ESG/SDGs
「公正な移行」を支援するスタンダード・チャータード銀行
-脱炭素と収益獲得を図るトランジション・ファイナンス-
関田 智也
要約
- 欧州において、トランジション・ファイナンスを活用する機運が高まっている。こうした中、英国のスタンダード・チャータード銀行(スタンチャート銀行)は、独自のフレームワークを策定し、トランジション・ファイナンスを推進している。
- スタンチャート銀行は、英国を本拠としつつ、収益の大部分をアジア・中東・アフリカにおける事業から得ている。これらの地域は、エネルギー移行を実現するために最も投資が必要とされている地域であるとともに、気候変動に伴う自然災害等からの被害を受けやすい地域でもある。こうした背景から、スタンチャート銀行がトランジション・ファイナンスを推進していることは、同行の顧客ニーズ及びリスク管理の観点から、理に適っていると言える。
- スタンチャート銀行は、トランジション・ファイナンスが脱炭素に向けて重要な役割を果たすとともに、収益の獲得も期待できる取り組みであることをアピールしている。同行は、トランジション・ファイナンスを巡る取り組みにおいて「公正な移行(Just Transition)」という考え方を発信しており、こうしたアプローチは機関投資家からも一定の支持を得ている。
- スタンチャート銀行は、英国に本拠を置きつつ、アジアを中心とするトランジション・ファイナンスへのニーズが非常に高い地域を事業基盤としている。こうした背景を鑑みると、同行は、トランジション・ファイナンスの意義を欧州の投資家に打ち出す必要があるという点において、日本の金融機関や政府と目的を共有しているとも言える。日欧の金融機関及び政府は、トランジション・ファイナンスの意義をステークホルダーに発信し、推進することについて、互いの取り組みを参考にできるのではないだろうか。