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GX推進機構 理事 高田 英樹
要約
2024年7月、「GX推進機構」が業務を開始した。今後10年間に、官民で150兆円超のGX投資の実現、とりわけ、民間のGX投資の促進が機構の主な任務である。そのため機構は、民間企業・プロジェクトへの金融支援(債務保証・出資)の提供、カーボンプライシング制度の運営、「GXハブ」としての社会全体でのGX推進という、3つの業務の柱を担っている。
このように政府がGXに特化した組織を設立するのは世界的にも稀であり、内外の関係者からも強い期待が寄せられている。世界で脱炭素への逆風となる動きもある中、日本、そして日本のGX推進機構の役割は増大している。
フランス国立社会科学高等研究院(EHESS) 教授、日仏財団(FFJ) 理事長、ドイツ日本研究所 客員フェロー
セバスチャン・ルシュヴァリエ博士
要約
本稿では、日仏独3カ国の共同研究プロジェクト「INNOVCARE(「ケア主導型イノベーション-日仏における介護事情」)」を紹介する。このプロジェクトでは、ケア主導型イノベーションという枠組みの普及を目指して、高齢者の変わりゆく多様なニーズに関する基礎的な研究を推進し、研究成果をテクノロジーの構想・開発に取り入れることを狙いとしている。また、人口構成の問題を主眼に置きつつも、持続可能な資本主義の実現に貢献する側面も有する。
(本内容は参考和訳であり、原文〔Original〕と内容に差異がある場合は、原文が優先されます。)
原文(Original)
Care-led Innovation: A Sustainable Answer to Population Ageing and Long-term Care Issues
Dr. Sébastien Lechevalier, Professor, School of Advanced Studies in Social Sciences (EHESS), President, Fondation France-Japon de l’EHESS (FFJ), Visiting Fellow at the German Institute for Japanese Studies (DIJ)
The aim of this short article is to introduce a French-Japanese-German research project, INNOVCARE, (“Care-led innovation: the case of eldercare in Japan and in France”) whose aim is to develop fundamental research on the heterogenous and evolving needs of older adults and incorporate it into the conception and development of these technologies, with the aim of promoting a form of innovation led by care. While focusing on demographic issues, this project is also contributing to the implementation of a sustainable capitalism.
神戸大学経済経営研究所 教授 家森 信善
要約
- 近年、地域金融機関には脱炭素や持続可能な開発目標(SDGs)への対応など、地域の持続可能性に関わる役割が強く期待されている。本稿では、全国の地域金融機関支店長を対象とした、経済産業研究所(RIETI)アンケートを用いて、営業現場におけるSDGs支援の実態を分析した。その結果、支店長の4割以上が取引先のSDGs対応に関する助言経験を有し、8割以上が金融機関はSDGs支援に積極的に取り組むべきであると考えていることが明らかになった。
- しかし、SDGs支援の経験は一定程度広がっているものの、それが取引先の経営改善や金融機関自身の収益拡大につながったという成功体験を持つ支店長は限定的である。すなわち、SDGs支援は理念としては受け入れられているものの、業態間でも取り組み姿勢に差があり、金融実務として広く機能しているとは必ずしも言えない段階にある。
