特集:資本市場とAI

予測データ分析やAIの利活用に関する規制強化を図る米国SEC規則案
-金融事業者と投資家間の利益相反への対応-

橋口 達

要約

  1. 近年、資本市場における人工知能(AI)等の利用に関する議論が進展している。そうした中、米国証券取引委員会(SEC)は2023年7月26日、金融事業者に対し、予測データ分析並びにそれに類似する技術を利用する際、投資家との利益相反に対応するよう求める規則案 (以下、SEC規則案)を公表した。
  2. SEC規則案の背景には、金融事業者がAI等のテクノロジーを利用して、投資家の利益を犠牲にして自社の利益を高めているのではないかというSECの問題意識がある。
  3. SEC規則案は、金融事業者が対象となるテクノロジーを投資家とのやり取りにおいて利用する場合に、利益相反への対応を義務付けるものである。特徴として、対象とするテクノロジーの範囲が広範にわたること、利益相反を開示するのではなく、利益相反の排除又は中和という対応策を求めている点が挙げられる。
  4. SEC規則案に対しては、金融事業者に過度な負担を強いる、イノベーションを抑制するといった批判が出てきている。急速に進展するテクノロジーの利点を尊重しつつ、どのように規制当局や金融事業者が投資家保護を図っていくのか、今後の議論が注目される。