金融・証券規制

中国株式市場における株価維持政策の動向
-5年ぶりの市場介入の背景と評価-

関根 栄一

要約

  1. 中国の2023年第3四半期(7~9月)の実質GDP成長率は前期比で1.3%増、1~9月で前年同期比5.2%増と、政府が設定した通年の5%前後という成長率目標を達成できる見込みが立った。一方、株式市場を見ると、A株(人民元建て株式)の代表的な指数である上海総合指数の終値は、10月20日に2,983.06ポイントとなり、2022年11月3日以来、約1年ぶりに心理的節目の3,000ポイントを下回った。
  2. 3,000ポイント割れ前の10月11日には、中国人民銀行傘下の政府系ファンドによる大手銀行株の買い支えが行われた。同ファンドによる株価維持政策(PKO)の発動は2015年夏以来、また、中国当局が株式市場に介入するのは2018年10月以来、5年ぶりとなった。その後、3,000ポイント割れが続いた10月23日の夜には、同ファンドから上場投資信託(ETF)を買い増したとの追加表明がなされた。
  3. 景気の減速を受けた2023年7月24日の中国共産党政治局会議以降、9月末まで、政府から内需の拡大に向けた対策が打ち出されてきたものの、相次ぐ株価下落は、財政出動を伴わない形での景気対策の効果や、個別企業を含む不動産セクターへの見通しについて、投資家の不安や不透明感が反映されたものと考えられる。
  4. この間、中国証券監督管理委員会としても、株価の動向を見ながら市場対策を打ち出し、8月18日には更に包括的株式市場活性化策を公表した。証券取引所の株式取引手数料の引き下げ、証券優遇税制措置の延長、証券取引印紙税の引き下げ等の市場対策や、自社株売却の制限、新規株式公開(IPO)・増資ペースの調整等の需給調整策が導入されている。
  5. 投資家の関心事項のうち、景気対策では10月24日に特別国債1兆元の発行が決定され、10月末の中央金融工作会議では不動産業界発展の新たなモデルを構築する方針が確認された。株式市場でも、更なる活性化に向け、投資家層拡大の重要性が高まっている。他に、株式市場活性化策の公表の仕方により、投資家の市場への信認を高めることもできると考えられる。