特集1:トランジション・ファイナンスの進化

トランジション・ファイナンス推進の機運が高まる欧州

関田 智也

要約

  1. トランジション・ファイナンスへの注目が近年さらに高まっているものの、当該市場には発展の余地がある。債券市場を見ると、グリーンボンドの発行額が大きく伸長している一方、トランジション・ボンドの市場規模は現時点でわずかなものに留まっている。特に、グリーンボンドの活用につき、他の地域と比較して大きく進んでいる欧州が、トランジション・ボンドの発行や投資で後れを取っている点は、注目に値する。
  2. 欧州連合(EU)は最近、トランジション・ファイナンスの活用を促す情報発信を積極化し始めている。こうした情報発信の背景には、トランジション・ファイナンスの活用を通じて、サステナブルな金融商品の供給を増やしたいというEUの意図が働いている可能性がある。
  3. 国際資本市場協会(ICMA)は、トランジション・ファイナンス市場の拡大を促進し得る政策の方向性として、(1)政府及び市場によるガイダンスの整備、(2)企業による標準化された移行計画の開示促進、の2種類を挙げている。これに関連して、EUでは、欧州委員会による「トランジション・ファイナンス勧告」を通じて、企業がトランジション・ファイナンスを活用するためのガイダンスが提供されている。英国では、トランジション・プラン・タスクフォース(TPT)が公表した移行計画の開示フレームワークを契機に、企業による標準化された移行計画の開示促進が図られている。
  4. EU及び英国の取り組みを契機に、欧州におけるトランジション・ファイナンスの活用推進が見られれば、当該市場の成長はさらに加速する可能性がある。一方で、トランジション・ファイナンス市場及びそれを取り巻く制度は、日本を中心として、相応に整備が進んでいるという現状がある。これから市場拡大を図っていく段階にある欧州においては、トランジション・ファイナンスを巡る諸制度・規制につき、先行地域との整合性を意識することも求められよう。

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