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時流

PPPの新しい動き

東洋大学大学院 教授 公民連携専攻長 根本 祐二

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要約
 

筆者は、PPP(Public-Private Partnership)を専門に研究している。PPPの役割は、国や地方自治体が担っている公共サービスである、教育、高齢福祉、障害福祉、子育て支援、道路・水道などインフラ整備、エネルギー供給、交通などの費用対効果を最大化することである。
 

政府はPPP推進のために、令和5年度から、「ウォーターPPP」、「スモールコンセッション」、「ローカルPFI(Private Finance Initiative)」を提唱している。PPPについての政府の数値目標は10年間で30兆円、1年間3兆円のペースであるが、日本経済の規模を考えればもっと飛躍的に伸びる目標値を設定する必要がある。それが、わが国の財政はもちろん、経済社会全体の持続性を高める道である。

国際連合気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)-成果と実績-

野村インターナショナル マネージング・ディレクター、サステナビリティ・マネジメント・オフィサー エラ・チャールフォン
野村ホールディングス サステナビリティ企画部 ヴァイス・プレジデント 濟木 ゆかり

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要約
 

ドバイで2023年に開催された国際連合気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、化石燃料からの移行という画期的な合意が達成された。2050年までに温室効果ガス排出量ネットゼロの目標を達成するためには、この10年間に行動を加速させることが不可欠であり、COP28ではそのための世界的な取り組みに各国が貢献することが求められた。
 

  • 公正かつ公平に、そして秩序ある形での化石燃料からの移行について合意されたことは非常に大きな成果であり、グリーン・エネルギーが今後数十年間にわたって発電の主要な担い手になる方向性を確認するものである。
  • 2030年までに再生可能エネルギーの発電容量を世界全体で3倍にし、エネルギー効率を倍増させるというコミットメントは、適応と資金調達の進展とともに前向きなものであった。
  • 米国、英国、日本を含む20ヵ国超が「原子力3倍宣言」を発表した。


(本内容は参考和訳であり、原文〔Original〕と内容に差異がある場合は、原文が優先されます。)

 

原文(Original)
 

COP28 - Achievements and Outcomes
 

Ella Chalfon, Managing Director, Sustainability Management Officer, Nomura International Plc
Yukari Saiki, Vice President, Group Sustainability COO Office, Nomura Holdings


The Dubai summit which was held in 2023 achieved a landmark agreement to transition away from fossil fuels for the first time. The 28th Conference of the Parties (COP28) calls on countries to contribute to the global effort to accelerate action in this critical decade to achieve net zero greenhouse gas emissions by 2050.
 

  • Reaching agreement on transitioning away from fossil fuels in a just, orderly and equitable manner seen as a huge achievement and acknowledgement that green energies will be a major contributor of power generation in the coming decades
  • Commitments to triple renewables capacity globally and double energy efficiency by 2030 was positive alongside progress on adaptation and finance
  • More than 20 countries including the United States, UK and Japan launched the Declaration to Triple Nuclear Energy

非財務情報に基づく価値の「見える化」-社会・環境価値の定量化-

野村インベスター・リレーションズ(野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター 客員研究員) 佐原 珠美

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要約
 

自社の製品・サービス・事業活動が社会・環境に与える影響(インパクト)の定量化、金額換算化に取り組む企業が増えているが、その一部を定量化するだけでは不十分である。
 

企業活動が社会・環境に与える重要な影響を明確にし、その影響について正負(ポジティブ/ネガティブ)を含めて明らかにした上で、それを社会・環境価値として中長期の経営目標 に組み込むことが大事である。また、ポジティブ・インパクトを増大させたり、ネガティブ・インパクト低減させる戦略的な取り組みを実施し、その進捗について定性・定量両面から説明することが重要である。事業を長期的に考えた場合、社会・環境への影響を考慮しなければ事業継続が難しくなることを踏まえると、影響を定量化し、企業価値向上に向けて効果的に活用することが必要とされる。

 

