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2019年

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野村資本市場クォータリー2019年冬号 2019 Vol.22-3 WINTER

時流
ESG投資はどこに向かうのか 要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
特集:気候変動リスクと金融
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
金融・証券規制
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
金融機関経営
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
コーポレートファイナンス
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
金融イノベーション
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
個人マーケット
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
ESG/SDGs
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
中国・アジア
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
要約
時流 ESG 投資はどこに向かうのか 高崎経済大学経済学部教授
水口 剛

2018年10月、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)の理事選で、現職候補だったプリヤ・マサー(Priya Mathur)氏が敗れた。当選して新理事となったジェイソン・ペレズ(Jason Perez)氏は、選挙戦で「マサーはESGを優先することで基金の財産をリスクにさらした」との批判を展開した。
同年6月、全米製造業者協会(NAM)は『政治的、社会的、環境的株主提案:株主価値を創造するのか、破壊するのか』と題した報告書を公表し、気候変動に関わる株主提案は株主価値の向上に寄与していないと主張した。
今後、ESG投資がさらに広まれば、反動も増えるだろう。その反動は次のような批判の形をとるに違いない。「そのESG課題は投資利益に関係しない」「そのエンゲージメントは企業価値の向上につながっていない」などである。

英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク 板津 直孝片寄 直紀
  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
TCFDの提言に基づく法定開示の動き
−大手資源会社BHPビリトンの事例を中心に−
板津 直孝
  1. 気候変動が経済全体に大きな影響を及ぼすことが世界的に認識されるようになり、金融資本市場においても、気候関連のリスクが企業に与える影響に注目が寄せられている。企業は、自社事業に影響を及ぼす低炭素経済への移行政策を経営課題として捉え、企業の持続的成長の可能性を積極開示することで、ESG投資を進める機関投資家の支持を得る必要がある。
  2. 化石燃料ベースのエネルギー・セクターは、低炭素経済への移行に伴う政策等の影響をより大きく受ける。機関投資家によるダイベストメント等の事例も、確認されている。そのようなセクターの先行事例として、世界最大手の資源会社であるBHPビリトンは、法定開示書類である年次報告書において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を網羅的にしている。
  3. 石油、ガス、エネルギー用石炭の事業について大きな権益を有する同社であるが、持続的成長を実現できることを機関投資家に対し積極的に示すものとなっている。同社が開示した気候関連財務情報は、多くの企業にとって参考になるといえよう。
  4. 日本においても、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の提言と内閣府令の改正により、有価証券報告書を念頭に、非財務情報の開示の充実に向けた取組みが進められている。TCFDの提言に基づく法定開示の環境が、整備されてきており、気候変動に対する日本企業のレジリエンスを、法定開示によって積極的に示すことが、今後、期待される。
TCFDによる現状報告レポートの公表 江夏 あかね
  1. 金融安定理事会(FSB)の下部組織である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は2018年9月、2017年6月に公表した提言の浸透状況を示す現状報告レポートを公表した。
  2. 現状報告レポートは、TCFD提言に基づく実際の開示状況に加え、企業が提言に沿った開示を行う際に有益と思われる追加的情報(情報開示事例等)で構成されている。
