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時流

サステナブル投資とインパクト

高崎経済大学 学長 水口 剛

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要約
 

「Moving from commitments to action」。これは、責任投資原則(PRI)が2023年10月3日から5日まで東京で開催した、PRI in Person 2023 in Tokyoの全体スローガンである。参加者の中で、このフレーズに違和感を抱く者はいなかっただろう。ここでいうactionとは、現実世界でのアウトカム(real world outcomes)を生む活動を指す。

だが、一方で、環境・社会・ガバナンス(ESG)投資を「リスクをマネージしつつリターン向上をめざす投資」と定義するという主張もある。環境や社会へのインパクトはESG投資の「副産物」であって、目的ではないというのである。この違いをどう理解すべきだろうか。

他方でPRIでもインパクトやアウトカムを強調しているので、ESG投資とインパクト投資の違いが分かりにくいという声も聞く。そこで本稿では、PRIらが提唱する「サステナビリティ・インパクトのための投資(Investing for Sustainability Impact: IFSI)」という概念を核として、この議論を整理してみたい。

個人投資家の金融リテラシーとサステナブルファイナンス

神戸大学経済経営研究所 教授 家森 信善

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要約
 

サステナブルファイナンスの議論において、機関投資家の役割が強調されてきたが、個人投資家の間でも環境への取り組みが必要との認識が高まりつつある。しかし、日本証券業協会の調査によると、持続可能な開発目標(SDGs)に資するSDGs債の認知は増加しているものの実際にSDGs債への投資はほとんど行われていない。筆者が個票データに基づいて分析したところ、金融リテラシーが高い人はSDGs債や環境・社会・ガバナンス(ESG)投資の認知は高いが、必ずしも実際に投資しているわけではなかった。海外の研究でも同様の傾向が見られ、環境意識の高い個人の金融リテラシーが低いことが原因だと指摘されている。したがって、金融情報のわかりやすい開示と、金融教育の強化が、サステナブルな社会の構築にとって必要である。

沖縄の貧困問題

財務省 財務総合政策研究所長 渡部 晶

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要約
 

沖縄のイメージといえば、「青い海の沖縄」「癒しの沖縄」である。こうした「沖縄イメージ」は、いまや沖縄県民も含め広く受け入れられている。しかし、その影に、沖縄の貧困問題、特に「子どもの貧困」が黒々と横たわる。

2023年夏、沖縄先行上映から全国公開が始まった映画『遠いところ』は、沖縄におけるこの問題をリアルに描いている。子どもを抱えた若い母親、17歳のアオイの物語である。この映画を導入にして沖縄の貧困問題、とくに「子どもの貧困」について考察を行う。この問題は人権問題として扱い、その解決に力をつくすべき沖縄の課題との認識を示す。

特別寄稿

ミレニアル世代とZ世代のサステナブル・ファイナンスに対する考え方を理解する-マレーシアの観点-

マレーシア資本市場研究所(ICMR) リサーチ責任者 ダティン・アイーダ・ジャスリナ・ジャラルディン
マレーシア資本市場研究所(ICMR) リサーチ・アナリスト ナディラー・イブラヒム

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要約
 

  1. ミレニアル世代とZ世代は今や最大の世代コーホートであり、この先10年間の消費と市場のトレンドに影響を及ぼす経済力を有している。マレーシア資本市場研究所(ICMR)はこの点を踏まえて、若年層の投資家に関連する問題、課題、行動様式(サステナブル・ファイナンスに対する知識や考え方を含む)を包括的に理解することを目的に、「ミレニアル世代とZ世代の投資家の台頭:マレーシアにおけるトレンド、機会、課題(The Rise of Millennial & Gen Z Investors: Trends, Opportunities, and Challenges for Malaysia)」と呼ばれる調査を実施した。
     
  2. この調査において、マレーシアでは両世代が善意のための投資に前向きであることから、問題意識を高めること、段階的できめ細かいアプローチを採用して適切な投資の選択肢を作り出すこと(両世代の投資家層は考え方や文化の点で概ね類似しているものの、人口動態や行動様式の観点からは明確な差異が存在する)、イニシアティブを効果的に実施するために政策サイクルの各段階において行動学的な知見を取り入れることが、政策当局や業界にとって重要であることが浮き彫りにされた。
     