特別寄稿

気候トランジション・ファイナンスに対する世界の動向

慶應義塾大学総合政策学部 教授 白井 さゆり

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要約
 

  1. サステナブル・ファイナンスや気候ファイナンスの市場は成長しているが、グローバルな脱炭素化に必要な多額の投資をファイナンスするほどの規模には達していない。
     
  2. 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)による気候関連の情報開示の標準化を目指した最近の取り組みは、前向きな動きと言えるものの、金融規制当局や金融機関による幅広い業界全体の底上げが必要である。
     
  3. なかでも、脱炭素化が困難なセクター(hard-to-abateセクター)における温室効果ガス排出量削減の取り組みに対して、早急な資金支援が求められているが、同セクターを対象とするトランジション・ファイナンスはまだ発展途上の状態にある。
     
  4. 本論文では、hard-to-abateセクターが直面する課題を中心に、同セクターに対する投資家の信頼性向上を目指したさまざまなアプローチの概要を紹介する。

 

(本内容は参考和訳であり、原文〔Original〕と内容に差異がある場合は、原文が優先されます。)

 

原文(Original)

Global Trends on Climate Transition Finance Approaches

 

Sayuri Shirai, Professor, Faculty of Policy Management, Keio University
 

  1. Despite significant growth in sustainable and climate finance market, climate finance has not reached its full potential to attract adequate investments for supporting global decarbonization activities.
     
  2. The recent effort to standardize climate-related disclosures by the International Sustainability Standards Board (ISSB) is a positive development, but broader initiatives among financial supervisors and financial institutions are necessary.
     
  3. Particularly, transition finance for hard-to-abate sectors remains underdeveloped, despite the urgent need to financially support their emissions-reducing efforts.
     
  4. This paper provides an overview of various approaches intended to enhance credibility for hard-to-abate sectors while addressing their challenges.

特集1:アジアのサステナビリティの進展

ネットゼロに向けてカーボンクレジット取引の促進を図るASEAN主要国

北野 陽平

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要約
 

  1. 高成長を遂げるASEANでは昨今、長期的な温室効果ガス排出量実質ゼロ(ネットゼロ)目標の達成に向けて、カーボン(炭素)クレジット取引を巡る動きが活発化している。同地域では近年、各国証券取引所等によりボランタリー(自主的)カーボン市場が相次いで創設されている。
     
  2. シンガポール取引所等は2021年、国際カーボンクレジット取引所のクライメート・インパクトX(CIX)を設立した。CIXは、質の高いカーボンクレジットを取り扱うことを重視している。シンガポールでは2024年以降、炭素税の支払いをカーボンクレジットで代替することが可能となり、ボランタリーカーボン市場の成長が後押しされることが期待される。
     
  3. マレーシア取引所は2022年12月、世界初となるシャリーア(イスラム法)適格のカーボンクレジット取引所であるブルサ・カーボン・エクスチェンジ(BCX)を子会社として設立した。マレーシア取引所は2023年10月、ボランタリーカーボン市場に関する包括的なハンドブックを発行し、カーボンクレジット取引の国内企業への認知度向上を図っている。
     
  4. インドネシア証券取引所(IDX)は2023年9月、IDXカーボンと呼ばれるカーボンクレジット取引所を開設した。インドネシアはカーボンクレジットの供給力が高いものの、足元ではIDXカーボンでの取引が低調である。今後、IDXカーボンでは、国内排出量取引制度に基づく排出枠の取引も開始される予定であり、市場の活性化につながる可能性がある。
     
  5. ボランタリーカーボン市場の発展には、カーボンクレジットの質の確保・向上が課題となっており、質の高いカーボンクレジットの基準を定めたコアカーボン原則の進展が期待される。また、中長期的な観点では、石炭火力発電所の早期閉鎖にカーボンクレジットを利用する取り組みにより、エネルギー移行が促進されるか注目される。

持続可能な投資と長期資産形成の促進に向けたタイESGファンドの導入

北野 陽平

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要約
 

  1. ASEAN主要国の1つであるタイでは2023年12月8日、個人の持続可能な投資と長期的な資産形成の促進を目的とした新たな投資信託が導入された。同投資信託は、環境・社会・ガバナンス(ESG)に焦点を当てた投資を行うこととしており、「タイESGファンド」と呼ばれる。
     