  3. 現状報告レポートにおいては、2017年6月の提言から1年余りしか経過しておらず、企業が既存の情報開示の枠組みに提言を取り組むために十分な時間がなかった感は否めない。また、提言は、ある程度浸透しつつあるものの、情報開示の充実に向けた一層の取組みが求められると言えよう。
  4. TCFDは、FSBにより設置された国際的に注目されるタスクフォースである上、国際連合の責任投資原則(PRI)やパリ協定の流れの中で投資家が気候関連財務情報の開示に関心を高める傾向は世界的に続くとみられる。これを踏まえると、2019年半ばにも予定される現状報告レポートの第2弾も含めて、企業・投資家ともにTCFD関連の動きを注視することが重要であると考えられる。
リスク・プロファイルを踏まえた米国銀行規制の再構築
−テイラード・アプローチのさらなる発展−
小立 敬
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は2018年10月、大手銀行のリスク・プロファイルを踏まえたテイラード・アプローチに基づいてプルーデンス規制の枠組みの改定を図る規則提案を行った。テイラード・アプローチの下、連結総資産1,000億ドル以上の銀行持株会社は、カテゴリーIからカテゴリーIVまで4つのカテゴリーに区分される。
  2. カテゴリーIは米国G-SIBsが該当し、カテゴリーIIおよびIII、IVについては、総資産の規模で閾値が設けられている。さらに、金融機関のリスク・プロファイルをより反映させる観点から総資産に加えて、法域間業務、ノンバンク資産、短期のホールセール・ファンディング、オフバランス・エクスポージャーもカテゴリー分けの際に考慮される。各カテゴリーで、適用される自己資本規制や流動性規制は、カテゴリーに応じて厳格さが異なる仕組みとなっている。
  3. 一方、連邦銀行当局は2018年11月に連結総資産100億ドル未満の中小規模の預金取扱機関を対象として資本規制の簡素化を図る規則提案も明らかにしており、米国の預金取扱機関の83%には、米国独自のコミュニティ・バンク・レバレッジ比率が適用され、バーゼルIIIベースの自己資本比率やレバレッジ比率が適用されないことになる。
  4. 2つの規則提案は、銀行のプルーデンス規制について、リスク・プロファイルをより反映させた枠組みに改定することを狙いとしており、その背景には、金融規制の特性は金融機関の特性に合わせるべきとの考え方が存在する。また、米国では、トランプ政権下で金融規制の見直しが行われており、米国外の規制当局者には、米国が国際合意から離れて独自に規制緩和を進めることに警戒心があったが、大手銀行に適用されるプルーデンス規制に関しては、国際基準を尊重する姿勢が窺われる。米国が国際協調を乱す懸念は金融規制に関しては大きく後退したように思われる。
簡素化及び明確化に向けて第一歩を踏み出すボルカー・ルール 岡田 功太
  1. 連邦準備制度理事会(FRB)等の米当局は2018年5月、ボルカー・ルールの規則改正案に係るパブリック・コメントの募集を開始した。ボルカー・ルールとは、ドッド=フランク法619条(2010年7月に成立)と、同法の要請を受けて策定されたボルカー・ルール規則(2013年12月に最終化)から成る。今般公表されたボルカー・ルール規則改正案とは、後者の改正を目指すものであり、市場参加者から3,700を超える意見が提出された。
  2. ボルカー・ルールは、銀行に対して、(1)自己勘定取引の禁止、(2)プライベート・エクイティ・ファンドやヘッジファンド(対象ファンド)への出資等の制限、(3)これら業務に対するコンプライアンス規定の整備を求めており、預金保険などの公的なセイフティネットの恩恵を受けている銀行は、貸出等の対顧客ビジネスに特化すべきという考え方を有する。しかし、ボルカー・ルールは、禁止されている自己勘定取引と、許容されている業務を明確に区分するのは容易ではなく、同ルールに対する批判は絶えない。
  3. 市場参加者からは、自己勘定取引の禁止除外要件の柔軟化、対象ファンドから除外されるファンドの範囲拡大、銀行の規模に応じたコンプライアンス・プログラムの軽減等が提言された。しかし、米当局が示した規則改正案の中には、市場参加者の反対が強いものも含まれている。例えば、当局は、自己勘定取引の要件に会計テストの導入を提言したが、その結果、銀行が保有するデリバティブや売却目的の証券が自己勘定取引禁止の対象に該当することになり、実務対応の混乱を助長する可能性がある。
  4. ボルカー・ルール規則の改正については、今後も十分な議論が必要であり、改正が実現するには時間を要すると見られる。他方、今般の規則改正案の公表は、簡素化及び明確化の実現に向けた第一歩であると評価できる。今後、ボルカー・ルール規則の詳細について議論が進展し、銀行エンティティの実務対応負担を軽減しながらも、ボルカー・ルールの本来の政策目的に適合した形で、同ルールの枠組みの修正につながることが期待される。
フリーランスとFIREの台頭が金融業に示唆するもの 淵田 康之
