ESG/SDGs
英国政府の生物多様性ネットゲイン(BNG)政策
-生物多様性オフセットの概念の活用-
林 宏美
要約
- 英国イングランドでは、2024年2月12日より、一部の例外を除く新規の開発事業において、開発前よりも生物多様性価値を+10%増加させる計画の策定を開発者に義務付ける「生物多様性ネットゲイン(BNG)」政策が導入された。中小の開発事業については、2カ月弱遅れの同年4月2日から導入された。
- BNGの根幹にある考え方は「生物多様性オフセット」である。「生物多様性オフセット」とは、人間による開発事業等によって損失を被る生息場の生物多様性を、開発地(オンサイト)或いはそれ以外の場所(オフサイト)で再生・復元し、生態系へのマイナスの影響を相殺しようとする損失補償の仕組みを指す。英国イングランドの政策では、ネットゲインの獲得が民間で不可能な場合、割高な法定生物多様性クレジットも活用する。
- もっとも、BNGを実態として実現するには、長年にわたる専門的見地に基づく当局の監視体制、開発業者のガバナンス体制の構築など、解消すべき様々な課題が残されている。
- 英国イングランドのBNG政策は、国をはじめとした公的資金への依存が高い生物多様性関連の対応に民間資金を動員させるための方法の一つとして、大いに注目に値する。オフサイト市場が発展して厚みを増し、生物多様性ユニットの売買ができるセカンダリー市場の発展につながるかという観点においても今後の展開が注目される。