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政策研究大学院大学 教授 竹ケ原 啓介
要約
開示すべきサステナビリティ情報が「企業価値に影響するもの」に収れんする一方、その構成要素は、気候変動から自然資本、資源循環、様々な社会的側面へと多様化・複雑化している。このアンビバレントな状況への処方箋として浮上したのが、各課題に一体的に対処する「統合的アプローチ」である。しかし、課題間のトレードオフやシナジーを把握し、かつ財務価値へ接続する統合作業は容易ではない。その実践には経営層の強い関与が不可欠であり、最終的には課題解決と成長戦略を同期させた一貫性ある「価値創造ストーリー」に昇華させる必要がある。かつて一世を風靡したバランススコアカードの発想を活かした温故知新のアプローチは一考に値する。
ルートエフ株式会社 代表取締役(金融庁金融研究センター 顧問)大庫 直樹
要約
地方創生に2015年以降、ILO産業分析(Inbound型、Local型、Outbound型に産業を分けて、付加価値の成長トレンドを追う手法)という独自の手法で地域金融機関と協働し、多くの自治体に関わってきた。ILO産業分析を通じて、それぞれの自治体の強み、あるいは個性を明確にしていくことはできる。一方で、ILO産業分析に限らず、地方創生を地域金融機関が進めるためには、中長期の視点での取り組みが必要である。地域銀行、信用金庫は半年、1年単位での事業計画を遂行することが主であるため、地方創生を推進する別動隊を本体から分けて設立すべきではないか。
京都大学 経営管理大学院 客員教授 加藤 晃
要約
生成人工知能(AI)の進化により、従来の静的で周期的なシナリオ・プランニングは、AIによる常時監視・自動更新を前提とした動態的戦略運用へ転換しつつある。AIは膨大な非構造化データを統合し、微弱なシグナルを検知し、複数シナリオと戦略オプションを自動生成する。一方、価値判断・問いの設定・合意形成・最終責任は人間に残る。AI時代の意思決定者には、高い倫理観を持って、判断軸の設計、曖昧さへの対応、批判的思考、問いの創造、ステークホルダー調整等が求められる。将来的にはAIが解像度の高い問いの生成、リフレーミングまで担う可能性があり、経営者の役割と競争優位の源泉が再定義される。
野村インベスター・リレーションズ エグゼクティブフェロー(野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター 客員研究員) 佐原 珠美
要約
- 価値創造プロセスは、企業が財務資本、製造、知的、人的、社会・関係、自然という6つの資本を活用して価値を生み出す仕組みを示す枠組みである。これを開示用の表現形式にとどめず価値創造ストーリーの縮図として捉え、IIRC(国際統合報告評議会、現・IFRS〔国際会計基準〕財団)が本来意図したように、組織内に統合思考を根づかせ、中長期の価値創造に関する共通認識を形成することが求められる。
- 価値創造ストーリーの重要性は、国内外の制度動向や投資家の期待にも示されている。コーポレートガバナンス・ガイドラインにおける取締役会5原則では、価値創造ストーリーを起点に「稼ぐ力」を強化する取締役会のあり方が示された。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による運用機関への調査からは、企業の重要課題を財務的影響を含めて説明することが期待されている。さらに、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準では、サステナビリティ関連のリスク・機会がビジネスモデルやバリュー・チェーンに与える影響の開示が求められている。
- こうした動向を踏まえると、価値創造プロセスは、「どんな仕組みか(ビジネスモデル)」、「何を生み出すか(アウトプット)」、「何が変わるか(アウトカム)」を論理的につなげて設計することが重要である。SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)銘柄各社も、こうした構造を明確に示している。
