金融・証券規制

銀行勘定の金利リスク(IRRBB)に関するバーゼル委員会の提案
-金利ショックに関連する見直し-

小立 敬

要約

  1. バーゼル委員会は2023年12月に、銀行勘定の金利リスク(IRRBB)における金利ショックの水準の見直しを図るための市中協議文書を公表した。2016年に最終化されたIRRBB基準は、金利ショック水準を定期的に見直す方針を掲げており、市中協議文書が提案する見直しは、概ね既定路線に沿ったものとして捉えられる。IRRBB基準は、金利ショック・シナリオの生成に用いられる各通貨の金利ショック水準について、2000年から2015年までの時系列データを基に設定している。
  2. 市中協議文書は、時系列データを2022年まで拡張するとともに、金利ショック水準を設定するための新たな計測手法も提案している。金利がゼロに近いときに相対的に金利変化率が大きくなるという現行の手法に関わる課題に対応するものである。こうした見直しの結果、米ドルやユーロを含む一部通貨の金利ショック水準が引き上げられており、これらの通貨に関して計測されるIRRBBの値に影響を与えることが想定される。
  3. もっとも、円金利に関しては、現行の金利ショック水準が維持される見通しである。日本の銀行が計測するIRRBBの値は、その多くが円金利によるものであると考えられることから、市中協議文書における提案が最終化されてもIRRBBの全体的な値に大きな影響を与えないように窺われる。
  4. ただし、2023年3月のシリコンバレー・バンクの破綻を機にIRRBBのあり方が注目されるようになってきている。世界的に政策金利が引き上げられる金融環境において、銀行の金利リスクへの注目も高まってきている。今般の市中協議文書の提案とともにバーゼル委員会におけるIRRBBのあり方に関する議論の行方にも注意を向ける必要があるだろう。