投信と比べ、流動性が高く、低コストで取引でき、中国本土の個人投資家にとって外国資産へのエクスポージャーを得る有力なツールとなっている。中国本土市場と海外市場でのETFの相互上場は、中国の双方向の資本市場の開放政策(第13次5カ年計画)とも連動し、中国から見て日本が最初の相手先として2018年に始まったものである。
- 日中ETFコネクティビティの下では、日中両国の管理会社は1対1で提携し、相手側が組成する指数連動型のETFを投資対象とするETFを組成し、自国で上場するスキームとなっている。その際に、中国の管理会社が組成するETFは、QDIIの運用枠を超えない範囲でしかETFを組成できない。このため、ETF市場本来の価格調整のための裁定メカニズムが機能せず、今般の中国本土での日本株指数連動型ETFの急騰につながった。
- 日中ETFコネクティビティが抱える課題の解決に当たっては、(1)短期的には越境ETF向けのQDII運用枠の拡大、(2)QDII運用枠の継続的な拡大、(3)ストックコネクトの考え方に基づく双方向での売買枠の設定への転換、が考えられる。基準価額と取引価格の大幅な乖離の緩和に向け、日中ETFコネクティビティの制度設計の最適化に関する両国関係者の検討が期待される。