税・会計制度

無形資産ファイナンスを推進するシンガポール
-無形資産開示フレームワークの公表-

板津 直孝

要約

  1. シンガポール知的財産庁(IPOS)とシンガポール会計企業規制庁(ACRA)は、2023年9月、無形資産ファイナンスを推進する一環として、「無形資産開示フレームワーク(IDF)」を公表した。シンガポールの無形資産戦略の長期目標は、企業の無形資産の管理と商業化を支援し、信頼できる無形資産の評価及び情報開示を通じて、大きな利益構造を構築することにある。
  2. 無形資産は、企業が長期的に持続可能な方法で価値を創造するための重要な経営資源であり、近年、企業価値の大半を無形資産が占める企業が増加している。国際的には、無形資産の評価と情報開示が未だ初期段階にあることから、シンガポールでは、無形資産に特化した情報開示の枠組みであるIDFが策定された。
  3. IDFの主要な開示原則は、戦略、識別、測定及び管理の4つの柱に基づいて、企業が無形資産をどのように開示すべきかについて推奨される開示事項を具体的に定めており、いわゆる細則性を有している。
  4. 無形資産の投資及び活用については、日本においても課題が指摘されている。現状、基本的な原則を示したガイドラインが提供されているが、それに留まらず、細則性を有する無形資産開示のフレームワークが欠かせない。
  5. 投資家は、中長期的な投資戦略において投資先の無形資産投資をより一層重視しており、企業による無形資産に関する情報開示への期待を強めている。国際的に先行するシンガポールのIDFは、日本企業にとっても投資家からの評価につながる無形資産関連の情報開示をする上で、有用なフレームワークであると言える。