  2. タイESGファンドの投資家は、投資開始日から8年以上保有することを条件として、同ファンドへの年間投資額を各年の課税所得から控除できる。但し、所得控除は課税所得の30%までであり、かつ10万バーツ(2024年2月13日時点の換算レートで約42万円)が上限となっている。投資可能期間は2032年12月までと定められている。
     
  3. タイESGファンドは、ESGに優れているまたは温室効果ガス削減等に関する情報を明確に開示している国内上場企業の株式や、グリーンボンド、サステナビリティボンド、サステナビリティ・リンク・ボンド等を投資対象とする。2024年1月末現在、16社の資産運用会社により計30本のタイESGファンドが提供されている。
     
  4. タイは既に高齢社会に突入し、今後も高齢化が急速に進展していく見通しであり、国民が老後に向けた長期的な資産形成を行うことがより重要となっている。そうした中、タイESGファンドのような税制優遇を伴う投資信託に対する需要が高まっていく可能性が考えられる。
     
  5. 今後、タイESGファンドを軌道に乗せることができるかどうかを評価することは、現時点では時期尚早である。但し、少なくとも、タイが持続可能な投資と長期的な資産形成の促進の実現を同時に目指す上で、タイESGファンドがより重要な役割を担っていくと考えられる。こうしたタイの取り組みは、日本にとって参考になる部分もあると思われる。

特集2:サイバーセキュリティと金融規制監督

金融機関に求められるサイバーセキュリティ対応-日米金融当局・国際機関の動向-

門倉 朋美、江夏 あかね

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要約
 

  1. 金融機関等を標的としたサイバー攻撃は、国内外を問わず情報漏えいや金銭的被害をもたらしている。金融機関は情報技術(IT)を幅広く活用し、多くの個人情報や金融資産等を管理していることから、金融機関におけるサイバーセキュリティ確保は急務と言える。
     
  2. 米国では、米国証券取引委員会(SEC)が、金融事業者等を対象としたサイバーセキュリティ強化に資する規則を提案した他、SEC登録企業のサイバーインシデント開示を義務化する規則が制定された。日本では、金融庁が金融機関のサイバーセキュリティ強化に向けた取組指針の策定等に取り組む他、同庁及び総務省が、サイバーセキュリティ関連の情報開示に向けた支援策を展開している。
     
  3. サイバー攻撃は国境を跨ぎ得ることから、その対処に向けて国際的な協調も重要となる。金融安定理事会(FSB)、証券監督者国際機構(IOSCO)、国際決済銀行(BIS)傘下の決済・市場インフラ委員会(CPMI)が、各国・地域の金融当局及び金融機関等におけるサイバーレジリエンス強化に取り組んでいる。
     
  4. 日米の金融当局及び各国際機関の施策を踏まえると、今後、金融当局等が取り組むことが求められる点として、(1)金融機関におけるサイバー人材育成、(2)関連政策との連携、(3)リスクシェアリングの在り方の検討、が挙げられる。

中国証券業におけるサイバーセキュリティの強化に向けた動き

関根 栄一、宋 良也

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要約
 

  1. 中国証券監督管理委員会(証監会)は2023年2月27日に、「証券・先物業のネットワーク及び情報セキュリティ管理弁法」(以下、管理弁法)を公布し、同年5月1日に施行した。管理弁法は、中国の証券業における初めてのサイバーセキュリティに関するルールとして、証券市場の公共インフラの運営機関と証券業者の義務等を定めている。
     
  2. 管理弁法制定の背景には、中国でサイバー関連事案(インシデント)発生への対応強化がある。全国人民代表大会は2016年以降、「サイバーセキュリティ法」、「データセキュリティ法」及び「個人情報保護法」といういわゆる「データ三法」を順次公布・施行し、中国全体のサイバーセキュリティの基礎となる法体系を整備した。今般の管理弁法は、上位法であるデータ三法が求める内容を証券業に適用することが目的となっている。
     
