金融・証券規制

2023年の銀行混乱に係るバーゼル委員会・FSB報告書
-銀行監督・規制、破綻処理の枠組みの新たな課題-

小立 敬

要約

  1. シリコンバレー・バンク(SVB)の破綻を契機にクレディ・スイス(CS)の実質破綻をもたらした2023年3月の銀行を巡る混乱の教訓として、バーゼル委員会が銀行監督・規制上の課題を整理した報告書を、金融安定理事会(FSB)が銀行破綻処理の枠組みにおける課題をまとめた報告書をそれぞれ2023年10月に公表した。
  2. バーゼル委員会の報告書は、監督上の課題として流動性監督強化を含む幅広い監督分野の課題を議論している。規制上の課題については、流動性カバレッジ比率(LCR)、銀行勘定の金利リスク(IRRBB)を含む規制のあり方に関する課題を指摘する一方、現行のバーゼルIIIを修正するかどうかはバーゼル委員会による今後のフォローアップ作業に委ねられた。
  3. FSB報告書の注目は、CSにベイルインが適用される可能性があったことを明らかにしたことである。スイス以外の関係当局はベイルインの実行が可能という確信を得たように窺われる。また、ソーシャル・メディアと金融のデジタル化という今日的環境を背景に高速のバンクランが生じたことを受けてFSB報告書は、預金保護の範囲の見直しや預金保護のための長期債発行という新たな論点を認識した。
  4. 今日的環境を踏まえた監督・規制や破綻処理における課題については、バーゼル委員会の報告書もFSB報告書も議論の出発点を示すものであって、現行の枠組みの修正を図るような具体的な方針を示していない。両報告書の流れを受けた今後のさらなる議論の帰趨に注目する必要があるだろう。