  1. 米国においては、フリーランスとしての収入がある者が労働者の3割を占めるようになっている。また質素・倹約と資産形成に注力し、30代や40代前半など、早期に退職するライフスタイル、FIRE(Financial Independence and Retire Early)も注目されている。
  2. 両者に共通するのは、組織にコントロールされない生き方を重視する点、そして若い世代によって支持されている点である。米国に限らず世界の若者の間では、2年以内に今の職場を辞めたいという者が多数派となっているとの調査もある。
  3. フリーランスが求める金融サービスとして、まず重要なのは即時決済の環境である。この他、FinTechが提供する、銀行口座やカードのデータと連動した経費管理や税務関係のサービス、そして融資サービスへのニーズも高い。
  4. フリーランサーは雇用されていないため、企業の退職貯蓄制度を利用できない。またFIREにおいては、早期の退職時に退職貯蓄を引き出す例も多い。こうしたことから、米国では、人々の働き方の変化に応じ、退職貯蓄制度を見直すべきとの声もある。
  5. 既存の金融機関を退職し、独立金融アドバイザーとなる者が増大している点も、米国における働き方の変化の一側面である。
  6. わが国のフリーランサーは、労働者の17%と米国より比率は小さいが、伸び率は米国以上とされる。わが国でも、フリーランサー向けの金融サービスが登場している。
  7. わが国政府も「一億総活躍社会」、「働き方改革」の観点から、フリーランサーも視野に入れた制度改革を積極化させつつある。今後は、決済改革、そして多様な働き方、多様な生き方の時代にふさわしい資産形成の仕組みの検討なども重要となろう。
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向 岡田 功太下山 貴史
  1. 近年、米国では、独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が存在感を増している。米国のIFAとは、大手証券会社の常勤職員ではない営業担当者、または、個人向け営業に特化した独立系の金融機関を指す。米大手証券会社に所属する営業担当者数は、過去6年間で5.1万人から4.7万人に減少しており、そのうち一部はIFAへの転身によるものだった。
  2. 米国のIFAは、証券取引員委員会にブローカー・ディーラーとして登録する者と、投資顧問業者(RIA)として登録する者に大別され、前者は主にコミッション型サービスを提供し、後者は残高フィー型サービスを提供する。過去6年間にブローカー・ディーラー登録者数は減少している一方で、RIA登録者数は増加している。この背景には、米労働省が公表したフィデューシャリー・デューティー規則において、残高フィー型サービスの提供者は同規則の一部が免除されることなどがある。
  3. 営業担当者がIFAに転身する理由としては、米大手証券会社の文化や経営陣に対する不満が挙げられる。例えば、2016年に発覚したウェルズ・ファーゴの不祥事においては、営業担当者に過度な収益増加圧力をかけていたことが明るみになった。自身の考えに基づき、顧客の最善の利益に資する投資アドバイスを提供することを、従来以上に志向する者が出始めている。
  4. 米大手証券会社に勤務しなくても、同様の営業活動を展開する環境が整備され始めている点も注目に値する。米国では、LPLファイナンシャルやレイモンド・ジェームズ等のIFAサービス提供会社が、営業担当者に対して、魅力的な報酬制度、必要な研修プログラム、オンライン上の口座開設、調査レポート、カストディや売買注文の取引執行、コンプライアンスシステム等を包括的に提供している。
  5. 近年、日本においてもIFAが登場し、資産運用サービスの提供も始まっているが、日本のIFA業界はまだ黎明期であり、米国のように、包括的なサービスをIFAに提供する金融機関が存在するとも言い難い。今後、日本でもIFA業界が米国のように発展していくのか、そして個人投資家にとっての選択肢の増加につながるのか、注目に値する。
パッシブ運用の増大に伴うコモン・オーナーシップを巡る議論 神山 哲也岡田 功太
  1. 近年、欧米において、コモン・オーナーシップ(共通株主)を巡る議論が活発化している。コモン・オーナーシップとは、特定の産業において、競合関係にある複数企業の株主が一部の機関投資家に集中している株式保有の構造を指す。注目すべきは、コモン・オーナーシップ下にある複数企業同士において競争のモチベーションが後退するのではないかという、競争政策上の懸念が指摘されている点である。
  2. パッシブ運用の規模拡大が、コモン・オーナーシップの問題を惹起している側面もある。パッシブ運用会社は、連動先のインデックスの構成銘柄変更時以外は、同ファンドのポートフォリオの構成銘柄を変更することがないため、同一産業内に複数銘柄を保有した状態が維持される。現在、主要なパッシブ運用会社であるブラックロック、バンガード、ステート・ストリートは、S&P500指数を構成する企業のうち約90%(企業数ベース)の筆頭株主となっている。
