金融・証券規制

銀行規制再論
-将来に向けた銀行システムの安定のための論点-

小立 敬

要約

  1. グローバル金融危機以降、G20の枠組みの下で危機の再発防止を図る国際的な金融規制改革が行われ、日本では、バーゼルIIIを始めとする銀行のプルーデンス規制の強化が行われてきた。金融危機から10年に亘る金融規制改革もようやく完成しつつあり、現在は、自己資本比率のリスク・アセット計測方法の見直し、いわゆるバーゼルIII最終化を残すだけとなっている。
  2. 日本の銀行業界は、マイナス金利政策を始めとする長期間に及ぶ金融緩和政策に加えて、潜在成長力の低下や人口減少といった日本経済の構造問題の影響から、将来の展望について厳しい見方がされつつある。さらに、フィンテックやデジタライゼーションへの対応も含めて、新たなビジネス・モデルの構築に向けた課題も投げかけられている。日本の銀行業界を取り巻く経済・社会環境が大きく変わりゆく中にあって、将来に亘って銀行システムの安定を確保するという観点から、銀行のプルーデンス規制の枠組みを再点検する作業も求められよう。
  3. 金融危機後に国際的にまたは海外で議論されてきた論点や実際に講じられた措置を踏まえながら、(1)自己資本比率(国内基準)のあり方、(2)バーゼルIIIのカウンターシクリカル・バッファー(CCyB)の運用、(3)ゴーンコンサーン・ベースの損失吸収力に関する措置、(4)銀行のリスク・プロファイルに応じたプルーデンス規制の枠組みをテーマに取り上げて、将来に向けて日本の銀行システムの安定を確保するという観点から銀行のプルーデンス規制の論点を改めて整理し、新たな課題の提供を試みる。
  4. 現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響から、日本の経済・社会は過去に経験したことのない、リーマン・ショックをも上回るとされる危機に直面しているが、本稿は、現在の極めて困難な経済・社会環境をある程度克服することを前提として、より長期的な視点で考察を行うものであることを付言させていただきたい。