- また、価値創造プロセスに含める情報は、企業が何を重視し、何を軸とした価値創造を社内外の共通認識としたいのかという、経営の最上位概念によって変わる。存在意義を競争優位性に裏付けられた独自の価値創造の仕組みとして説明するのか、社会課題を競争力に変える成長を描くのか、あるいは投資対効果を主題とした企業価値向上の道筋を示すのか。いずれにしても、理念、戦略、資本、成果を俯瞰する統合思考が欠かせない。
- 価値創造プロセスの本質的な意義は、「つなぐ」ことにある。部署間の横の共通認識、経営層と現場の縦の意思疎通、さらに投資家・ステークホルダーとの社外対話をつなぐ共通言語として活用してこそ意味がある。作成自体を目的化せず、経営判断、情報開示、資本市場・ステークホルダーとの対話に結び付けることで、価値創造プロセスは対話と経営の深化に資するものとなる。
野村ホールディングス ウェルグローイング・インスティテュート 企画部長・事業開発部長(前サステナビリティ企画部長) 佐野 悠樹
野村資本市場研究所 主任研究員 磯部 昌吾
要約
- 2020年代の前半、世界の金融業界は、温室効果ガスネットゼロ運動の急速な高まりと変化を経験した。2026年現在の世界レベルでの気候変動対応は、人間活動が地球環境に与える負荷や、各地で観測される異常気象等を踏まえると、本来的に必要となる対応水準と比べて低位で推移していると考えられる。
- これまでの商業銀行や投資銀行による気候変動への取り組みは、①自社の温室効果ガス排出量の削減、②サステナブル・ファイナンスへの関与、③自社投融資ポートフォリオの排出量の2050年までのネットゼロ化、④トランジション・ファイナンス、⑤技術イノベーション支援、といった発展を遂げてきた。
- 特に上記③においては、2020年代前半を通じ、排出量の計測、目標設定、モニタリング、削減という手順・慣行を作ってきた。この底流には、個々の金融機関の単位とは異なる次元の経済・社会変革の理論、すなわち金融市場の資金フローの制御によって実体経済のあり方を変えるという「金融中心の変革の理論(Finance centric theory of change)」があった。
- もっとも、上記③の運用は、個別取引の承認審査を行う際には考慮すべき点が多く、容易ではない。取引審査に足る水準で温室効果ガスデータが正確かという問題、個別案件が帯びる事情の考慮、ステークホルダーが求める収益性または環境保全の目的への忠実義務等に留意を要す。国際金融協会(IIF)は、金融機関の影響力が過大評価されており、政府による産業政策を起点として、事業会社が事業変革を行い、金融機関はそれを可能にする(Enable)役割を担うとした。
- 2025年になると、世界各地での脱炭素に対するステークホルダーの期待が地域ごとに極端に異なるようになる中で、金融機関は、グローバル一律に2050年ネットゼロを目指すネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)から相次いで離脱し、世界各地域の事情・期待を考慮した運営を図るようになった。
- 本稿では、今後、気候変動対策が、高すぎず低すぎない水準に再度調整されると期待し、その際に、経験と実情を踏まえた方法論構築が行われるように、2020年代前半の一つの経験を記録した。野村グループでは、2025年度から新たにサステナブル技術イノベーション振興を目指した自己資金による投資を開始している。今後さらに「人々の挑戦と成長の循環」をテーマとした投資に取り組みを進展させる所存である。
西山 賢吾
要約
- 2026年に入り、日本のコーポレートガバナンス(以下CG)改革にとって重要な諸施策の改訂案が示されている。CG改革が成長戦略として位置づけられて以来10年超が経過し、改革目標実現を意識した動きの加速化を企図するものとしてこれらは注目される。
- 2021年以来となるCGコードの改訂は2026年6~7月頃に実施の方向と考えられる。CG改革の実質化に重点を置き、社外取締役の実効性向上を含む取締役会の機能強化や経営資源の適切な配分、有価証券報告書の株主総会前開示の推進などが改訂項目として盛り込まれている。また、会社法は2019年以来の改正に向け、2026年4月に中間試案がパブリック・コメントに付された。改正内容が最終的に決定するのは2027年以降になるであろう。主な内容は、従業員等に対し株式無償交付を可能にする仕組みの導入、実質株主確認制度の創設や株主提案権制度(議決権数要件など)の見直しなどである。
