野村資本市場クォータリー 2016年春号
残高増加が続く米国教育ローン市場
-金融危機後に見られた新たな動きと内在する問題点-
宮本 佐知子
要約
  1. 米国では、教育ローンの残高増加が続いている。NY連銀統計によると、残高は1.2兆ドルを超え、過去10年間で3.2倍と急速な拡大を遂げてきた。また米国では、金融危機を境に家計の主要負債は減少する中で教育ローンは増加し続けており、現在では教育ローンは家計にとって住宅ローンに次ぐ大きな負債項目になっている。
  2. 米国の教育ローン市場で圧倒的なシェアを占める連邦教育ローンは、近年大きな変化を遂げてきた。第一に、金融危機に対応した政策措置が次々と打ち出され、連邦教育ローンの存在感が一層増したこと、第二に、オバマ政権の改革により、連邦教育ローンは政府から直接貸出される仕組みへ移行したことである。これらの結果、連邦教育ローン残高は金融危機後も増加し続けている。
  3. 民間教育ローン市場では、金融機関の戦略に新たな動きが見られている。金融危機を境にビジネスを縮小または撤退する大手金融機関が相次いだ一方で、戦略を大きく見直した金融機関がビジネスを拡大させている。リファイナンスを通じてフィンテック企業も急速に台頭しており、同市場のメインプレーヤーは金融危機前に比べて大きく変わっている。
  4. 教育ローンを巡る問題については近年、政府や議会でも様々な議論がなされている。「教育」という限定された分野にとどまらず、家計の消費行動や金融市場全体にも関わる問題として、マクロ政策的観点からもクローズアップされている。また、大統領選でも論点の一つに取り上げられている。
  5. 一方で、政府や議会では「教育支出に予め備えること」の重要性にも、改めて注目している。米国の代表的な教育資金形成制度である529プランは、将来の大学進学で必要となる教育資金形成のために税制優遇を付すことで家計の自助努力を支援する仕組みであり、金融危機を経て一層の普及が進んでいる。
  6. 米国の教育ローン市場は、日本と比べて制度や慣習、発展経緯など異なる点も多い。しかし、大学授業料の値上がりや、財政状況が悪化し公的補助が限られることを背景に、高等教育費の手当が家計側で大きな課題となっている点は日米で共通する。米国教育ローン市場の動向やそれを巡る議論は、今後の日本でも参考になろう。

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