ESG/SDGs
2024年6月議決権行使の注目点アップデイト
-「PBR1倍割れ」に関連する議決権行使基準導入が進む-
西山 賢吾
要約
- 2024年以降の株主総会に向け改定された機関投資家の議決権行使基準においては、多くの機関投資家で東京証券取引所が上場企業に要請する「資本コストや株価を意識した経営」や「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に対する対応」に関連した基準をとり入れたことが注目される。PBRは株価水準でも変動することを考慮し、「PBRが1倍を割り、かつROE(自己資本利益率)が低位に留まる状況が一定期間継続した場合、取締役選任議案に反対」など、企業側が一時的な株価対策に終始しないよう基準設定に工夫が凝らされている。
- 取締役のうち3分の1以上を(独立)社外取締役とすることを要請する基準や最低1名以上の女性取締役(ないしは女性役員)の選任を求める基準、政策保有株式に関する数値基準の導入も進んでいる。さらに、次のステップとして、基準を適用する市場の拡大、社外取締役や女性取締役の増員、政策保有株式に関する数値基準の厳格化等の動きも進み始めた。
- 環境やサステナビリティ(持続可能性)関連の課題、そして「資本コストを意識した経営」等をテーマとした「エンゲージメントとエスカレーション」を遂行する上での議決権行使における考え方を整理するとともに、環境、サステナビリティ関連における国際的なイニシアティブに沿った情報開示要請などに関する議決権行使基準への取り込みも進められている。
- これまでは、会社側議案が否決されないことを前提とした「批判票」的な性格を帯びた議案への反対も見られた。しかし、持ち合い解消や政策保有株式削減が進み、会社側提案の否決が特別なことではなくなる中、日本の株主権の強さに対する再認識が必要な時期に来ている。特に機関投資家には、会社側議案否決時に想定される企業経営やステークホルダー(利害関係者)への影響などについて、従来以上に意識した議決権行使が期待される。