特集1:求められる高齢投資家対応

米国における高齢者支援の新たな選択肢「SDM」と金融リテラシーの拡充

門倉 朋美、林 宏美

要約

  1. 米国などでは、後見制度に加えた選択肢の一つとして、意思決定支援を受けた自己決定(SDM)という概念を基にした取り組みが重視されるようになっている。SDMにおいて、最終判断を行う主体は高齢者本人であり、高齢者本人による自己決定を支援する者(サポーター)は支援に徹する。サポーターによる支援内容は多岐にわたり、金融面に焦点を当てると、サポーターの金融リテラシー向上が鍵を握ることから、そのための取り組みも進められている。
  2. 米国保健福祉省(HHS)による支援のもとで設立された米国意思決定支援資源センター(NRC-SDM)は、ウェブサイトを通じてSDM関連法令や外部リソースの情報発信等に取り組んでいる。AARPやテキサス・アップルシード、米国州裁判所センターは、サポーターの金融面のリテラシー向上に資するツールとして、SDM契約におけるサポーター向けガイドやオンライン・トレーニングを提供する。
  3. 金融面に関するツールは、(1)サポーターの受託者責任、(2)経済的虐待に関する注意喚起、の内容が盛り込まれている点が特徴的である。SDMに基づく金融面の支援がうまく機能するか否かは、サポーターのSDMに対する理解及び金融リテラシーに依拠するところも大きい。
  4. 日本では高齢者の認知判断能力が低下し財産管理が困難になると、成年後見制度の利用が想定されるが、結果的に高齢者本人の判断する権限が限定される。高齢者支援の選択肢の一つとして、日本でもSDMの概念に通ずる取り組みができないか、検討に値するのではないだろうか。その際に、高齢者支援に携わる者が備えるべき金融リテラシーの具体化も重要と言えよう。