特集2:欧米の情報開示規制の進展
欧州サステナビリティ報告基準に関する委任規則の公布
-欧州委員会による開示要件の緩和と日本企業の対応-
板津 直孝
要約
- 欧州連合(EU)は2023年12月、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に関する委任規則を公布した。ESRSは、環境、社会、ガバナンスのサステナビリティ課題に関連した重要な影響、リスク及び機会について企業が開示すべき情報を定めており、2024年1月1日から適用される企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の適用基準として位置付けられている。
- 委任規則では、相互に関係する各政策を総体的に捉えつつ、同時にESRSの細則性の確保を目的として、(1)ESRSの特定の開示要件の段階的導入、(2)一部を除く重要性評価の適用、(3)一部の開示要件の任意開示化という形で、開示要件の緩和を図った。CSRDにより報告義務が課せられるEU域内の大規模企業の規模区分についても、総資産及び純売上高の金額基準が、近年の著しいインフレを考慮して25%切り上げられた。一方で、セクター別基準やEU域外企業向けESRSの、欧州委員会(EC)による採択期限が延長された。
- CSRDの適用対象となるEU域内子会社を有する日本企業は、ESRSに基づく開示要件の緩和を考慮しつつ、報告義務の能率化と開示負担の軽減を図るためにも、経過措置又は免除規定の適用を検討することが重要となる。EU域内子会社が複数ある場合、単独で対応するほかに、経過措置では2030年1月6日まで、EU域内で売上高の大きいEU域内子会社が連結ベースで報告することを認めている。免除規定では、日本のグループ親会社がESRS又はECがESRSと同等とみなす報告基準に従って連結ベースでの報告をすることにより、EU域内子会社の報告義務が免除される。
- ECはまた、EU域外企業向けESRSや、限定的保証及び合理的保証の保証基準の採択を予定している。CSRDの対応が求められる日本企業においては、これらの採択の動向も注視していく必要がある。