特集2:自社株買いの論点
自社株買いにESG要素を採り入れる欧州企業
関田 智也
要約
- 近年、欧州企業において、自社株買いに環境・社会・ガバナンス(ESG)要素を採り入れた「ESG Share Buyback(ESG自社株買い)」を実施する事例が見られる。ESG自社株買いは、「自社株買い」と、「ESG関連プロジェクト(ESG推進のための事業等)への資金拠出」を関連付ける取り組みであるとされている。
- 発行体からみたESG自社株買い実施の最大のメリットは、自社株買いにESG要素を採り入れることで、株主以外のステークホルダーに対しても自社株買いの存在意義を示すことができる点にある。他方で、ESG自社株買いは、本来であれば発行体の資本効率向上に寄与したはずの資金の一部を、ESG関連プロジェクトへの資金拠出に振り向ける取り組みであることから、主に株主からの反発を誘発する可能性もある。
- ESG自社株買いの実施企業の中には、当該企業のサステナビリティ・レポートにおいてESG自社株買いを重要な取り組みの一つとして紹介する等、ESG自社株買いを財務戦略に留まらず、より高次の経営戦略の一環として位置づけるものもみられ始めている。
- ESG自社株買いは、自社株買いを、株主のみならず幅広いステークホルダーにアピールするための手段へ昇華する取り組みであり、日本企業にとっても検討に値するものと言えよう。日本企業は、ESG自社株買いのような仕組みを活用することで、資本効率の改善のみならず、ESGにおける環境・社会への配慮も同時にアピールすることが可能となるのではないだろうか。