- 支店長が感じている課題としては、企業側の関心の薄さや人材不足などが多く指摘されている。しかし分析の結果、SDGs支援に意欲的な支店長は、事業性評価を重視し、非財務価値の評価に前向きであり、研修制度や人事評価制度が整備された組織に多いことが明らかになった。SDGs支援の進展は金融機関の組織能力や制度設計とも密接に関係している。
- SDGs対応は企業の中長期的な価値創造力と密接に関わるため、本来は事業性評価と親和性の高い取り組みである。SDGs支援を単なる政策対応として扱えば業務負担にとどまるが、事業性評価の一部として位置づければ金融機関の本業と結びつき、持続的に取り組める。本稿の分析は、SDGs支援が地域金融機関の事業性評価の深化を問う試金石であることを示している。
西山 賢吾
要約
- 2025年6月開催の株主総会は、日本の株式保有構造の変化で政策保有株式が減少した結果、経営トップの取締役選任議案否決など、会社側議案の否決が普通となったことを認識させるものとなった。2026年6月株主総会に先立って開催される同年3月株主総会における上程議案では、大きな傾向はこれまでと変わらないが、定款変更議案において、社債型種類株式の発行やパーシャル・スピンオフ関連など新しい制度を採り入れるものが見られる。
- 2026年及びそれ以降の議決権行使助言会社の助言方針や、機関投資家の議決権行使基準の主な改定点としては、女性取締役の増員、保有水準など政策保有株式に関する基準の厳格化、財団設立に関する基準の設定、剰余金処分の取締役会授権に関し、株主総会開催を排除しないものであれば賛成する、などが挙げられる。
- 最近の主要議案平均賛成率の傾向を見ると、議決権行使基準が厳格化しても主要会社側議案の賛成率が大きく変わることはほとんどなく、企業側が対応を順調に進めていることが分かる。2026年6月の株主総会においても、さらに厳格化される機関投資家の議決権行使の厳格化に対する企業側の対応が注目される。
- コーポレートガバナンス改革はこれまで、一定の成果をあげてはいるものの、課題も残存している。改革の実質化を目的にコーポレートガバナンス・コードの第三次改訂が実施されるが、改革実質化の実現に向け企業と株主・投資家の相互理解に基づく対話、エンゲージメントの重要性は高まると考えられる。対話、エンゲージメントと議決権行使はいわば「車の両輪」と考えられることから、今後議決権行使が果たす役割もますます重要になるであろう。
中村 美江奈
要約
- 従業員に対する株式報酬は、一般に、業務へのモチベーションや会社への帰属意識の向上といった効果が期待できる。日本企業でも着実に採用が増加しているが、制度上の制約として、従業員に対する株式の無償交付が認められていない点などが指摘されてきた。
- そうした中、法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会において議論が行われ、2026年3月18日公表の中間試案に、従業員への株式の無償交付実現に向けた選択肢が盛り込まれた。4月2日よりパブリックコメントが開始されている。
- 一方、米国では譲渡制限付株式ユニット(RSU)等を中心に、一般従業員も含めて株式報酬の普及が進んでいる。その背景には、企業の積極的な利用と共に制度整備が進められたこと、労働市場の流動性の高さに対応するべく魅力的な報酬制度の提示が必要なこと、株式報酬の効果把握の取り組みが行われてきたこと等が挙げられる。
- 日本においても、株式報酬に係わる制度整備、労働市場を巡る環境変化、そして株式報酬制度の意義の浸透といった類似の傾向が見られ始めている。従業員に対する報酬は事業戦略や人材戦略に連動するものであり、株式報酬の活用についても各社で適切に判断する必要がある。ただ、日本企業を取り巻く環境の変化、そして米国の状況等を踏まえれば、より多くの日本企業において、株式報酬を検討する余地があると考えられる。
野村 亜紀子
要約
- 日本企業の人的資本開示拡充に向けて、2026年3月期以降、有価証券報告書において複数箇所に点在していた人的資本及び報酬に関する情報が集約されると共に、平均給与の対前年比増減率など新たな開示項目が追加された。また、「人的資本可視化指針(改訂版)」が2026年3月23日に公表され、企業が経営戦略と連動した人材戦略を策定し、企業価値向上につながる質の高い人的資本投資を実践・開示するための検討フローが示された。従業員のウェルビーイングの推進や従業員の福利への投資も含まれる。
