金融機関経営

アジア最大のプライベートバンクUBS
―成功の背景とさらなる成長のポイント―

北野 陽平、植田 剛将

要約

  1. スイスを本拠とするUBSは近年、アジア太平洋地域(APAC)のウェルス・マネジメント(WM)事業を強化しており、APAC(中国本土を除く)最大のプライベートバンクの地位を確立している。UBSのAPACにおける預かり資産は2020年9月末時点で約5,030億米ドルに達した。また、収益面でも、APACの貢献度が向上している。
  2. UBSは、より効率的・効果的な顧客対応を目的として、比較的早い時期からデジタル化を推進してきた。背景には、APACの富裕層の間で第1世代から第2世代以降への世代交代が進展しており、デジタル・サービスを求める富裕層が増加していることがある。また、足元では、新型コロナウイルス禍を契機としてデジタル・チャネルの重要性が高まる中、UBSは環境の変化に柔軟に対応している。
  3. 世界的に環境・社会・ガバナンス(ESG)の要素を重視したESG投資が注目される中、APACの富裕層の関心も徐々に高まりつつある。UBSは、他のプライベートバンクに先駆けて、ESG関連商品・サービスを強化し、2018年4月にはESG資産に100%投資する投資一任ポートフォリオの提供を開始した。市場の変動性が高まる中、同ポートフォリオは良好なパフォーマンスもあり、残高が着々と増加している。
  4. APACでは中国を中心に超富裕層の人数及び資産が増加していることも、超富裕層に重点を置く戦略をとるUBSにとって追い風となろう。今後、UBSが、富裕層の世代交代に伴う潮流の変化を的確に捉え、次世代の顧客ニーズに即した金融商品・サービスを提供できるかどうかが、中長期的な事業拡大の成否を左右すると考えられよう。