  3. 上位法の要求を具体化するため、管理弁法では、(1)ネットワーク及び情報の安全な運用、(2)投資家の個人情報保護、(3)ネットワーク及び情報の安全面での応急措置、(4)重要情報インフラ施設(CII)の安全確保、の4つの分野に対し、規定を設けている。また、当局による管理監督の強化措置として、証監会が主導する集中的データバックアップ制度の構築や、ITサービス提供者に対する管理監督の強化が盛り込まれている。
     
  4. アジア証券業金融市場協会(ASIFMA)は、2022年4月の管理弁法のパブリックコメント募集時に証監会に提出したフィードバック意見にて、当局へのデータ提供や当局が主導する上記施策に対し、企業の自主性を十分に発揮・尊重した上での対応が望ましいと提案し、その一部は正式版に取り入れられたように見受けられる。今後、中国の証券業界におけるサイバーセキュリティの法整備に関する取り組みがどのように現場レベルにまで反映されるのか、適用対象機関のサイバーレジリエンス向上にどの程度寄与するのかが注目される。

特集3:地方債の新展開

世界初の共同発行形式によるグリーン地方債-地域のカーボンニュートラル達成に向けた一歩に-

江夏 あかね

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要約
 

  1. グリーン共同発行市場公募地方債(以下、グリーン共同債)の第1回債(年限10年、500億円、参加団体36)が2023年11月17日、条件決定した。共同発行形式のグリーン地方債として世界初の事例となったグリーン共同債第1回債は、金利変動(ボラティリティ)が比較的大きい局面での条件決定だったが、同月9日に条件決定した共同発行市場公募地方債(10年債、以下、通常の共同債)に比して、グリーニアムが発生した。
     
  2. これは、(1)参加団体及び通常の共同債と均一のクレジット、(2)広範な充当事業、(3)ツインボンド近似の形式、といった商品性の特徴が、経済合理性も前提に全国の地方公共団体によるカーボンニュートラル達成に向けたプロジェクトを支援したいと考える投資家に訴求し、幅広い投資家層の需要を集めたこと等が背景と考えられる。
     
  3. 今後、小規模のグリーンプロジェクトの資金調達においても利用可能で手間やコスト負担を軽減できるといったメリットを期待して、グリーン共同債への参加を検討する地方公共団体が増える可能性がある。また、フレームワークで広範な充当事業が示されたこともあり、グリーン共同債を参考に、個別にグリーンボンド/ローンによる資金調達を検討する地方公共団体が増えることもあり得ると言える。
     
  4. グリーン共同債が地域のカーボンニュートラル達成に向けてさらに活用されるか否かは、金融市場を取り巻く環境による。同時に、金融市場でグリーンウォッシュに対する懸念が強い傾向にあることに鑑みると、(1)フレームワークに沿って透明性及びガバナンスを確保しながら起債運営管理を行うこと、(2)資金を充当した環境プロジェクトがしっかりとインパクトを創出し、地域の環境課題解決に貢献し続けること、が大切になると想定される。

2024年度地方債計画-「金利がある世界」での起債運営の論点-

江夏 あかね

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要約
 

  1. 2024年度地方債計画及び地方財政対策は、前年度に引き続き、一般財源が確保され、臨時財政対策債の発行予定額が減少する等、地方財政の安定性が維持される内容だった。また、こども・子育て、地域脱炭素、消防・防災力の一層の強化といった持続可能な社会の実現に資する施策も示された。その一方で、地方財政対策上で公債費への影響は未だ顕在化していないものの、予算積算金利が17年ぶりに引き上げられるなどの動きもあった。
     
  2. 2024年度の地方債市場は、起債、投資ともにタイミングを見極めるのが難しい状況が継続すると想定される。同時に、「金利がある世界」での起債運営のあり方を考えるタイミングに差し掛かっている。
     
  3. 「金利がある世界」の地方財政の姿について地方債残高の借入金利水準及び年間発行額に関する統計をもとに粗い試算を行った。その結果、仮に金利が上昇しても、急騰するような状況でない限り、1年以内など直ちに地方財政の安定性を脅かすことはないと考えられるが、起債運営において従来以上に工夫が求められることが示唆された。
     
