特集1:求められる高齢投資家対応

高齢者の資産管理と持続的代理権
-長寿化時代に求められる支援の拡充-

野村 亜紀子

要約

  1. 長寿化が進む中で、多くの個人が、高齢期の資産管理により資産寿命の延伸を目指す必要性は高まっている。その際、誰にでも起こりうる認知判断能力低下に対する備えが重要であり、一つの選択肢として、事前に取引の代理人を指名し代理権を付与する方法がある。
  2. 日本では任意の代理権付与が可能だが、認知判断能力喪失後も代理権を持続させることには問題があるとも指摘されている。その点、米国では統一代理権法(UPOAA)の下で持続的代理権委任状(DPOA)の制度が整備されており、本人の能力喪失後も代理権の効力が持続する。本人が健常なうちに代理人を指名し、預金、証券、保険、不動産、信託など様々な資産について、本人の望む形で権限を付与することができる。代理人は受託者として本人の最善の利益追求等を求められる。
  3. DPOAを含む事前の備えの重要性は、米国の金融関連当局も認識しており、一般向けの情報発信等を行っている。一方で、代理人の権限濫用による不正という現実もある。不正を完全に防ぐ手立てはないものの、DPOAの有用性は支持されている模様である。
  4. 日本でも、高齢期の資産管理支援の拡充のため、任意代理の制度改善が求められる。米国UPOAAには、代理人の受託者責任の範囲と損害賠償責任、取引相手となる第三者(金融機関等)の保護、一般個人でも利用可能な法定書式の提示など、日本なりのDPOA検討に際して参照すべき論点が含まれている。