特集1:アジアのサステナビリティの進展

ネットゼロに向けてカーボンクレジット取引の促進を図るASEAN主要国

北野 陽平

要約

  1. 高成長を遂げるASEANでは昨今、長期的な温室効果ガス排出量実質ゼロ(ネットゼロ)目標の達成に向けて、カーボン(炭素)クレジット取引を巡る動きが活発化している。同地域では近年、各国証券取引所等によりボランタリー(自主的)カーボン市場が相次いで創設されている。
  2. シンガポール取引所等は2021年、国際カーボンクレジット取引所のクライメート・インパクトX(CIX)を設立した。CIXは、質の高いカーボンクレジットを取り扱うことを重視している。シンガポールでは2024年以降、炭素税の支払いをカーボンクレジットで代替することが可能となり、ボランタリーカーボン市場の成長が後押しされることが期待される。
  3. マレーシア取引所は2022年12月、世界初となるシャリーア(イスラム法)適格のカーボンクレジット取引所であるブルサ・カーボン・エクスチェンジ(BCX)を子会社として設立した。マレーシア取引所は2023年10月、ボランタリーカーボン市場に関する包括的なハンドブックを発行し、カーボンクレジット取引の国内企業への認知度向上を図っている。
  4. インドネシア証券取引所(IDX)は2023年9月、IDXカーボンと呼ばれるカーボンクレジット取引所を開設した。インドネシアはカーボンクレジットの供給力が高いものの、足元ではIDXカーボンでの取引が低調である。今後、IDXカーボンでは、国内排出量取引制度に基づく排出枠の取引も開始される予定であり、市場の活性化につながる可能性がある。
  5. ボランタリーカーボン市場の発展には、カーボンクレジットの質の確保・向上が課題となっており、質の高いカーボンクレジットの基準を定めたコアカーボン原則の進展が期待される。また、中長期的な観点では、石炭火力発電所の早期閉鎖にカーボンクレジットを利用する取り組みにより、エネルギー移行が促進されるか注目される。