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国際的なウェルス・マネジメントのハブとしてファミリーオフィスの誘致を強化するシンガポール

北野 陽平、植田 剛将

要約

  1. シンガポールは近年、国際的なウェルス・マネジメントのハブとしての存在感を高めることを目指して、ファミリーオフィスの誘致を強化している。ファミリーオフィスとは、超富裕層一族の永続的な繁栄を多角的に支援する組織であり、資産管理・運用、会計・税務、後継者計画、資金調達、コンプライアンス面の管理等の役割を担う。
  2. 超富裕層一族によるファミリーオフィスの利用は、北米や欧州で普及しているが、アジア太平洋地域でも近年増加している。シンガポール金融管理局(MAS)によると、シンガポールにおけるファミリーオフィスの数は2017年から2019年の間に5倍に増加したようである。
  3. シンガポールでは、政治の安定性、良好なビジネス環境、快適な住環境、強固な法制度、健全で発達した金融セクター等、超富裕層がファミリーオフィスを設立する上で魅力的な環境が整備されている。また、税制優遇措置やグローバル・インベスター・プログラム等のインセンティブが政府により提供されている。
  4. MASは、ファミリーオフィスの誘致を強化するため、2020年1月に導入した会社型ファンドの新たな形態である変動資本会社の利用を促進する方針である。また、MASは、専門人材の育成が重要と認識し、ファミリーオフィスに助言を行うプライベートバンカー等が身に付けるべきスキル及び能力を明確化したファミリーオフィス・アドバイザー・スキルマップを作成した。
  5. アジアを代表するもう1つのウェルス・マネジメント・センターである香港においても、現在、政府がファミリーオフィスの設立を支援する姿勢を強めている。そうした中、今後、シンガポールがさらなるファミリーオフィスの誘致に向けた取り組みに成功し、グローバル金融センターとしての地位向上につなげることができるか注目される。