「貯蓄から投資へ」の議論に象徴されるように、わが国金融システムにおける証券市場の役割を増大させる必要性が強調されてきたが、証券市場のボリューム拡大のみならず、そのクォリティの向上という視点が重要である。 もちろんこれまでの証券市場、ひいては市場型金融振興のための諸施策は、市場のクォリティの向上に関わるものが各種含まれており、クォリティ向上は市場型金融拡大の重要な手段であった。しかし、本来、クォリティの向上は、手段に留まらず、それ自体、重要な目的として位置づけられるべきである。 市場型金融のボリュームは、歴史的経緯や経済実態によって影響されるが、ボリュームの大小を問わず、市場を活用した金融が経済システムの中で一定の役割を果たしている以上、その市場機能を極力クォリティの高いものとするよう心がけていくことは、関係者の当然の責務と言える。 この観点からすると、昨今、市場型金融が最もあたりまえに機能していてしかるべき伝統的な証券市場において、そのクォリティに疑念を抱かせるような事態が頻発していることは問題である。しかも、こうした問題の一部は、証券市場振興を目指して行われてきた証券会社の新規参入促進策、新興企業株式市場の創設、株式分割といった諸施策の副作用として発生していると言わざるをえない面もあることは残念である。 こうした問題が発生する度に、規制強化や監督機関の強化を求める声が上がるのが常であるが、以下に示すように、市場のクォリティの向上には、法制度や公的監視機関の強化だけではなく、市場参加者自身の自己規律や自主規制の向上も不可欠である。お上頼りに陥るのではなく、こうした関係者の自主的な努力が功を奏すれば、徒に規制強化や官の権限強化が進むことも避けられる。 こうした観点は、後述するように、昨今の証券市場における問題を議論すべく、2006年3月、金融庁の金融監督局に設置された「証券会社の市場仲介機能等に関する懇談会」でも強調された所である。 以下、証券市場のクォリティ向上を実現する上で重要と思われる点を整理し、最後に上述の懇談会の内容についても、若干紹介することとしたい。なお、市場のクォリティ向上においては、企業自身のガバナンスや内部統制、及び会計監査法人等のファイナンシャル・ゲートキーパーの役割も重要であるが、これらについては、既に他でも論じられているので、本稿では扱っていない。
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