(本内容は参考和訳であり、原文〔Original〕と内容に差異がある場合は、原文が優先されます。)

 

原文(Original)

Understanding Millennials and Gen Z’s attitude towards sustainable finance – Malaysia’s perspective –

Datin Aida Jaslina Jalaludin, Head of Research, Institute for Capital Market Research Malaysia

Nadhirah Ibrahim, Research Analyst, Institute for Capital Market Research Malaysia
​​​​​​​

  1. Millennials and Gen Z are now the largest generational cohorts, with the economic power to influence consumer and market trends over the next decade. Against this backdrop, the Institute for Capital Market Research Malaysia (ICMR) undertook a study, “The Rise of Millennial & Gen Z Investors: Trends, Opportunities, and Challenges for Malaysia,” to get a holistic view of the issues, challenges, and behaviours of young investors– including their knowledge and attitudes towards sustainable finance. 
     
  2. The study highlighted that as these cohorts in Malaysia are keen on investing for good, it is critical for policymakers and industry to create greater awareness, adopt a tiered and nuanced approach in creating suitable investment options- while these investors generally share attitudinal and cultural similarities, there are distinct demographic and behavioural differences between this cohort- and  incorporate behavioural insights into every stage of the policy cycle for effective implementation of initiatives.

特集1:自然資本の計測と開示の展開

自然関連財務情報の開示枠組の最終版を公表したTNFD

林 宏美

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要約
 

  1. 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、2023年9月18日、自然関連のリスクと機会を評価し、開示する枠組の最終版(v1.0)(以下TNFD提言)を公表した。TNFD提言の最大の特徴は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のアプローチを最大限取り入れている点である。
     
  2. TNFD提言で推奨される14項目には、TCFD提言に盛り込まれた全11項目が含まれている。自然資本特有の項目としてガバナンスCの項目に含まれた「ステークホルダー・エンゲージメント」では、エンゲージメント活動に加えて、組織の人権に関する方針や経営陣による監督についての記述が求められている。その対象は、影響を受けるステークホルダーの他に先住民や地域社会も含まれるなど、社会的側面を重視するTNFDのスタンスがうかがわれる。
     
  3. TNFDがTCFDに平仄を合わせている点に鑑み、既にTCFDに基づいた開示に取り組んでいる企業や金融機関等を中心にして、TNFDの開示に向けた自主的な取り組みがスムーズに進展する可能性が高い、と捉える向きもある。TNFDが2023年夏に世界の企業、金融機関等を対象に実施した調査では、TNFD提言に則した開示を2025会計年度から開始できるとの回答が全体の70%、2026会計年度以前に開始できるとの回答が同86%に達していた。
     
  4. TNFD提言に基づく開示の準備を進める決断を表明した企業や金融機関はTNFDアダプターとして認識される。TNFDアダプターのリストは2024年1月に開催予定の世界経済フォーラムで初めて公表される見込みであり、それ以降TNFDのウェブサイトで公表される。自然関連課題への取り組みにコミットしている企業か否かを判断する材料として投資家等に活用されるのであれば、リストの意義が大きくなる可能性もある。

自然分野の科学に基づく目標設定方法を公表したSBTN-TNFDの開示枠組と連携-

林 宏美

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要約
 

  1. 自然資本分野における科学的根拠に基づく目標設定方法の開発を行っているグローバルなイニシアティブ、「科学に基づく目標ネットワーク(SBTN)」は、2023年5月24日、自然資本に関する科学に基づく目標(自然SBTs)設定に向けた技術的なガイダンス等を公表した。SBTNが対象とする自然は、淡水、土地、生物多様性、海洋、気候まで含み範囲が幅広い。
     
  2. 自然SBTsの設定プロセスは、1)評価、2)解釈および優先順位づけ、3)計測、設定および開示、4)行動、5)追跡の5段階とされている。このうち、1)~3)までの段階に関する技術的なガイダンスならびにマテリアリティ評価ツール等が今回公表された。
     
