野村資本市場クォータリー 2015年冬号
マイナスに転じたわが国の家計貯蓄率と個人金融資産の今後
宮本 佐知子
要約
  1. 2014年末に内閣府から公表された国民経済計算確報によると、2013年度の家計部門の貯蓄率は-1.3%(2013年暦年では-0.2%)と、統計をほぼ同じ基準で遡ることのできる1955年以来初めてマイナスに転じた。貯蓄率は、景気変動や資産価格変動、社会保障制度や将来不安(予備的貯蓄)等も影響するが、本稿では長期的に影響を及ぼす人口要因に焦点をあてて議論したい。
  2. 筆者は、貯蓄率が一時上昇に転じていた2010年時点に、個人金融資産の中期展望に関する論文で家計部門の貯蓄率がマイナスに転じる見通しを出していたが、これは、(1)人口減少時代に入ったわが国では、個人金融資産市場が大きな転換期を迎えていること、(2)少子高齢化の進展に伴い「貯蓄する人」が減少する一方、「貯蓄を取り崩す人」が増えること、などの点を分析した結果であった。
  3. そこで本稿では、足元の動きを確認した上で、新たに2030年までの推計を行ったところ、急速な高齢化と退職世帯の資産取崩の影響により、家計部門の貯蓄率が長期的にはマイナス幅が拡大し、金融資産残高は減少して行くとの結果が得られた。
  4. 今後、個人金融資産を減らさないという視点は、金融市場の安定を維持するためにも、今後の成長を支える原資を確保するためにも大切になる。そのための方策として、生産性や労働力率を引上げて経済成長率を高めたり、家計資産の収益率を引上げることが考えられる。現在の政策議論の潮流において、国民の資産形成支援とリスクマネーの供給は、重要なテーマである。家計の資産形成を支援するような制度を拡充させ、家計が自らの努力で資産を増やすためのツールや機会を充実させることは、今後も望まれよう。
  5. 地域ごとの個人金融資産を考えると、わが国全体と比べて、より早い時期に、素早いペースで減少して行く地域も多いと予想される。このため、個人金融資産を減らさないような施策を実施するに当たっては、国単位だけでなく地域単位で取組むこと、地域の個性に合った施策を行うことも大切だと考えられる。

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