- その他、2023年に策定された企業買収における行動指針は、指針策定後の環境変化を踏まえた趣旨の周知等必要なアップデートが検討されている。また、支配株主を有する会社の取締役選任議案(会社提案)において、少数株主の反対が50%を超えた際に必要となる対応等を盛り込んだ少数株主保護に関する上場制度の見直しも行われる。
- CG改革が最終局面に近づく中、これからは、株主・投資家、企業ともに改革の目標達成という「結果」をより問われるフェーズに入る。CG改革は成長戦略であるという原点に立ち返り、改訂の議論を字義的な解釈論に矮小化するのではなく、「リターン向上」の実践及びそのための行動を強く意識した、本質を突く議論へ深耕していくことが望まれる。
西山 賢吾
要約
- 高市政権下での成長戦略である日本成長戦略が2026年7月21日に閣議決定され、この中で「成長志向型コーポレートガバナンス(CG)への転換」が打ち出された。そして、同日CGコードの第3次改訂と、改訂版CGコードと一体的に策定され、中長期的な企業価値向上のための実務指針となる成長投資ガイダンスが公表された。
- 成長投資ガイダンスは、「成長を志向する企業に対して、企業と投資家が、価値創造を共通言語として、成長投資の意義・時間軸・リスクとリターンを建設的に議論し、中長期的な企業価値向上に向けて成長投資を拡大する上で共通理解とすべきポイントを具体的に整理」したものである。本ガイダンスにおいて、価値創造は、「企業が事業活動を通じて、資本コストを上回るリターンを継続的に生み出すこと」とされ、その実現度合いをみる指標、共通言語としてエコノミック・プロフィット(EP)が提示された。簡潔に言えば、資本コストを上回る利益率を上げられることでEPが創造され、下回ることで破壊される。企業価値の創造や破壊が金額という形で見える化できる点がEPの大きな利点である。
- 第二次安倍政権下でCG改革が成長戦略として取り上げられて10年超経過し、企業も投資家(株主)も改革の目標達成という結果を強く意識すべきフェーズに入ったといえる。こうした環境下では、EPを共通言語とし「現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源を成長投資等に有効に活用できているか」という観点から建設的な対話を深化させることが、中長期的な日本企業の収益性・生産性の向上と投資家のリターン向上につながる。そして、それらの果実が家計にも広がり、最終的に日本経済に持続的な成長がもたらされることで、CG改革の目標達成ということができるであろう。
西山 賢吾
要約
- 野村資本市場研究所が調査した2025年度末時点での日本の親子上場企業数は、2024年度末から20社純減して160社となった。2桁純減は6年連続となるとともに親子上場企業数のピークであった2006年度に比べ親子上場企業数は6割強減少した。増減要因を見ると、減少では完全子会社化による上場廃止が最も多く、件数も2024年度を上回ったが、親会社が他の企業やファンド等に持分を売却する持分の低下の件数は2024年度を下回った。一方、増加ではTOB(公開買付)等による既上場企業の子会社化、新規上場ともに減少した。
- 6年連続で親子上場企業数の純減が2桁となった背景として「グループ経営」と「少数株主保護」が挙げられる。東京証券取引所では、投資家等への説明や情報開示に資する好事例をまとめて公表する一方、少数株主保護の観点から上場規則を一部改正し、支配的な株主を有する企業等を対象とする取締役選任議案に対する少数株主の賛否の割合、反対票を踏まえた対応等の開示の義務付けや、独立役員の独立性が認められない類型の拡充を行う。これらは2026年12月以降終了する事業年度に係る株主総会から順次適用する。
- 親子上場の動向を見る上で「グループ経営」と「少数株主保護」は引き続き重要である。企業グループ全体での価値向上を企図した事業ポートフォリオや、グループ企業の見直しの必要性及び金融資本市場からの関心は引き続き高い。加えて、少数株主保護の観点からの説明責任や開示等の要請が拡充されるとともに、その対象も「親子上場」から「支配株主の存在」に広がっている。こうした諸点を考慮すれば、今後も親子上場企業数の純減は継続する方向と考えられる。
