金融機関経営

ゴールドマン・サックス及びモルガン・スタンレーの事業改革
-ウェルスマネジメント事業を中心に-

岡田 功太、下山 貴史

要約

  1. 米国を代表する金融グループのゴールドマン・サックス及びモルガン・スタンレーは、近年、ともにウェルスマネジメント事業を中心とした事業改革に取り組んでいる。ゴールドマン・サックスは、コンシューマー&ウェルスマネジメント部門を新設し、マーカス、ユナイテッド・キャピタル・ファイナンシャル・パートナーズ、アイコ・カンパニーを同部門に配置するなど、ウェルスマネジメント事業の強化を打ち出した。更に、同社は、マーチャント・バンキング事業をアセットマネジメント部門に移管し、コンシューマー&ウェルスマネジメント部門と共に預かり資産の増大を目指す意向を示している。
  2. モルガン・スタンレーは、2008年のグローバル金融危機以降、一貫してウェルスマネジメント部門の強化を行ってきたが、近年ではソリウム・キャピタルやイー・トレードの買収を通じて、顧客基盤の増強を図っている。その際、同社は、デジタル・ソリューションを活用し、ベンチャー企業等の経営陣の株式報酬管理等の職域事業を強化し、その上でこれら顧客企業のIPO等の案件獲得をも目指している。
  3. 他方で課題もある。ゴールドマン・サックスは、コールセンターの運営に多額の費用を投じる必要性に直面しており、個人向け金融サービスのブランドが乱立気味であるとも言えるなど、効率的にウェルスマネジメント事業を構築できるのかが課題であろう。モルガン・スタンレーは、イー・トレードの買収によって、初めて独立系ファイナンシャル・アドバイザー向けの金融サービス提供事業に参入するが、競争が激しい同事業の成否が、今後の成長を左右する可能性があると言えよう。
  4. 新型コロナウイルス感染症による対面サービス提供の困難といった影響を踏まえれば、両社は今後、ウェルスマネジメント事業を中心とした事業改革を推進するにあたって、デジタル・ソリューションの提供に、より一層注力する必要性があろう。