  4. 「金利がある世界」で起債運営を行う上でのポイントとして、(1)調達年限の長期化と償還スケジュールの平準化、(2)起債タイミングの分散化、(3)様々な商品性への着目、が挙げられる。

ESG/SDGs

世界のサステナブル投資残高(2022年)-米と他地域のESGを巡る動きの違いが顕現化-

西山 賢吾

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要約
 

  1. 2022年(2021年12月現在、日本は2022年3月末現在)の世界のサステナブル投資残高は30.32兆ドルとなり、前回2020年(2019年12月、日本は2020年3月末現在)の35.30兆ドルから14.1%減少した。地域別にみると、米国が2020年比51%減となった。いわゆる「反ESG」の動きもあるだろうが、サステナブル投資手法における定義の厳格化など調査手法の変更も相応に影響したと考えられる。一方、米国を除いた地域ベースでは残高が2020年比20%増となり、ESG(環境・社会・ガバナンス)を巡る動きの違いが統計上にもはっきり表れた。
     
  2. 投資手法別の残高をみると、エンゲージメント/株主行動が最も多く、これに、ESGインテグレーションやネガティブ/排他性スクリーニングが続き、これら3手法で全体の85%を占める。一方、インパクト/コミュニティ投資やサステナビリティ・テーマ投資の残高はこれらに比べ非常に小さく、2つ併せても3%程度にとどまる。
     
  3. サステナブル投資に対する関心は継続的に高まっているが、いわゆる「グリーンウォッシュ」や「ESGウォッシュ」への対応からその定義や投資手法が厳格化するなど、サステナブル投資を巡る環境は日々変化している。見せかけだけの「ウォッシュ」ではなく、発行者(資金調達者)や投資家をはじめとしたステークホルダーの満足度が高く、品質の高いサステナブル投資の運用体制や関連する金融商品に対するニーズが高まる中、これらへの対応の巧拙が運用機関や国・地域レベルにおける同投資への意識や取り組みの「差」として今後一段と明確になると考えられる。

バーゼル委員会による気候関連金融リスク開示の提案-第三の柱の下での銀行固有の開示-

小立 敬

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要約
 

  1. バーゼル委員会は2023年11月29日、気候関連金融リスクの開示に関する市中協議文書を公表した。これは、第三の柱という銀行固有の開示の枠組みの中で気候関連金融リスクの開示を求めるものである。市中協議文書は、第三の柱に関する初期的作業と予備的提案を市中協議に諮るものとする一方、2024年には最終化させ、2026年から適用することを目指すとしている。
     
  2. 市中協議文書は、銀行勘定における気候関連金融リスクについて定性的開示と定量的開示を提案する。定性的開示に関しては、気候関連金融リスクに関する銀行のガバナンス、戦略、リスク管理および集中リスクについて開示を求めることが提案されている。
     
  3. 定量的開示については、移行リスクとしてセクター別エクスポージャーと投融資に関わる温室効果ガス(GHG)排出量であるファイナンスド・エミッション、物理的リスクとして地域別エクスポージャーについて共通に開示を求めることを検討している。また、各法域の裁量の下で開示を要求するものとして、(1)エネルギー効率レベル別のモーゲージ・ポートフォリオの不動産エクスポージャー、(2)物理的産出量当たり排出原単位、(3)資本市場業務や金融アドバイザリー業務に係るファシリテーテッド・エミッションが提案されている。
     
  4. 市中協議文書が最終化されれば、銀行はカウンターパーティからGHG排出量に関する情報を入手したりする作業が必要になってくるだろう。また、気候関連金融リスク管理のための体制整備も一段と求められる。気候関連金融リスクへの対応は日進月歩で進展していくことが予想される。気候関連金融リスクに関する第三の柱の整備とともに、気候関連金融リスクの管理・監督の枠組みに関しても引き続きフォローアップが必要であろう。

初めて公表されたTNFD早期採用者のリスト-国別内訳で日本が首位-

林 宏美

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要約
 

  1. 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、2024年1月16日、TNFD提言(v1.0)に則した開示準備を進める意向をウェブサイトに登録した、TNFD早期採用者(TNFD Early Adopters)のリストを公表した。46か国の320組織で構成される同リストには、日本の企業等や金融機関が全体の4分の1に相当する80社含まれており、国別内訳で首位になった。
     