- 企業の従業員に対する「報い方」を巡り、物価上昇の下では賃上げが注目されやすいが、企業としては賃上げを通じて、従業員のウェルビーイングに加え、エンゲージメントや生産性の向上を期待する。野村資産形成研究センターが2025年9月に実施した「従業員1万人アンケート」を用いて、年収と、人生満足度、勤務先への誇り、仕事の活力維持との関係を見たところ、概ね比例的な関係にあるものの、400万円以上800万円未満の年収層で「足踏み」とも言える状態が観察されるなど、関係は必ずしも単純でないことが示唆された。
- 企業は、賃金以外にも様々な形で従業員のファイナンシャル・ウェルネスを支援できる。代表的なのが福利厚生制度の提供である。今後の方向性として、企業は、賃金と福利厚生制度を縦割りではなく一体のものとして位置付け、さらにはキャリア開発なども含めた総合的な支援を打ち出すことが、より重要になってくるのではないだろうか。これはグローバル企業等で近年採用されている「トータルリワード」の考え方にも近い。人的資本開示・可視化の拡充は、企業がファイナンシャル・ウェルネス支援策を再検討・強化する好機と言えよう。
五島 佐保子
要約
- 野村證券は2026年4月、シリーズ勉強会「SSBJ(サステナビリティ開示基準〈SSBJ基準〉)義務化、今後の実務の壁をどう乗り越えるか?/サステナビリティ開示の最新トレンド」の第1回として、「SSBJ基準準拠のサステナビリティ情報開示-2027年3月期からの有価証券報告書での順次義務化に向けて-」と題したセッションを行った。
- 本セッションでは、日本におけるサステナビリティ情報開示の義務化をめぐる動向や、SSBJ基準の概要、企業におけるサステナビリティ情報開示の現状と投資家の反応を中心に議論した。
- SSBJ基準に準拠した開示においては、従来のガバナンス及びリスク管理に加え、戦略、指標及び目標の開示が求められるほか、気候関連では、自社以外のサプライチェーンの排出量(スコープ3)の開示も必要となること等が示された。さらに、人的資本や気候変動といったトピックを中心に、サステナビリティ情報開示の充実化が進む一方で、情報開示体系等について、引き続き検討の余地があることも指摘された。
- SSBJ基準準拠のサステナビリティ情報開示を効果的かつ実効性のあるものとするためには、(1)4つの構成要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標)同士のつながりや、サステナビリティ情報と財務情報とのつながりの確保、(2)読者にとっての利便性を意識した開示体系の精査、(3)読み手を意識した継続的な質の改善、が重要であることが示唆された。
富永 健司
要約
- 世界の大規模自然災害による経済被害は、経済成長に伴う都市化や産業集積により、長期的に増大傾向にある。経済構造が変化する中、気候変動による風水害の激甚化や大規模地震の発生により、企業による自然災害リスクへの対応の重要性は一段と高まっている。このような背景の下で、自然災害リスクに対応するファイナンス手段である大災害債券(CATボンド)市場は成長が継続している。
- CATボンドの利回りは、伝統的な金融資産と異なり、保険・再保険市場の需給環境等により影響を受ける。こうした特徴により、CATボンド指数と伝統的資産の指数との相関は総じて低い水準となっており、長期保有によりポートフォリオの分散効果が期待される。
- CATボンドは、保険・再保険を代替する手段として、同セクターが中心となって発行が行われてきたが、近年では、アルファベット、プロロジス、ブラックストーンといった事業会社やファンドによる発行事例も現れ始めている。
- 日本企業においても、企業によるリスクファイナンス手段の多様化という観点から、CATボンドの活用が今後広がっていくことが期待される。CATボンド市場の持続的な発展においては、機関投資家や個人投資家の間で、ポートフォリオの分散効果を見込み、同債券を運用資産に組み入れる動きが広がっていくかが注目される。企業による自然災害リスク管理の高度化とCATボンド市場の拡大は、社会全体の自然災害に対するレジリエンス向上にも寄与するものと考えられる。
五島 佐保子
要約
- 生態系の損失や環境汚染が深刻化するなか、2020年代に入る頃から、気候変動と共に、自然への注目も集まっている。経済界や金融資本市場においても、近年、自然への関心が一段と高まってきた。
- 企業にとって自然が重要となる論点として、(1)サプライチェーンの混乱や財務コストの増加などの、企業の経営リスクの管理、(2)有機食品・飲料や持続可能な林業をはじめとする、ビジネス機会創出の拡大、(3)銘柄選択に当たっての企業価値評価の際に自然を考慮する投資家への訴求、が挙げられる。