西山 賢吾
要約
- 「不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース」(TISFD)が2024年9月23日、発足した。国際的な情報開示フレームワークを策定した気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)や自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)に続く存在とも言える。
- TISFDについては、(1)人権、ウェルビーイング、人的・社会的資本を始めとした不平等や社会関連の課題に統合的にアプローチ、(2)国際連合の「ビジネスと人権に関する指導原則」等の企業行動に関する国際基準と整合、(3)TCFD及びTNFDの開示フレームワークの4本柱と整合する形でのフレームワークを策定、(4)国際会計基準(IFRS)財団、Global Reporting Initiatives (GRI)、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)といった基準設定機関等とも連携、(5)設立パートナーに世界的に存在感がある国際機関、国際イニシアティブ、年金基金、機関投資家、事業会社等の様々なステークホルダーが名前を連ねている、といった特徴がある。これらを踏まえると、2026年末に公表予定の開示フレームワーク初版(提言)が意義のある内容になる可能性は十分にあると考えられる。
- サステナブルファイナンス市場の観点から、TISFDによる2026年末に公表予定の提言に関する主な注目点としては、(1)環境・社会・ガバナンス(ESG)の「S」の要素の投資判断に役立つ内容になるのか、(2)民間セクターによるソーシャルボンドの発行増加につながるか、が挙げられる。
西山 賢吾
要約
- 野村資本市場研究所が算出した2025年度の政策保有比率は2024年度に比べ1.7ポイント低下して27.7%、純投資比率は1.7ポイント上昇して72.3%となった。2024年度に続き2年連続で政策保有比率が1%超の低下となり、政策保有株式の圧縮は引き続き広い範囲で行われたことがうかがえる。
- 3月が本決算期であるRussell/Nomura Large Cap構成企業の1社あたりの政策保有株式の純減額は、2024年度に比べ小幅に縮小したものの高い水準が続いた。非金融では多くの政策保有を有する企業グループを中心に株式保有、資本関係の見直しが進み、金融では損害保険会社(グループ)などを中心に政策保有株式の見直しが継続していると考えられる。
- 今後を考えると、機関投資家の議決権行使基準における政策保有株式に関する基準の見直し(厳格化)が進むと見られることなどから、政策保有株式の圧縮は2026年以降も継続が見込まれる。これに加え、コーポレートガバナンス・コードの改訂等により、政策保有株式を「売らせない」問題や、政策保有株式を売却した資金の使途に関する関心が一段と高まり、エンゲージメント(対話)の主要なテーマとして取り上げられる機会もさらに増えると考えられることも政策保有株式の圧縮を後押しするであろう。
- 政策保有比率が一般的に社会的な集団などで一定の影響力を発揮するとされる30%を下回ったことで、安定株主として期待されていた政策保有の存在感低下は今後一段の加速が想定される。安定株主に頼ることが難しくなる中で企業価値の持続的な拡大を図るために、企業は上場していることを活かし、株式市場において価値創造戦略を投資家に提示して、企業経営に対する理解と支持を得ることの重要性をより強く意識する必要があるだろう。
江夏 あかね
要約
- 米国の新興企業アンソロピックが2026年4月7日に公表した「クロード・ミュトス・プレビュー」(以下、プレビュー)をきっかけに、人工知能(AI)の歴史が新たな段階に進む兆しが見られている。アンソロピックは、同年6月9日に「クロード・ミュトス5」(以下、ミュトス5)及び「クロード・フェイブル5」(以下、フェイブル5)を公表した。ミュトス5と同等の性能を有するAIは、「ミュトス級AI」と称されており、他のAIモデルに比して、サイバーセキュリティ上の弱点や欠陥、すなわちシステムの脆弱性を発見する能力が極めて高い点が特徴とされている。
