特集1:新型コロナウイルス感染症対応と金融市場

中国での新型コロナウイルス感染拡大に伴う金融面での危機対応策

関根 栄一

要約

  1. 中国の2020年1~2月の経済指標は、消費の前年同期比20.5%減に代表される通り、新型コロナウイルスの感染拡大防止策の影響を受け、過去に統計を遡れる範囲で大きく悪化した。中国国内で、最初に同ウイルスによる集団感染が発生した湖北省武漢市では、感染拡大を防ぐため、同年1月23日、武漢市の都市封鎖(ロックダウン)が行われた。
  2. 続いて、2020年1月24日の春節休暇期間からは、中国全土での人の移動・行動の制限等の公衆衛生上の措置が講じられた。春節休暇期間明けには、サービス業・製造業の業績悪化や家計の所得減少が予想され、また金融市場での混乱防止の必要性もあったため、2月1日、金融当局は、金融面での危機対応策を打ち出した。
  3. 対応策は、(1)金融市場や銀行貸出を通じた流動性支援、(2)個人の日常的な金融サービスの保障、(3)金融の基盤インフラ運営の確保、(4)外為・越境人民元取引の支援、(5)実施体制の確立、の五分野からなり、特別貸出枠の設定や、金融機関への行政指導が実施されている。
  4. 危機対応策の実績を見ると、2月の企業や家計向けの人民元貸出(フロー)は、春節という季節的かつ休暇期間の延長という要因もあり十分に実行されているとは言えない。また、家計向けの人民元建て短期貸出残高は、1月末に比べむしろ減少している。金融機関への行政指導は、政府が救済したい部門に、直接、資金を融通できる一方、金融仲介の歪みをもたらすリスクや、企業債務残高の増加に歯止めがかからないリスクもある。
  5. 武漢市の都市封鎖は4月8日に解除されたが、感染拡大期間中、新たにロボット配送や遠隔医療などの非接触・非対面型の取引形態が進展している。中小企業向け貿易金融へのブロックチェーン活用の実験拡大など金融取引での新たな動きもある。新型コロナウイルスの感染が長期化する中で、経済・社会のデジタル化に向けた変化の芽にも注目していく必要があろう。