  3. 米国では2014年頃から、コモン・オーナーシップ関係が強まった企業間の競争が阻害され、顧客に対するサービスの価格が上昇したなどとする学術論文が出始めた。その後、反トラスト法などの複数の学者が、法学的観点に基づいて、機関投資家は寡占市場における1社のみに投資を認めるという制限等の政策提言を行った。しかし、そのような政策提言については、機関投資家のポートフォリオの分散投資の原則に反しているなど、批判も多い。
  4. コモン・オーナーシップに係る議論は欧州にも波及し、英国政府はOECDに対して、英国のコモン・オーナーシップの状況に関する調査報告書を提出した。また、欧州委員会は、米化学大手ダウ・ケミカル及びデュポンの合併承認に際し、当該2社がコモン・オーナーシップ下にあることに基づき、デュポンに対して殺虫剤事業の大部分を売却等することを条件とした。コモン・オーナーシップが当局の公式な意思決定時に考慮された事例である。
  5. コモン・オーナーシップによる競争制限の可能性については賛否両論あるものの、今後も、ETF等のパッシブ運用ファンドが増加する可能性がある中、コモン・オーナーシップを巡る議論の行方は注視しておく必要があろう。
デジタル・プラットフォーマーの戦略とデータの価値を巡る議論
−ビジネスモデルの特徴と金融サービス業への示唆−
伊藤 健(野村證券金融工学研究センター)佐藤 広大
  1. 今日、マーケットや顧客行動に関するデータを収集・分析することが、企業の競争力向上の鍵となるという認識が広まっている。背景として、顧客データは金銭と同様に経済的価値を持つという見方も生まれており、データの価値は、データ利活用方法やビジネスモデルと密接に関連すると考えられる。本稿では、近年急成長を遂げたデジタル・プラットフォーマーと呼ばれる新興IT企業群のデータ活用戦略について考察する。
  2. GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーとは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業である。ビジネスモデルの特徴としては、第一に、二面(多面)市場を運営している点、第二に、ネットワーク効果を用いてプラットフォーム参加者を誘引している点、第三に、データ分析を基にアルゴリズムによる効率的なマッチングを斡旋している点が挙げられる。
  3. プラットフォーマー型金融サービスは以前から存在し、例えばVISAなどのカード会社は、加盟店と消費者をつなぐ二面市場を運営している。加えて、IT業界発のデジタル・プラットフォーマーが金融サービス業に進出する動きも散見されるが、進展度合いは国・地域によっても異なる。
  4. デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルを、金融サービス業の視点で取り入れようとする金融機関の取り組みも始まっている。データ分析を基に、優れた利便性や顧客体験を提供し続けることで拡大していったIT業界発のデジタル・プラットフォーマーのデータ戦略は、金融サービス業にとっても示唆となる要素は多く、引き続き注目されよう。
金融資産非保有世帯はなぜ減少したのか 宮本 佐知子
  1. 金融広報中央委員会では毎年、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施しているが、今回の調査結果では、「金融資産を持っていない」とされる金融資産非保有世帯の割合が、過去最高となった2017年に比べて、2018年に大きく減少したことが注目されている。二人以上世帯の場合、金融資産非保有世帯割合は2018年には22.7%となり、2017年(31.2%)から8.5%pt減少した。
  2. そこで、上の減少の理由を探るため分析を行っている。まず、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合について、主な属性別にどのような変化があったかを確認した。具体的には、年齢、職業、年収、世帯類型、就業者数、地域の属性に注目して、2017年と2018年の金融資産非保有世帯割合の変化を見たところ、ほとんど全ての属性階層で同割合は減少していることがわかった。そのため、これらの属性間で共通する要素が、金融資産非保有世帯割合を減少させたと考えられた。
  3. 次に、関係がありそうな質問への回答結果を整理した。その結果、収入からの貯蓄、金融資産、借入等の家計資産を取り巻く環境変化は、金融資産非保有世帯割合の減少を示唆するものではなく、むしろ、金融資産の有無を尋ねる質問の仕方の変化による影響が大きかったと見られた。また、金融制度の拡充も、限定的だが影響したと見られた。
  4. そのため、2018年の金融資産非保有世帯割合の方がより実態に近づいたと考えられる。ただし、現在の金融資産非保有世帯割合の水準は、必ずしも楽観できるものではない。近年の社会構造の変化等により、万一の備えや老後のために、資金を準備しておく重要性は増しているにもかかわらず、同調査結果では実際に生活設計や資金計画を立てている人は限られることが示されている。今後は、家計が将来に備えるために利用しやすい金融制度を、一層充実させることが期待されよう。
