共催セミナー「個人投資家の裾野拡大、投資信託が果たす役割」を全国5都市で開催

開 催 日 会 場
2013年7月1日(月) 東京(ベルサール飯田橋ファースト)
2013年7月3日(水) 大阪(ANA クラウンプラザホテル大阪)
2013年7月4日(木) 名古屋(キャッスルプラザ(名古屋)
2013年7月8日(月) 福岡(ANA クラウンプラザホテル福岡)
2013年7月16日(火) 札幌(京王プラザホテル札幌)

野村資本市場研究所の共催セミナー「個人投資家の裾野拡大、投資信託が果たす役割」が、東京(7月1日)、大阪(7月3日)、名古屋(7月4日)、福岡(7月8日)、札幌(7月16日)の5都市で開催された。

本セミナーは、金融機関及び運用会社の責任者、担当者および役員を対象に、野村資本市場研究所、イボットソン・アソシエイツ・ジャパン、NTTデータ経営研究所、QUICK、日本FP協会、フィデリティ退職・投資教育研究所による共催で実施された。

午前中は、2013年6月19日に公布された改正投信法を含む投信法制の見直し、午後は2014年1月から開始の少額投資非課税制度(NISA)という盛り沢山の内容で、延べ約200の金融機関の参加を得た。参加者からは、「さまざまな立場の専門家の話を聞くことができ、大変有意義だった」「NISA本来の目的について改めて考え直すよいきっかけになった」等の評価を頂いた。

詳細は『野村資本市場クォータリー』2013年秋号で特集する予定だが、以下ではそれに先立ち各会場の議論の概要を紹介したい。

(左から)
会場で開会/閉会の挨拶を行う、NTTデータ経営研究所 山本取締役会長、
野村資本市場研究所 丸山取締役社長、
日本FP協会 白根理事長、
イボットソン・アソシエイツ・ジャパン 山口代表取締役社長

1. 基調講演

セミナー冒頭でまず、基調講演「個人投資家の裾野拡大に向けて」が行われた。このテーマに造詣の深い専門家5名を、会場ごとにスピーカーとして招いた。

東京では、金融庁で金融税制担当の総務企画局 白川参事官が、NISA導入の背景、NISAの制度概要、金融機関に望むことについて講演した。白川参事官は、現在、半分以上が現預金という日本の家計金融資産をいかにリスクマネー供給につなげるかという課題がある一方で、資産形成ができていない世帯の増加という問題も生じており、これらへの施策としてNISAの導入に至ったと解説した。また、NISAが成長・定着していくためにも、金融機関には、制度に適した商品提供と、金融教育を含めた適切なマーケティングを期待していると述べた。

(右)金融庁総務企画局 白川参事官

大阪では、今般の投信法改正のベースである、金融審議会の投信・投資法人法制見直しワーキング・グループの座長を務めた東京大学大学院の神田教授が、投資信託市場拡大への期待、投信法制の歴史、今年の投信法制見直しについて講演した。神田教授は、投信市場は約100兆円の市場にまで成長したが、世界の投信残高に占める割合が僅か3%であることや、個人金融資産における割合が4%程度にとどまること、日本の株式市場における投信による保有比率が4%程度にとどまることなどを踏まえれば、10倍にも拡大してよいはずだと指摘した。

(左)東京大学大学院法学政治学研究科 神田教授

名古屋会場の講演では、NISAの推進、投信の販売を行う証券会社・銀行等の自主規制機関である日本証券業協会の稲野会長が、投信に期待される役割として、家計の自助努力による資産形成と、成長マネーの供給・デフレ脱却の後押しがあり、投信の普及に向けて関係者の一層の努力が求められていると指摘した。稲野会長は、NISAが幅広い層に普及し、中長期的に投信残高が拡大すれば成長マネーの供給拡大も期待できると述べた。

(右)日本証券業協会 稲野会長

福岡では、フォスターフォーラム 良質な金融商品を育てる会の永沢事務局長が、消費者目線で、投資信託の優れた点、市場の現状と課題等について講演を行った。投資信託は、情報開示など投資者保護の制度が整備されている点が、それ以外のファンドと異なり優れる。商品内容の複雑化や投資家が高齢者中心で資産形成層に浸透していないなど課題もあるが、運用会社と販売会社が投資家とのコミュニケーションに努め、投資家も金融リテラシー向上に努めることにより、良質な投資信託を育てることができると指摘した。

(左)フォスター・フォーラム 良質な金融商品を育てる会 永沢事務局長

札幌では、金融審議会会長である慶應義塾大学の吉野教授が、投資信託や投資について幅広い視点から講演した。アベノミクスは期待による好循環の段階にありこれを実需に結びつける必要があること、投資信託を通じたリスクマネー供給が重要であること等を指摘した。約1,500兆円の家計金融資産を3%で運用すれば毎年45兆円を得ることができるが、これは現在の財政赤字の規模に相当すると指摘し、資産運用により利子配当を稼ぐことの重要性を説明した。

