金融イノベーション

スイスの地方公共団体によるデジタル地方債の発行と日本への示唆

江夏 あかね

要約

  1. スイスでは、ティチーノ州ルガーノ市が2023年2月、バーゼル・シュタット準州及びチューリッヒ州が同年12月、デジタル地方債を発行した。
  2. スイスでは、(1)魅力的な税制と立地条件、(2)行政によるブロックチェーン技術の活用や産業支援、(3)ブロックチェーン技術に精通する人材の創出、(4)法的基盤の確立、の要因等を背景に、ブロックチェーン産業が発展し、デジタル地方債の発行に至った。
  3. スイスの地方公共団体によるデジタル地方債は、発行体によるデジタル化の推進や資金調達の多様化といった目的も背景に発行された。また、デジタル化に伴う信用格付けへの影響がない形での起債、スイス証券取引所(SIX)とSIXデジタルエクスチェンジ(SDX)への重複上場及びスイス国立銀行(SNB)のレポ取引の適格担保としての位置付け等を背景に、投資家にも円滑に受け入れられた。
  4. 日本では2023年12月時点で、法律の手当が行われていないこともあり、デジタル地方債の発行実績はないものの、発行を可能とする法令上の措置等を含めて必要な調査・検討が行われている。仮に、日本でデジタル地方債の発行が可能となった場合、スイスの事例を踏まえると、(1)デジタル地方債に特化した投資家向け広報(IR)の実施、(2)デジタル地方債の発行に伴う新たなリスクの回避と第三者による見解の取得、(3)流動性支援策の検討、が円滑な資金調達につなげるカギになると考えられる。