  3. SBTNは、2023年9月に開示枠組(v1.0)が公表された自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)とも密に連携している。SBTNは、TNFDで専門的見解を提示するナレッジパートナーに含まれているうえ、TNFDの枠組を用いて企業が設定する科学に基づく目標はSBTNガイダンスへの準拠が推奨されている。さらに、企業が設定した目標の妥当性を認定する機能もSBTNが担う。
     
  4. 2024年には、各企業による目標設定プロセスの進捗状況について、SBTNが開示するダッシュボードにて閲覧することを可能とすることも想定されている。そのため、投資家等が自然分野における企業間の比較をすることも容易になる見通しであるものの、投資判断材料として活用されるまでには、まだ時間が必要であろう。TNFDの最終化と相まって、開示情報を活用する動きにも目を向けたい。

特集2:自社株買いの論点

自社株買いにESG要素を採り入れる欧州企業

関田 智也

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要約
 

  1. 近年、欧州企業において、自社株買いに環境・社会・ガバナンス(ESG)要素を採り入れた「ESG Share Buyback(ESG自社株買い)」を実施する事例が見られる。ESG自社株買いは、「自社株買い」と、「ESG関連プロジェクト(ESG推進のための事業等)への資金拠出」を関連付ける取り組みであるとされている。
     
  2. 発行体からみたESG自社株買い実施の最大のメリットは、自社株買いにESG要素を採り入れることで、株主以外のステークホルダーに対しても自社株買いの存在意義を示すことができる点にある。他方で、ESG自社株買いは、本来であれば発行体の資本効率向上に寄与したはずの資金の一部を、ESG関連プロジェクトへの資金拠出に振り向ける取り組みであることから、主に株主からの反発を誘発する可能性もある。
     
  3. ESG自社株買いの実施企業の中には、当該企業のサステナビリティ・レポートにおいてESG自社株買いを重要な取り組みの一つとして紹介する等、ESG自社株買いを財務戦略に留まらず、より高次の経営戦略の一環として位置づけるものもみられ始めている。
     
  4. ESG自社株買いは、自社株買いを、株主のみならず幅広いステークホルダーにアピールするための手段へ昇華する取り組みであり、日本企業にとっても検討に値するものと言えよう。日本企業は、ESG自社株買いのような仕組みを活用することで、資本効率の改善のみならず、ESGにおける環境・社会への配慮も同時にアピールすることが可能となるのではないだろうか。

自社株買い等による短期の株主還元の議論-長期のイノベーション循環とのバランス-

板津 直孝

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要約
 

  1. 日本取引所グループ(JPX)が、2023年3月に資本コストや株価を意識した経営の実現を要請したことを一つの契機に、日本企業が積極的に自社株買いを実施している。2023年度の自社株買いの実施額は、過去最高だった2022年度の実績を超える勢いである。
     
  2. こうした状況において、剰余金の分配可能額を超えた、自社株買い等による過大な株主還元の事例も生じている。自社株買い等の財源には、会社財産を引き当てとする債権者の保護を図るために、会社法上一定の制限が定められている。
     
  3. 自社株買いはまた、発行体による企業価値向上や持続的な成長を促す積極的な企業行動とは異なり、効率的に利用できない資本を株主に返還する消極的な行為による場合がある。自社株買いの、これらの側面については、米国の規制当局においても議論が進められた。
     
  4. JPXは米国での議論と同様に、資本コストや株価に対する意識改革の要請に当たって、自社株買いや増配のみの対応や一過性の対応を期待するものではないとしている。現状では、プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の上場会社がROE8%未満、PBR1倍割れと、資本収益性や成長性といった観点で課題が認識されている。
     
  5. 自社株買いもROEを高めPBRを上昇させる手段であるが、一過性の対応となり持続可能性を損なう懸念もある。日本企業においては、無形資産の投資や活用によって得られた知識・技術・製品・サービスの社会実装によって得られた収益を、新たなイノベーションに再投資することで、イノベーション循環を機能させることが課題のひとつであると言える。

