特集3:中銀デジタル通貨(CBDC)の進展

中央銀行デジタル通貨で先行するアジア主要国の取り組み
-シンガポール、タイ、インドの事例-

北野 陽平

要約

  1. 近年、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を巡る動きが世界的に活発化している。CBDCの導入に向けた進展状況は国によって大きく異なるが、総じてアジア主要国がCBDCの取り組みで先行している。
  2. シンガポール金融管理局(MAS)は2016年、分散型台帳技術(DLT)活用の一環として、ホールセール型CBDCの取り組みを開始した。MASは、海外主要国の中央銀行等と協力し、クロスボーダー決済の効率化・高度化に向けた実験を進めているが、先行して国内銀行間決済向けCBDCの試験運用を2024年に開始する計画である。
  3. タイ銀行(BOT)は2018年、DLT活用の一環として、国内銀行間決済向けCBDCの取り組みを開始した。BOTはMASと同様に、海外主要国の中央銀行等と協力し、複数通貨でのクロスボーダー決済向けCBDCの実験に参加する一方、リテール型CBDCの試験運用も実施済みであり、ホールセール型CBDCとリテール型CBDCの両方を推進している。
  4. インド準備銀行(RBI)は2022年12月、リテール型CBDCの試験運用を開始した。RBIは、1日当たり取引件数を2023年末までに100万件へと増加させる目標を掲げた。3億人超の利用者を抱える国内決済システムとの相互運用が開始されたが、1日当たり取引件数は2023年10月時点で約2.5万件に留まったとされる。
  5. CBDCは、決済の効率化・高度化に貢献するのみならず、DLTの活用を通じて、金融・資本市場のデジタル化の促進という点でも重要な役割を担い得る。今後、他のアジア諸国においても、CBDCが金融・資本市場のデジタル化の促進につながることで、中長期的にアジア全体の金融・資本市場の持続可能な発展を下支えするか、注目したい。