- 米国政府による主な対応としては、(1)財務長官及び米連邦準備制度理事会(FRB)議長による米銀大手への注意喚起、(2)トランプ大統領による最先端のAIを事前検証する大統領令への署名、(3)政府によるフェイブル5とミュトス5の提供差し止め及び許可、が挙げられる。
- 日本政府による主な対応としては、(1)政府全体としての「Project YATA-Shield」のとりまとめ、(2)金融庁・日本銀行による「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応」の要請、(3)内閣官房 国家サイバー統括室(NCO)による「政府機関等のためのガイドライン」の改定、(4)政府による「AI基本計画」の改定・閣議決定、が挙げられる。
- ミュトス級AI等の先端AIをめぐる日米の政策面から見た今後の主な論点としては、(1)イノベーション促進とリスク対応を両立する政策を迅速かつ適切に講じ続けられるか、(2)民間セクターがAIガバナンス体制を自主的・自律的に構築できるように適切に関与・支援できるか、(3)自国の競争力を確保しつつ、サイバーセキュリティや安全保障面で国際的に適切に協調・連携していけるか、が挙げられる。
宋 良也
要約
- 中国では、人工知能(AI)の普及に伴い、AIデータセンター(以下、AIDC)の建設ラッシュが起きており、その電力消費が急速に増加するとともに、間接的な二酸化炭素(CO2)排出も増加し、環境への負担が大きくなりつつある。そのため、AIDCの省エネ・低炭素移行が重要な政策課題として浮上している。
- 中国政府は、グリーン電力の余裕ができる場所・時間に合わせて、データセンターを稼働させる「算電協同」を国家戦略として掲げた。その狙いは、計算力需要が東部沿岸地域に集中する一方で、グリーン電力資源が西部内陸地域に偏在する地理的ミスマッチと、計算処理のピークと電力供給のピークが一致しない時間的ミスマッチの解消を通じて、AIDCのエネルギー利用の効率化を図ることにある。
- 併せて、中国政府は、AIDCのグリーン電力比率や電力使用効率(PUE)に関する数値目標を設け、AIDC事業者への強制適用を進める方針も示している。同目標の達成を後押しする仕組みとして、購入を通じてグリーン電力を利用したものとみなす「グリーン電力証書」の活用を促進する方針が挙げられる。2026年6月には、AIDCのグリーン電力消費の算定にグリーン電力証書の取引分を含めることが正式決定し、その重要性が一段と高まるとみられる。
- 今後も中国においてAIDCの建設が続くとみられるが、主な注目点としては、(1)現行政策によるAIDC事業者の経営面への影響、(2)炭素排出量取引制度(ETS)の対象にAIDCが含まれる可能性、(3)各国政府との連携可能性、が挙げられる。
加藤 雅貴
要約
- 野村證券は2026年6月、シリーズ勉強会「SSBJ(サステナビリティ開示基準〈SSBJ基準〉)義務化、今後の実務の壁をどう乗り越えるか?/サステナビリティ開示の最新トレンド」の第2回として、「SSBJ義務化/サステナビリティ開示のマーケットからの視点」と題したセッションを行った。
- 本セッションでは、投資家やマーケットが実際にサステナビリティ開示をどのように見ているのかという観点から、マーケットから見た課題、良い開示のあり方のほか、投資家による統合報告書の捉え方、マーケットで重視されているテーマに至るまで幅広い論点で議論を行った。
- マーケットから見た課題、良い開示のあり方については、自社がどう評価されたいのか、どの投資家との対話を重視するのかを意識すること、理念・戦略・重要業績評価指標(KPI)・実際の成果が一気通貫でつながって見えること、経営陣が何を重要課題と認識し、課題に対峙する覚悟や熱意がどれくらいあるのかが伝わること、ガバナンスが実際に機能しているかどうかを示すこと、などの重要性が示された。
- マーケットで重視されているテーマとしては、人的資本、自然資本、気候変動関連が挙げられ、特に人的資本を例に、アウトプットの開示にとどまっている企業が多いという現状を踏まえ、経営成果にどう結びつくのかというアウトカムを定量的に示すことが重要であるとの認識が示された。
坂上 聖奈
要約
