ESG/SDGs

IFRS財団とEUが示すサステナビリティ情報開示の2つの方向性
-ソーシャルとフィナンシャル・インパクトの議論-

板津 直孝

要約

  1. サステナビリティ情報開示の進展及び標準化を求める要望が増していく中で、国際的に影響力のある2つのサステナビリティ基準の策定の動きがある。ひとつは、国際財務報告基準財団(IFRS財団)が設置する国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)によるIFRSサステナビリティ基準(以下、IFRS基準)であり、もうひとつは、欧州財務報告諮問グループが策定する欧州連合(EU)サステナビリティ報告基準(以下、EU基準)である。
  2. 両基準の違いは、採用する重要性の概念にある。IFRS基準が、フィナンシャル・インパクトに焦点を当てた財務上の重要性のみを概念とするのに対して、EU基準は、ソーシャル・インパクトとフィナンシャル・インパクトの双方を注視する。EU基準は、2021年4月に公表された企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の適用基準であり、その目的は、企業の報告要件が「EUタクソノミー規則」と一貫していることを保証することにある。
  3. IFRS財団が2021年3月にIFRS基準の策定に向けて設置したワーキンググループは、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)を中心とした、既存の基準設定機関等で構成されており、企業価値に焦点を当てた財務上の重要性のみを基本概念とする。
  4. 社会上の重要性と財務上の重要性の双方を採用するEU基準と、財務上の重要性のみを概念とするIFRS基準は、サステナビリティ情報開示において異なる方向性を示している。両基準に対する国際的な反応としては、IFRS基準が各国の証券法等で定められた法定開示書類の目的と合致することなどから、先進7カ国首脳会議(G7)等が奨励している。IFRS基準の戦略的方向性が各国の国内基準として受け入れられれば、法定開示書類の領域で、「一般に公正妥当と認められた会計原則(GAAP)」と同等の影響力を持つ可能性がある。