(右)慶應義塾大学経済学部 吉野教授

2. 講演「投信制度の見直しの要点と意義について」

午前中のテーマである、投信法制見直しに関する講演は、東京会場で前、金融庁総務企画局市場課企画官の横尾氏、その他の会場では前、金融庁総務企画局市場課専門官の菅原氏により行われた。両氏は、金融審議会の投信・投資法人法制見直しワーキング・グループの事務局を務めた立場から、今般の投信制度改正の経緯について説明した。

(左)前、金融庁総務企画局市場課 横尾企画官

6月19日に公布された改正投信法に、投信併合の手続き簡素化、運用報告書の二分冊化のための措置が盛り込まれた他、今後、トータル・リターン通知及びリスク表示の導入なども行われる。両氏は、投信が個人の資産形成において重要な機能を担うことは論を待たず、そのために規制強化・規制緩和の両面から制度改正を行ったが、制度改正のみでは限界があり、その趣旨に添って業界が変わっていくことが重要だと指摘した。

(右)前、金融庁総務企画局市場課 菅原専門官

3. パネルディスカッション「投信制度の見直しをいかに活用するか」

投信制度の見直しに関する講演を受けて、パネルディスカッションが行われた。今回の制度改正に当たり地域金融機関にとっての実務的な課題は何か、地域金融機関はどのような事業環境に直面しており今後いかに投信ビジネスに取り組んでいくべきか、制度改正を踏まえて投資家の満足度向上のために何をするべきか、といった点について、フォスターフォーラムの永沢氏、NTTデータ経営研究所の山上グローバルコンサルティング本部長、菅原氏(東京会場は横尾氏)が意見を交わした。「投資信託事情」編集長の島田氏がモデレーターを務めた。

(左)島田編集長

山上氏は、投信を、顧客資産を積み上げる「ストックビジネス」として捉えている地域金融機関ほど、投信ビジネスが上手く行っているという現状分析を披露。今後、制度改正対応や業界の発展と共に増加の見込まれる事務量をコントロールするべく、地域金融機関は事務の外部委託を検討する必要があると指摘した。横尾・菅原両氏は、今回の制度改正により、業者・投資家間の情報の非対称性が緩和されれば、投資家の選別眼が発揮されやすくなり、運用会社や販売会社も優れた商品提供の努力が報われやすくなると指摘した。永沢氏は、運用会社や販売会社は、読みやすくなった運用報告書を投資家へのアフターフォローに活用してはどうかと提案した。

(左)名古屋会場
左から、前、金融庁総務企画局市場課 菅原専門官、フォスター・フォーラム 良質な金融商品を育てる会 永沢事務局長、NTTデータ経営研究所 山上グローバルコンサルティング本部長
(右)東京会場
左から、NTTデータ経営研究所 山上グローバルコンサルティング本部長、フォスター・フォーラム 良質な金融商品を育てる会 永沢事務局長、前、金融庁総務企画局市場課 横尾企画官

4. 講演「確定拠出年金、投資信託を活用した新たなソリューションの動き」

午前の最後に、個人が自助努力により老後のための資産形成を行う制度である確定拠出年金について、野村資本市場研究所の野村主任研究員が講演を行った。確定拠出年金では、投資信託、預金、保険商品が投資の選択肢として提供され、従業員が自分で投資先を決めるが、年金であるにも関わらず投信比率が4割に留まる。投資が必要と分かっていても行動に移せない加入者が分散投資を実践できるようにするには、デフォルト商品(投資対象を決めない加入者の拠出金の行き先)として投信を設定する方法がある。これを行いやすくする法令解釈通知改正が厚生労働省により行われたことなど、最新動向を紹介した。

(右)野村資本市場研究所 野村主任研究員

5. 講演「始まるNISA(少額投資非課税制度)その目的と展望」

午後のNISAのパートでは、まず、金融庁総務企画局政策課の今井課長補佐が、NISA導入の経緯と制度の概要について講演を行った。NISAは、個人の自助努力による資産形成の支援と、経済成長に必要なリスクマネーの供給拡大という目的を持つ制度。20歳以上の居住者であれば誰でも利用可能で、毎年100万円まで投資し、最長5年間の非課税措置を享受できる。今井氏は、NISAは10年間の時限措置だが、いずれ恒久化を要望していくことも考えられ、そのためにも、一般の制度と異なる点もあるので顧客の理解を得つつ普及させて欲しいと述べた。

