特集1:アジアのサステナビリティの進展

持続可能な投資と長期資産形成の促進に向けたタイESGファンドの導入

北野 陽平

要約

  1. ASEAN主要国の1つであるタイでは2023年12月8日、個人の持続可能な投資と長期的な資産形成の促進を目的とした新たな投資信託が導入された。同投資信託は、環境・社会・ガバナンス(ESG)に焦点を当てた投資を行うこととしており、「タイESGファンド」と呼ばれる。
  2. タイESGファンドの投資家は、投資開始日から8年以上保有することを条件として、同ファンドへの年間投資額を各年の課税所得から控除できる。但し、所得控除は課税所得の30%までであり、かつ10万バーツ(2024年2月13日時点の換算レートで約42万円)が上限となっている。投資可能期間は2032年12月までと定められている。
  3. タイESGファンドは、ESGに優れているまたは温室効果ガス削減等に関する情報を明確に開示している国内上場企業の株式や、グリーンボンド、サステナビリティボンド、サステナビリティ・リンク・ボンド等を投資対象とする。2024年1月末現在、16社の資産運用会社により計30本のタイESGファンドが提供されている。
  4. タイは既に高齢社会に突入し、今後も高齢化が急速に進展していく見通しであり、国民が老後に向けた長期的な資産形成を行うことがより重要となっている。そうした中、タイESGファンドのような税制優遇を伴う投資信託に対する需要が高まっていく可能性が考えられる。
  5. 今後、タイESGファンドを軌道に乗せることができるかどうかを評価することは、現時点では時期尚早である。但し、少なくとも、タイが持続可能な投資と長期的な資産形成の促進の実現を同時に目指す上で、タイESGファンドがより重要な役割を担っていくと考えられる。こうしたタイの取り組みは、日本にとって参考になる部分もあると思われる。