- 野村證券は2026年7月、シリーズ勉強会「SSBJ(サステナビリティ開示基準〈SSBJ基準〉)義務化、今後の実務の壁をどう乗り越えるか?/サステナビリティ開示の最新トレンド」の第3回として、「SSBJ開示義務化/開示の課題とメリット/必要なソフトウェアとAIの進化」と題したセッションを行った。
- 本セッションでは、企業の実務担当者が実際にどのようにSSBJ開示に対応しているのかという観点で、企業側から見た課題、SSBJ開示に対応するメリットのほか、必要な非財務データの整備、ソフトウェアや人工知能(AI)の利活用に至るまで幅広いテーマが取り上げられた。
- 必要な非財務データの整備に関して、企業の実務担当者によるエクセルやスプレッドシートでの運用には限界がある。監査に適切に対応するために、①全数値のトラッキングと検証可能性、②一次データ回収の正確性と実績、③適時性とアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)システム連携、④財務データとの整合性、⑤AI利活用による自動化、という5つの要件を満たすデータ基盤を構築することの重要性が強調された。
- AIの利活用に関して、企業がAIを導入することにより、実務担当者のどのような業務が効率化され、どの程度の工数が削減されるのかなどの観点から有用性が示されるとともに、AIエージェントの事例紹介も行われた。
江夏 あかね
要約
- 「不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース」(TISFD)は2026年5月26日、「人(people)」に関するリスクや機会を可視化する情報開示フレームワークのベータ版0.1(以下、β版0.1)を公表した。2024年9月に発足したTISFDは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)や自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)に続く存在である。
- β版0.1では、概念の基礎として、人に関するインパクト・依存関係・リスク・機会及びシステムレベルリスクの考え方等が紹介された。開示に関する推奨項目としては、重要性(マテリアリティ)等の一般要件とともに、TCFDやTNFDのフレームワークや国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の基準をベースに構成された4本柱(ガバナンス、戦略、影響及びリスク管理、指標及び目標)が取り上げられた。
- 日本では、2009年に人口減少が始まり、人的資本の活用も通じた企業価値向上が政策的にも後押しされており、情報開示の充実が図られてきた経緯がある。また、投資家においてもエンゲージメントのテーマとして人的資本・人権関連を取り上げることが多い傾向にある。そのような中、β版0.1ではシステムレベルリスクも含めて、「人」の要素を通じて企業価値や投資パフォーマンスに影響を及ぼし得る考え方が示された。
- TISFDでは今後、2026年後半にβ版0.2、2027年中盤にβ版0.3、そして2027年後半に最終版を公表する予定としているが、β版においても、企業にとってはリスク軽減及び機会創出を通じた価値向上、投資家にとってはより良い投資判断や企業との意義のある対話に向けた一助になる可能性があると考えられる。
江夏 あかね
要約
- ルクセンブルク大公国(以下、ルクセンブルク)は2026年2月5日、欧州で21世紀初とみられる個人向け防衛国債(総額1.5億ユーロ、発行年限3年)を発行した。同国の個人向け防衛国債の発行は、安全保障環境の悪化に伴う国防費拡大に向けた財源確保ニーズ、国民に対する投資を通じた国防への参加機会の提供、金融における先駆的な役割の発揮と個人投資拡大といった同国の政治的な意図が背景と考えられる。
- ルクセンブルクにとっては、2008年に個人向け国債を発行して以降、2026年2月の防衛国債が久々の個人向けの起債となったが、24時間未満で発行総額全てが消化された。同債券の購入者(2,380人)のほぼ全てがルクセンブルクの税務上の居住者で、受取利子に関する免税措置の恩恵を享受した。購入者にとっては、免税措置の他にも、国家による保証、固定で魅力的な利回り、年限(3年)、防衛というテーマ、が購入決定要因になったようだ。
