特集2:欧米の情報開示規制の進展

気候関連情報開示規則の米国SECによる採択
-スコープ3開示要件の削除を含む遵守負担の軽減-

板津 直孝

要約

  1. 米国証券取引委員会(SEC)は2024年3月、気候関連情報開示に係る最終規則を採択した。最終規則では、一律に開示を要請するのではなく、重要性の原則の適用や規範的でない柔軟なアプローチなどを採用することで、開示要件が緩和された。気候関連リスクの定義からは、バリューチェーンにおける気候関連の悪影響が除外された。それに伴い、スコープ3温室効果ガス(GHG)排出量の開示要件が削除され、SEC登録企業及びバリューチェーン内の当事者の遵守負担が大幅に軽減された。
  2. 将来予測に関する記述については、民事責任からのセーフハーバーが拡大され、移行計画、シナリオ分析、内部炭素価格設定、目標とゴールが対象とされた。この措置により、一定の場合、発行体の将来予測に関する記述について、発行体の民事責任は免除される。
  3. SECは最終規則において、GHG排出量測定の組織境界の設定に関する修正を行ったが、この点については、投資家が、SEC登録企業の財務に重要な影響を及ぼす可能性が合理的に高い気候関連リスクを理解する上で、課題を残したと言える。最終規則では、排出量の測定のための組織境界を決定する際、連結財務諸表に含まれる事業体と同じ範囲を使用することを求めた規則案を修正し、異なる範囲を使用することを容認した。遵守負担の軽減を意図したものだが、これにより連結財務諸表との整合性が損なわれる懸念がある。
  4. SECによる遵守負担の軽減にもかかわらず、SECが最終規則を採択した2024年3月6日以降、同規則を巡り訴訟が相次いでいる。米国連邦控訴裁判所は3月15日、訴訟の審理の間、SECに対して規則の一時停止を命じた。最終規則を巡る今後の動向が注目される。

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