(左)金融庁総務企画局政策課 今井課長補佐

6. 講演「NISA(少額投資非課税制度)恒久化の必要性と展望」

次いで、フィデリティ退職・投資教育研究所の野尻所長が、NISA恒久化の必要性について、同研究所が4月に行ったサラリーマン1万人アンケートの内容を踏まえつつ講演した。NISAの制度改善については、非課税期間5年の延長、100万円の投資額の引き上げ、10年間の口座開設期間の恒久化といった事項がアンケートで高い支持を得たが、NISAの若年層による活用・投資家の裾野拡大に焦点を当てると、制度の恒久化が最も重要であるといった分析を示した。

(右)フィデリティ退職・投資教育研究所 野尻所長

7. パネルディスカッション「スタート直前・NISA(少額投資非課税制度)の商品、サービス再点検」

講演を受けてパネルディスカッションが行われた。野尻氏がモデレーターを務め、NISAの中でどのような商品・サービスが想定されているのか、運用会社と販売会社が留意すべき事項は何か、今後のあるべき姿・改善点などについて議論が行われた。パネリストは、「投資信託事情」の島田氏、NTTデータ経営研究所の山上氏、日本証券業協会の金子証券税制室長(大阪は全国銀行協会の相澤業務部長、札幌は投資信託協会の竹腰企画政策部長)が務めた。島田氏は、NISA用には比較的シンプルで説明しやすい商品を、多様な資産クラスに渡って揃えること、その上で販売金融機関が顧客に合わせたアドバイスを提供することが望ましいと指摘した。

山上氏は、低コストで若者も馴染んでいるインターネット・バンキングがNISAの販売チャネル候補となる、ただし入門者向けの投資教育プログラムの提供などアフターフォローの工夫が必要であろうと指摘した。金子氏は、NISAという愛称の経緯について、同制度の理解向上のためには証券会社や銀行が統一の愛称を用いる必要があるとの考えから、NISA推進・連絡協議会(NISA販売業者等がメンバー)が決定したと説明した。また、1人1口座しか開設できない等、NISAの勧誘・販売時に顧客に分かりやすく説明すべきポイントを連絡協議会が留意事項としてまとめており、更に一層周知していきたいと述べた。

(左)大阪会場
左から、全国銀行協会 相澤業務部長、NTTデータ経営研究所 山上グローバルコンサルティング本部長、「投資信託事情」島田編集長
(中)福岡会場
左から、「投資信託事情」島田編集長、NTTデータ経営研究所 山上グローバルコンサルティング本部長、日本証券業協会政策本部企画部 金子証券税制室長
(右)札幌会場
左から、投資信託協会 竹腰企画政策部長、NTTデータ経営研究所 山上グローバルコンサルティング本部長、「投資信託事情」島田編集長

8. パネルディスカッション「NISA(少額投資非課税制度)は若者層、現役世代の資産形成をどう支えるか」

NISAは若年世代による活用が期待されることから、本セミナーでは現役の大学生をパネリストとするセッションが設けられた。若者層にとって投資信託・投資はどの程度馴染みがあるものか、NISAについて疑問に思うことはあるか、資産形成を考えたことがあるか、といった論点について、慶應義塾大学吉野ゼミ、関西学院大学寺地ゼミ、名古屋大学家森ゼミ、九州大学川波ゼミ、小樽商科大学石川ゼミの学生2名ずつが忌憚のない意見を述べ、金融庁の今井氏、日本FP協会の白根理事長(大阪は有田専務理事、名古屋は伊藤専務理事)がコメントを返した。

学生諸氏は、現状、投資は未経験であるものの、本パネルへの参加を通じてNISAの活用など資産形成に取り組むことの重要性を認識したと述べた。また、小中高時代から実用的な金融教育を行い、金融リテラシー向上の機会を早いうちから与えるべきだと指摘した。今井氏は、NISAは投資の「きっかけ作り」を目的としており、若年層もそのように捉え活用して欲しいと述べた。白根氏は、金融リテラシーにとどまらず、適切に行動する「金融ケーパビリティ」を身につけることが重要と指摘した。

(左上)名古屋会場
左から、金融庁総務企画局政策課 今井課長補佐、名古屋大学 家森教授ゼミ 鎌田氏・立石氏、日本FP協会 伊藤専務理事
(中上)札幌会場
左から、金融庁総務企画局政策課 今井課長補佐、小樽商科大学 石川准教授ゼミ 岡田氏・矢野氏、日本FP協会 白根理事長
(右上)東京会場
左から、日本FP協会 白根理事長、慶應義塾大学 吉野教授ゼミ 岡澤氏・菅野氏、金融庁総務企画局政策課 今井課長補佐
(左下)大阪会場
左から、金融庁総務企画局政策課 今井課長補佐、関西学院大学 寺地教授ゼミ 原氏・姜氏、日本FP協会 有田専務理事
(右下)福岡会場
左から、日本FP協会 白根理事長、九州大学 川波教授ゼミ 石丸可奈子氏・石丸昭浩氏、金融庁総務企画局政策課 今井課長補佐

(左)全会場で司会を務める野村資本市場研究所 井潟執行役員