ESG/SDGs

ブルーファイナンスを促進するブルーボンド実務者ガイドと日本の課題

江夏 あかね、門倉 朋美

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要約
 

  1. 世界有数の海洋国家である日本において、経済社会全体が持続可能な発展を遂げるに当たってサステナブル・ブルーエコノミー(SBE)がカギを握る可能性があり、それを支えるためのブルーファイナンスは重要である。一般に、ブルーファイナンスとは、SBEの実現に向けて必要な資金を金融資本市場から調達することを指す。
     
  2. ブルーファイナンスをめぐっては、2010年代後半頃から国際機関による原則・ガイドラインの発出や起債事例の蓄積が見られてきた。2023年9月には、国際資本市場協会(ICMA)を含む5つの国際的な機関が、「持続可能なブルーエコノミーの資金調達のための債券に関する実務者ガイド」(実務者ガイド)を公表した。
     
  3. 実務者ガイドは、ブルーボンドをグリーンボンドの一部として位置付け、8つのプロジェクト・カテゴリーを提示している。現時点のブルーボンドの発行額はグリーンボンドに比して少ない。しかしながら、実務者ガイドを通じて世界の金融資本市場におけるブルーボンドの共通認識が醸成され、同ガイドに基づく事例が蓄積されることを通じて、金融資本市場への同金融商品の浸透が徐々に進んでいくと予想される。
     
  4. ブルーボンドを含めたブルーファイナンスが日本で発展していくための課題としては、(1)サステナブルファイナンス支援策拡充の一環でのブルーファイナンスへの波及、(2)ブルーファイナンス関連金融商品の多様化、(3)SBE実現に向けた包括的な「ブルー・リスキリング」の推進、が挙げられる。

企業のサイバーセキュリティリスクとサイバー保険

富永 健司

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要約
 

  1. 近年、社会のデジタル化の進展等を背景として、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)との融合が進む中、サイバー空間におけるセキュリティリスクが高まっている。金融を通じたサイバーセキュリティリスクへの対応策としてサイバー保険が挙げられる。
     
  2. 保険監督者国際機構(IAIS)の調査によれば、現状、サイバー保険の元受収入保険料の国・地域別シェア(2020年時点)は、米国が53%と最も高く、次いで英国が34%となっている一方、日本のシェアは3%と相対的に低水準となっている。日本損害保険協会の調査においても、サイバー保険に加入していると回答した国内企業は調査対象の7.8%に留まっており、国内でサイバー保険の普及に向けてさらに取り組みを推進する余地があることが示唆される。
     
  3. 国内上場企業等のサイバーセキュリティ関連事故は、多種多様な業種の企業において発生しており、同事故が発生した後の資金面の備えを提供するサイバー保険の必要性は総じて高いと推察される。
     
  4. サイバー保険の普及に向けた主な課題として、(1)企業のサイバーセキュリティに対する意識及びサイバー保険の認知度向上、(2)企業によるサイバーセキュリティ対策のさらなる強化、(3)損害保険会社におけるサイバー保険ビジネスの持続可能性向上、が挙げられる。日本及び世界において企業に対するサイバー保険のさらなる普及と共に、サイバーセキュリティリスクへの対応の進展が注目される。

日本のCG改革の示唆となる英国CGコード改訂-方向は異なるがともに取締役会の機能強化を重視-

西山 賢吾

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要約
 

  1. 英国ではコーポレートガバナンス・コード(以下CGコード)の改訂作業が進められている。2023年9月23日までパブリック・コンサルテーション(意見募集)を行った後に内容を再検討して年内に改訂の最終版を公表し、2025年1月1日から適用開始の予定である。
     
  2. コードの構成変更など大規模な改訂であった前回(2018年)と比べると、今回の改訂は相対的に小規模で、リスクマネジメントや内部統制といった企業の不正、不祥事への対応が中心である。例えば、取締役会がリスクマネジメントと内部統制の効果的なフレームワークの構築だけではなくその維持にも責任を持つことや、報告期間中にそれらが効果的に機能していたかどうか説明することが求められる。
     
  3. また、ガバナンス活動についてアウトカムベースでの報告や、コードを順守しない場合の高品質な説明の要請、取締役の兼任(いわゆるオーバーボーディング)状況や、各取締役が十分な時間を当該企業に費やしているかの報告を求めることも提案されている。
     