日本の個人投資家とESG投資
−関心は高まるがさらなる認知度向上への取り組みも必要−
西山 賢吾
  1. 我が国の個人投資家に対するESG投資に関するアンケート調査(2018年12月公表)の結果を見ると、企業のESGへの取り組みに対し、『関心がある』との回答割合が過半を超えたが、『関心はない』との回答も4割弱に上った。また、回答者の年齢別に見ると、概ね年齢の高い回答者の方が『関心がある』と回答する傾向にあるという結果となった。
  2. 株式投資におけるESG要素の考慮については、『投資収益率が大事ではあるがESG要素もある程度考慮する必要がある』との回答が約50%となり、前回調査(2017年10月公表)と比べても4%ポイント強上昇した。さらに、『よくわからない』と、『投資収益率よりESG要因を考慮する必要がある』の回答割合が低下する一方、『投資収益率が重要であり、ESG要素を考慮する必要はない』との回答割合は上昇した。投資リターンを重視しつつも、ESG要因もある程度考慮しながら株式投資を行う個人投資家の姿勢がうかがわれる。
  3. ESG関連金融商品への関心については、2018年12月調査で『関心はない』と回答した割合が2017年10月に比べ低下したが、なお40%を超えている。一方、関心のあるESG関連金融商品の中では、特に『コーポレートガバナンスに優れた企業に積極投資をする投資信託』や『環境に配慮した企業に積極投資を行う金融商品』が、世代を問わず回答割合が相対的に高かった。
  4. 欧米では個人投資家がESG投資に高い関心を持っているとのアンケート結果が見られるが、今回紹介したアンケート結果や、個人向け金融商品におけるサステナブル投資残高から見ると、我が国でのESG投資への関心は、緩やかに高まってきつつあるものの、欧米と比較するとまだ発展途上と考えられる。個人投資家のESG投資に対する関心を高める取り組みが今後様々な局面で行われることに期待したい。
ASEAN域内のグリーンボンド市場の動向と今後の注目点 富永 健司北野 陽平
  1. 近年、グリーンボンドの発行体の地域が多様化する中、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内の発行体によるグリーンボンド発行は2016年に始まり、2018年末までに計45億米ドルが発行されるに至っている。背景として、ASEAN各国も地球温暖化対策を定めた国際枠組みであるパリ協定に署名しており、温室効果ガス排出削減に取り組んでいることなどが挙げられる。
  2. グリーンプロジェクトのための資金調達手段としてグリーンボンドの重要性が高まりつつある中で、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)は2017年11月、ASEANグリーンボンド基準(AGBS)を公表した。AGBSの目的は、グリーンボンドの透明性、一貫性、統一性の向上を通じて、域内のグリーンボンド市場を発展させることである。
  3. 各国レベルでも、金融規制当局等により、グリーンボンドの発行拡大を目的とした様々な取り組みや施策が行われている。インドネシアではASEAN域内初のソブリン・グリーンスクーク発行、マレーシアとシンガポールでは発行補助スキームの導入、フィリピンとタイではAGBSを活用した発行ガイドラインの策定といった動きが見られる。
  4. 現時点では国内投資家の関心が高いとは言い難いものの、ESG投資にコミットする動きはASEAN域内における機関投資家等の間で広がりつつある。今後、機関投資家や個人富裕層の間でESG投資が普及すれば、グリーンボンドへ投資の拡大につながる可能性がある。
  5. ASEAN域内ではグリーンボンド発行の動きは緒についたばかりである。グリーンボンド市場において、発行促進のためにどのような施策が講じられていくのか、また投資家がグリーンボンドに資金を配分する動きが広がっていくのか、今後の動向が注目されよう。
中国における「上場会社ガバナンス準則」改訂版の公表
−ESGファクターや機関投資家の役割を重視−
関根 栄一
  1. 2018年9月30日、中国証券監督管理委員会(証監会)は「上場会社ガバナンス準則」の改訂版を公表した(即日施行)。今回の改訂版は、2002年1月7日に当初版が制定・実施されて以来、経済協力開発機構(OECD)のコーポレート・ガバナンス原則の改訂を踏まえながら、約16年8カ月ぶりの見直しとなった。
  2. 改訂版では、機関投資家を通じたガバナンスの強化、個人投資家の保護の強化、監査委員会の設置義務化に加え、国連気候変動枠組条約の批准等を踏まえたESG(環境、社会、ガバナンス)ファクターが重視されていることが特徴である。同ファクターのうち、上場会社の環境情報の強制開示制度について、証監会は環境保護部と既に検討中である。
  3. 改訂版には、上場会社における中国共産党組織の展開に関する規定が設けられており、外部株主から、党組織によるガバナンスの行使の面での懸念も出てこよう。改訂版の公布を踏まえ、今後、証監会による関連規定の見直しや、証券取引所等による自主規制の修正作業も注目される。
躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
−インターネット産業の発展を中心に−
関 志雄
  1. 情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。
  2. 中国では、(1)インターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いること、(2)インターネット業界の御三家であるバイドゥ、アリババ、テンセントが優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されていること、そして、(3)新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させていることが、デジタル・エコノミーの発展に良い環境を与えている。
  3. テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーンと呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。
規制緩和が進む中国の越境証券取引制度と上海・ロンドンストックコネクト 関根 栄一
  1. 2018年4月のボアオ・アジアフォーラムでの習近平国家主席の対外開放拡大宣言を機に、中国の越境証券取引制度の制度改革・規制緩和が加速し始めた。新規では、預託証券(DR)方式を採用した上海・ロンドンストックコネクトの導入が挙げられる。
  2. 既存の越境証券取引制度の規制緩和では、適格外国機関投資家(QDII)の運用枠の認可再開、中国国内の特定投資家向けの海外運用枠の拡大、適格海外機関投資家(QFII)等の海外への資金持ち出しの緩和などが国家外為管理局によって行われている。
  3. 新規の越境証券取引制度では、他に、「外国籍」投資家によるA株投資の規制緩和、H株(香港上場の中国株)の全株流通やD株(ドイツ上場の中国株)の新規発行が中国証券監督管理委員会によって進められている。
  4. 日本からの対中証券投資では、日本の金融機関による人民元建て適格外国機関投資家(RQFII)の新規運用枠の活用や、ボンドコネクトを通じた債券投資が始まっている。上場投資信託(ETF)の東京・上海の相互上場も含め、今後の対中証券投資ルートの拡大の動きが注目される。
中国の私募ファンドにおける販売チャネルと受託管理業務の変化 宋 良也塩島 晋
  1. 近年、中国の私募ファンド市場は顕著な成長を示しており、2018年9月末時点での資産規模は12.8兆元(約208兆円)に達し、日本の私募投資信託市場の資産規模に比べ2倍以上となっている。
  2. 私募ファンド市場が急成長してきた背景には、(1)私募ファンドが基金業協会の管理下に置かれたことで柔軟な運用が可能となり、運用コストが低減したこと、(2)未上場企業による新三板への登録により、私募エクイティ投資ファンドの投資回収手段が多様化したことなどで、富裕層個人投資家を中心に需要が急増したことが挙げられる。一方で、銀行理財商品経由で私募ファンドに流入した資金も多く、今後、理財商品への規制が強化された場合の影響に留意する必要があるとされている。
  3. 私募ファンドの代理販売は、銀行及び証券会社が中心だったが、2012年2月以降、顧客に投資アドバイザリーサービスを提供する第三方理財会社も参入している。また、私募ファンドの受託管理機関(カストディアン)は、銀行及び証券会社に委託する必要があるが、証券会社を選択する運用会社が多いのが現状である。
  4. 今後、私募ファンドが直面する課題として、資産管理業務への規制強化と銀行理財商品向けの規則の標準化が進む中、銀行理財商品に依存しない資金調達ルート及び、銀行と私募基金管理人の新たな協力関係の追求が挙げられる。私募ファンド業界の拡大を担ってきた各プレイヤーが、今後どういう動きを取っていくのかが注目されよう。
野村資本市場クォータリー2019年冬号 ウェブサイト版掲載論文

金融・証券規制
猶予期間が残り約1年となったEUベンチマーク規則
−第三国指標の利用と金利指標改革への影響−
PDF
磯部 昌吾
米国における「大き過ぎて潰せない」金融機関の解体法案 PDF
岡田 功太
金融機関経営
米国大手金融機関のIT人材確保に向けた施策
−スタートアップ買収・出資、NPOの活用等−
PDF
竹下 智
財政・地方債
2019年度地方債計画
−幅広い投資家層が求める魅力的なIRの重要性−
PDF
江夏 あかね
ESG/SDGs
議決権行使助言会社大手ISS日本向け議決権行使方針(2019年) PDF
西山 賢吾
有価証券報告書等の記載事項等に関する改正案の公表
−コーポレートガバナンス改革の課題への対応−
PDF
西山 賢吾
ガバナンス改革の実効性向上を目指しフォローアップの議論再開 PDF
西山 賢吾、片寄 直紀
個人マーケット
個人金融資産動向:2018年の回顧と今後注目すべき潮流 PDF
宮本 佐知子 


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