金融イノベーション

AgeTech:エイジテック(高齢者×テクノロジー)
-日本の最も深刻な社会課題を「産官学+高」で戦略資産に変える-

竹下 智

要約

  1. 急速な高齢化の進展を背景に、高齢化する社会の様々な課題をテクノロジーの力で解決しようとする「AgeTech(エイジテック)」に対する関心が高まっている。エイジテックは、加齢により不自由になった身体機能をテクノロジーで支援することにとどまらず、健康で活動的な高齢者のより良い生活を支援するためのものである。
  2. 日本は世界で最も高齢化率の高い国の一つであると同時に、エイジテックの潜在市場規模でも世界トップクラスであり、成功したビジネスモデルや製品・サービスを将来、他国に展開するという観点でも有望な市場である。
  3. 高齢化がもたらす多くの課題のなかから、介護士の人材不足、介護による離職防止、社会的孤立と孤独、高齢者の移動サポート、癒し系ロボット、引退後のデキュミュレーションに取り組むエイジテック・スタートアップが生まれてきている。
  4. フランスの「Silver Valley(シルバーバレー)」およびカナダの「CABHI(カビー)」は国をあげたエイジテック・スタートアップ育成への取り組みである。注目すべき点は、高齢者向けの新しい商品・サービスの開発に関して、実際の利用者となる高齢者およびその介護者が参加するコミュニティを構築している点にある。
  5. 高齢化社会が新市場創出やイノベーションの機会でもあるという考え方は、深刻な社会課題が戦略資産に転化するという逆転の発想を生む。急速な高齢化に直面する日本がエイジテックの世界的なハブを目指すことは、超高齢化社会であっても成長を維持できる可能性を示すものといえよう。国・地方自治体、大学、企業そして高齢者が協力してイノベーション促進や社会実装を目指す「日本版シルバーバレー」のような仕掛けが検討されるべきであろう。