  4. 英国のCGコードは、企業の財務報告に対する不透明性、不信へ対応するための取締役会の役割・責任に焦点を当てて制定、改訂が行われている。一方、日本のCGコードは成長戦略の一環として企業価値向上に向けた取締役会の役割に焦点が当てられており、方向性が異なる。しかし、基本的な原則の遵守やコードに対する実施状況(あるいは不順守)に対する高品質な説明を求める点やオーバーボーディング問題への対応などは、日本のコーポレートガバナンスの質的向上の観点からも示唆的と言える。

我が国上場企業の株式持ち合い比率(2022年度)-サステナビリティの観点からも持ち合い解消が注目される可能性-

西山 賢吾

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要約
 

  1. 野村資本市場研究所で算出した2022年度の「株式持ち合い比率」は前年度比で4年連続低下し、過去最低水準を更新した。保有主体別にみると、損害保険会社は前年度比横ばいであったが、上場事業法人、上場銀行、生命保険会社は低下した。特に上場事業法人は前年度に比べ0.5ポイント低下し、最大の保有比率低下主体となった。
     
  2. 株式持ち合い解消、政策保有株式圧縮を促したと考えられる理由としては、合理性の観点から保有株式の見直しが続いているのに加え、取締役選任議案に政策保有株式の保有量に関する基準を取り入れる動きが機関投資家の間で進んだことが挙げられる。実際に、2023年6月株主総会において、機関投資家の設定する保有株式の数値基準を上回る企業の経営トップ(会長、社長など)の取締役選任議案の賛成率が60%台、70%台となった事例が見られた。
     
  3. 今回の結果は、従来からの「緩やかな持ち合い解消、政策保有株式圧縮の継続」という見方を変えるものではない。今後持ち合い解消、政策保有株式の圧縮を一段と推進させる要因として、(1)2023年6月株主総会において、実際に政策保有株式を多く持つ企業の経営トップの取締役選任議案が厳しい結果となったことや、(2)株式保有構造上の政策保有(安定)株主の減少、また、政策保有株主に対する株式保有の合理性への説明責任や議決権行使が求められる方向になってきたことなどが挙げられる。さらに、(3)環境関連などサステナビリティの観点からも政策保有株式に対する注目を集める可能性が考えられるようになってきたことにも併せて注目したい。

香港におけるグリーンファイナンスの促進に向けたブロックチェーン技術の活用

北野 陽平

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要約
 

  1. アジアを代表する国際金融センターの1つである香港は近年、グリーンファイナンスの促進に向けて、公的部門主導でブロックチェーン技術の活用を強化している。背景には、香港が同地域におけるグリーンファイナンス及びデジタル資産(トークン)のハブになる目標を掲げていることがある。
     
  2. 香港金融管理局(HKMA)と国際決済銀行(BIS)イノベーション・ハブは2021年、個人向けグリーンボンドをブロックチェーン上でデジタル資産に変換するトークン化の概念実証を実施した。その結果、個人投資家によるグリーンボンドへの投資の利便性及びグリーンボンドの調達資金の利用に関する透明性を向上させることが可能であることが確認された。
     
  3. 両組織は2022年、国際連合気候変動グローバル・イノベーション・ハブと連携し、グリーンボンドの緩和成果利益(MOI)に焦点を当てた実現可能性調査を行った。MOIとしてカーボンクレジットが用いられ、ブロックチェーンやスマートコントラクト等のテクノロジー活用により、グリーンウォッシングのリスク低減等につながり得ることが示された。
     
  4. 香港政府は2023年2月、政府として世界初となるトークン化グリーンボンドを試験的に発行した。発行額は8億香港ドル(2023年11月15日時点の換算レートで約155億円)であり、機関投資家向けに販売された。同債券は、パーミッション型ブロックチェーン・プラットフォーム上で発行され、値決めから1営業日で決済が完了した。
     
  5. 今後、香港において、(1)環境改善効果をリアルタイムで把握できる仕組みの実用化、(2)香港政府による個人向けトークン化グリーンボンドの発行、(3)グリーンボンドのMOIとして用いられるカーボンクレジットに対するテクノロジー活用のさらなる検討、の進展が注目される。

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