- ルクセンブルクは2026年2月の個人向け防衛国債の発行に際して、2025年10月に防衛債フレームワークを策定したものの、2026年7月末時点では同国債を再度発行する予定を公表していない。しかし、財務省国庫局は2026年2月、個人向け防衛国債の起債の成功を受けて、同年後半に個人向けに住宅国債(housing bond)の発行を検討する旨を明らかにしている。
- 今般のルクセンブルクによる個人向け防衛国債は、同国の地政学的事情が後押ししたとも考えられ、2026年7月末時点で他国において同様の動きは観察されていないものの、世界の国債市場の歴史に記録される事例だったと言える。
野村 亜紀子
要約
- 2026年度は、2025年の確定拠出年金(DC)法令改正が相次ぎ施行される。2026年4月のマッチング拠出(企業型DCの加入者拠出)の規制緩和に始まり、同年12月には拠出限度額の引き上げ、iDeCo加入可能年齢の上限引き上げが予定されている。企業においてはこれらの改正をどう活かすかの意思決定が求められる。
- 野村資産形成研究センターが2025年9月に実施した「従業員1万人アンケート2025」によれば、企業型DC加入者は非加入者に比べてファイナンシャル・ウェルネス(金融面の幸福度)や人生満足度が高く、勤務先への誇りや生産性の自己評価も高かった。企業型DCの制度改善は、企業にとって人的資本拡充に繋がりうることが示唆された。
- マッチング拠出は現状、導入済み企業の加入者が全体の5割程度で伸び悩んでおり、多くの企業による導入の検討が期待される。その上で、加入者による利用促進の取り組みも重要である。拠出限度額や加入可能年齢の引き上げについても、企業はこの機会に、制度設計の見直しや総合的なファイナンシャル・ウェルネス支援拡充の検討が求められる。
- 2027年度には「企業年金の運用の見える化」の施策に基づき、加入者が自社のDC制度を同業他社等と容易に比較できるようになる見込みである。企業の行動力は、制度改正が加入者により有効活用されるかどうかを左右する。企業の積極的な取り組みに対する期待は大きい。
江夏 あかね
要約
- 兵庫県は2026年7月13日、第2回持続可能な財政運営検討会(以下、検討会)を開催し、(1)過去に発行した公共用地先行取得等事業債(以下、用先債)の取り扱い、(2)公債費負担適正化計画(素案)、について取り上げた。
- 同県では、2020年度に借換債として発行した用先債が地方財政法に抵触する可能性のある起債だったと判明したことを受けて、実質公債費比率の算定をめぐって、県債管理基金の過去分の数値を修正するとともに、今後(2025年度決算以降)について算定方法を見直すとした。
- 兵庫県は、2025年度決算において実質公債費比率が18%を超え許可団体になる見込みとなったことを受け、公債費負担適正化計画の策定を進めている。素案では、実質公債費比率の適正管理のための方策を2段階で進めることが示された。1段階目では、計画期間(2026~2035年度)内の実質公債費比率を早期健全化基準である25%を上回らない形が想定され、2段階目では、2028年度以降に改めて同比率を18%未満に抑制することを目指す計画を策定するとした。
- 兵庫県をめぐっては、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災に関する復旧・復興関連の負担が重く、今般の発表も通じて、財政の厳しさが改めて露呈したとも言える。しかし、再び許可団体として公債費負担適正化計画の策定・提出義務が生ずる予定であるものの、国による監視も背景に、より確実に財政の適正化が進められる可能性がある。
- ただし、今後も兵庫県が地方債を通じた資金調達の安定性を確保するためには、投資家も含めたステークホルダーに対して、説明責任を果たし、ガバナンスの実効性を示していくことが不可欠と言える。さらに、過去に行われた財政課題の先送りとも言える不透明な手法については、先送りせずに決別していくことが金融資本市場からの信認を確保し続けるために大切と考えられる。
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