金融イノベーション

ステーブルコインは本質的に悪貨なのか?

淵田 康之

要約

  1. ステーブルコイン、すなわち価値の安定した暗号資産の一つとして、グローバルに広く普及する可能性のあったリブラの構想は、国際金融当局等からの批判を背景に潰えた。しかし分散型金融(Decentralized Finance、DeFi)を含む暗号資産経済圏の台頭も相まって、既存のステーブルコインの市場は2020年後半以降、急速に拡大している。
  2. こうした状況も踏まえ、ステーブルコインの規制を巡る議論が本格化しつつある。米国の大統領作業部会等は、ステーブルコインの発行者を銀行に限定すべきと提案した。
  3. しかしステーブルコインの発行者と銀行では、その機能もリスクも異なっており、この提案は適切ではないとの指摘がある。私的に発行された通貨間の競争にはメリットがある、という立場からの批判もある。
  4. ステーブルコインを問題視する立場からは、対抗上、中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency、CBDC)の導入が重要という指摘がある。一方、通貨間競争のメリットを重視する立場からは、CBDCを導入するとしても、リテールCBDCの導入ではなく、ホールセールCBDCを準備資産とした各種のステーブルコインを、民間事業者が競争的に発行する姿が望ましいとの主張がある。
  5. わが国は、明治時代に為替取引を銀行の固有業務と定めたことから、今日においてもノンバンクの決済サービスには、欧米とは異質な制約が課されたままとなっている。わが国がこの枠組みを変えない限り、ステーブルコインについても、欧米におけるような形での発行や流通は不可能となる。