税・会計制度

米国上場企業の財務報告の修正と役員報酬の返還
-クローバック制度の導入を義務付けるSEC-

板津 直孝

要約

  1. 米国証券取引委員会(SEC)は、2023年6月、取引所による、クローバック制度に係る上場基準の改正案を採択した。クローバック制度とは、役員報酬算定の基礎となった財務報告について、財務報告の修正を行うことが必要となった場合に報酬の返還を求めるものである。同改正により上場企業は、クローバック方針の導入と年次報告書等での情報開示が求められることとなった。
  2. 米国におけるクローバック制度は、2002年7月にサーベンス・オクスリー法(SOX法)によって初めて定められた。SOX法第304条では、CEO及びCFOに限定して12か月以内に受領した報酬等の返還を求めているのに対して、改正された上場基準では、現職及び退職したすべての役員を対象とし、報酬の返還期間もより長期の3年間としている。同上場基準は、財務報告の修正と役員報酬との連動性を高め、財務報告についての不正を抑止し、企業から役員への不当な財産の移転を是正し、株主との関係における公平性を確保することを目的としている。
  3. 日本では、2015年6月に導入されたコーポレートガバナンス・コードの適用以降、役員報酬について、業績に連動するインセンティブ報酬の重要性が指摘されるようになった。インセンティブ報酬の導入の促進については、法人税法上でも対応が進められた。
  4. 日本ではクローバックを直接規定した法令はないが、グローバル企業の中には、報酬体系を米国上場企業並みに整備する企業も増え始めている。日本企業が、役員報酬と中長期的な企業価値との整合性を図るべく報酬体系を整備し、役員報酬に占めるインセンティブ報酬の割合を高める過程で、SECによるクローバック制度の導入の義務付けからは、一定の示唆を得ることができると言える。