特集1:新型コロナウイルス感染症対応と金融市場

新型コロナウイルスの感染拡大に揺れ動く欧州金融市場
-金融関連の政策対応と経済対策の財源問題-

磯部 昌吾

要約

  1. 欧州では、新型コロナウイルスが猛威を振るう中で、金融市場への影響が急速に拡大している。各国の中央銀行や規制当局は、金融市場や金融機関が実体経済を支える機能を維持できるよう、異例の金融政策や金融規制の柔軟化措置等を相次いで打ち出している。
  2. 加えて、今後は、大規模な財政政策(経済対策)が必要となってくるが、税収の低下も予想されることから、支出と収入の両面から財政赤字が大きく拡大する可能性がある。このため、欧州各国が安定的に必要な財源を調達できるかは、今後の経済対策の成否にとって重要な要素といえる。
  3. イタリアやスペイン、フランスなどは欧州の共通債務証券(コロナ債)を発行し、その資金を新型コロナウイルス対応に利用することを提案しているが、ドイツやオランダなどは反対している。現状は欧州中央銀行(ECB)の債券買入政策が功を奏しているが、早期に打開策を見出すことが期待されている。
  4. 欧州の銀行では、貸出先の業績や資金繰りが悪化することで、再び不良債権が増加する懸念が生じている。欧州ソブリン危機以降、一部の国の銀行では自国政府債の保有が増加しているため、経済対策の実施に向けた安定的な財源調達は、銀行システムの安定性という観点からも重要な課題となっている。
  5. 今後は経済活動の停滞が長引くほど、企業と消費者の双方においてその間を凌ぐための資金需要が増え、必要な経済対策の規模も拡大していく。そうなれば、資金超過への対応が課題であった欧州金融市場において多くの資金需要が生まれることも考えられる。事態の終息を見通せない状況ではリスクが高い面は否めないが、過去の危機を踏まえてリスク耐性を高めてきた金融市場・金融機関が、欧州経済の立て直しにどのように貢献できるのか正念場に差し掛かろうとしている。