- 投資家にとっての重要性の論点として、(1)銘柄選択に当たって、気候のみならず気候・自然の双方を勘案すること、すなわち、環境要素のより包括的な把握、(2)農業・林業、化学、エネルギー、鉱業、金属などの広範な分野における自然関連の投資機会の拡大、(3)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に代表される大規模アセットオーナーにおける自然関連要素への着目、が考えられる。
- 自然関連課題は、気候変動と並ぶ重要な環境課題として、企業と投資家の双方に影響を及ぼすテーマとなりつつある。2026年の注目点として、情報開示の国際的な統一ガイダンス策定に向けた動きが挙げられる。具体的には、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)を部分的に採用しつつ、2026年10月までに、自然関連のガイダンス(Practice Statement)の公開草案を発表することを目指しており、今後の展開が注目される。
江夏 あかね
要約
- 日本では、2026年4月1日より「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(GX〔グリーン・トランスフォーメーション〕推進法)に基づく排出量取引制度(GX-ETS)が始まった。GX-ETSは二酸化炭素(CO2)の直接排出量が一定規模以上である事業者を対象とし、一定の基準の下で、当該対象事業者が排出可能なCO2の量にあたる排出枠を経済産業大臣が割り当て、制度対象者に対してその範囲でCO2の排出を求める制度である。
- GX-ETSは、CO2の直接排出量の直近3年度平均が10万トン以上の事業者が対象となる。制度対象者は、各種排出量や移行計画を経済産業大臣等に9月30日までに届出・提出し、経済産業大臣が排出枠を11月30日に割り当てる。翌年度には、制度対象者が排出実績量を9月30日までに報告し、必要に応じて排出枠を調達し、保有義務量と同量の排出枠を1月31日までに保有する。その後、経済産業大臣が保有義務分の排出枠を1月31日に償却という流れになっている。
- GX-ETSをめぐって、金融資本市場の観点からの注目点としては、(1)炭素価格の安定性・透明性の確保、(2)企業価値への織り込みと開示の充実化、(3)グリーン/トランジション・ファイナンスの活性化、が挙げられる。
- 特に、炭素価格は、企業や企業に投融資する投資家・金融機関にとって、脱炭素社会への移行を見据えた調達・投資判断やリスク管理を実施する一助となると考えられる。その意味で、GX-ETSも通じた炭素価格の安定性・透明性の確保は、予見可能性を提供し、円滑な脱炭素社会への移行を実現するためのカギになると考えられる。
宋 良也
要約
- 中国では2026年に入り、エージェント型人工知能(AI)への関心が急速に高まっており、その代表例としてOpenClawが注目を集めている。OpenClawは、当初のAIエージェントから、アップデイトを経てより自律性の高いエージェント型AIへ進化し、ユーザーからの複雑な目標を複数のタスクに分解して実行できるようになった。
- OpenClawはオープンソースのため、米中の規制の影響を受けにくい利用が可能であることに加え、ユーザーによる自由な大規模言語モデル(LLM)の選択による利用コスト削減が可能である。特にエージェント型AIは、生成AIよりもトークン(AIが生成する言語の最小処理単位)消費が遥かに多く、運用コストが高くなりやすい。こうした中、ユーザーが低価格な中国国産LLMを利用可能なことが、OpenClawの普及を後押ししている。
- 中国の金融業界においてもOpenClawの導入が進み、証券会社や金融情報ベンダー等が関連サービスを相次いで展開している。例えば、東方財富証券は自社データベースを活用するプラグイン(拡張機能)を提供し、Wind社はOpenClawのマルチエージェント機能を活用し、OpenClawに基づくサービスである「WindClaw」を提供した。
- 一方で、中国政府は金融分野でのOpenClaw利用に伴うリスクに警戒を示し、銀行等での利用を制限している。今後、隔離環境で利用可能な「サンドボックス」が整備されれば、証券会社等の金融機関が安全性を確保しつつリサーチ業務を含む多様な業務の拡大に繋げることができると考えられる。また、エージェント型AIの活用を通じた業務効率化により、人間にしかできない付加価値の高いビジネスの創出も可能となろう。
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