財政・地方債

英国バーミンガム市による財政危機通知と財政再生計画

江夏 あかね

要約

  1. 英国ロンドンに次ぐ人口規模を抱えるバーミンガム市は、男女同一賃金に関する巨額の支払義務等を背景に極めて厳しい財政状況に陥り、2023年9月5日に1988年地方財政法第114条に基づく通知(以下、財政危機通知)を行った。そして、同市議会は同月25日、財政再生計画を公表した。
  2. 財政再生計画に基づくと、歳出削減・歳入確保策、資本戦略及び資産の見直し、同一賃金達成と支払義務に係る債務増加抑制策に加え、中央政府からの例外的財政支援(EFS)の適用について検討を進めることになる。今後数ヵ月以内にバーミンガム市を取り巻く財政面・ガバナンス面の課題がより具体的に明らかにされると想定される。
  3. バーミンガム市を含めた英国の地方公共団体の資金調達は、いわゆる公的資金に該当する公共事業資金貸付協会(PWLB)からの借入が中心であることなどから、ムーディーズやDBRSモーニングスターが債務不履行(デフォルト)リスクは低いとの見解を公表している。そのため、英国の債券市場でバーミンガム市をめぐる動向による金利等への影響は特に観察されていないようである。
  4. 英国と日本の地方財政制度には共通点もみられる。しかしながら、日本の場合、英国と異なり銀行等引受や市場公募といった民間等資金による地方債の消化割合が6割近くを占めているほか、中央政府の財政状況が英国に比して厳しい。その意味では、日本の地方公共団体については、財政運営の手腕やガバナンス体制の強化がより必要とも考えられる。個別事情や制度の異なる英国の事例ではあるものの、バーミンガム市による財政再生に向けた今後の展開が将来の財政運営に向けて参考になる可能性がある。