  2. TNFD早期採用者として登録するには、基本的に同組織が発行する財務報告と同じタイミングで、TNFD提言に則した開示を行うことが求められる。なお、TNFDに登録する際、TNFD提言に則した開示を開始する会計年度が2024年度以前か、或いは2025年度であるのか、いずれかを必ず選択することが求められる。
     
  3. TNFD早期採用者の地域別内訳を見ると、136社の欧州と134社のアジア・太平洋地域がほぼ肩を並べ、両者で全体の約85%を占めるなど、地理的分布に偏りがある。日本の非金融企業等のTNFD早期採用者が属する主なセクターは、食品・飲料が同13.8%と最大シェアを占めていたほか、インフラストラクチャーおよび運輸(同各12.5%)、テクノロジー・コミュニケーション(同11.3%)である。世界の分布では5.6%にとどまる運輸セクターのシェアが高い特徴が見られる。
     
  4. TNFD早期採用者リストは、自然関連財務開示に積極的なスタンスである企業等で構成されていると捉えられる一方、自然関連課題に関する開示をかねてから手掛けている企業でも同リストに含まれない場合もあり、網羅されているわけではない点にも留意する必要がある。

発行体がインパクトの包括的管理にコミットするインパクトボンド

江夏 あかね

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要約
 

  1. サステナブルファイナンス市場では近年、発行体自らが包括的にインパクトを捉えて管理する金融商品として、「インパクトボンド」の事例が出現し始めている。インパクトボンドは、金融資本市場に浸透している国際資本市場協会(ICMA)による原則(ICMA原則)に加えて、国際連合環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)による「ポジティブ・インパクト金融原則」(PIF原則)を用いて発行枠組み(フレームワーク)を策定することが特徴の1つである。
     
  2. 本稿では、インパクトボンドに関して、フランスのソシエテ・ジェネラル(SG)とALDオートモーティブ(ALD)に加え、日本の豊田合成の事例を概観した。PIF原則とICMA原則の併用を通じて、発行体が包括的にポジティブ/ネガティブ・インパクトを把握、管理しているという共通点の下、各社の取り巻く状況に応じてフレームワークを構築し、ファイナンスを位置づけていることが明らかになった。
     
  3. SGは、インパクトボンドの発行を2015年に開始し、様々な商品形態での起債に取り組んでいる。ALDは、初回債発行時、フレームワークについて気候債券イニシアティブ(CBI)の認証を取得する形で臨んだ。豊田合成は、同社全体の重要課題(マテリアリティ)からインパクトを丁寧かつ包括的に分析して、フレームワークを構築した。
     
  4. インパクトボンドが今後、金融資本市場に浸透していく上での主な注目点としては、(1)インパクトボンドを通じた価値創造の可視化、(2)インパクト・ウォッシュの回避、が挙げられる。

2023年6月株主総会議決権行使結果と2024年以降の注目点-投資家の意思が経営トップ取締役選任議案と株主提案に明示-

西山 賢吾

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要約
 

  1. 2023年6月の株主総会においては、社内取締役の平均賛成率が前年を下回った。経営トップ(会長、社長)の取締役選任議案賛成率が60%台や70%台になった事例をみると、不祥事や政策保有株式を過大に保有している企業が相対的に多かった。その一方、女性役員(ないしは取締役)の不存在や独立社外取締役の人数不足を理由としたものは相対的に少なく、企業側での対応が進んだことがうかがわれる。
     
  2. 株主提案においては、環境関連団体や、彼らと機関投資家の共同提案による環境関連の株主提案に対する賛成率は伸び悩んだように見える。その一方、アクティビストからの資本政策やコーポレートアクションを求める株主提案の中には、これまでの同種の提案に比べ高い賛成率を得たものも見られた。
     
  3. 野村證券のアンケート調査による個人投資家の議決権行使動向をみると、議決権を行使した割合が上昇した一方、株主総会(会社側提案)議案の「全てに賛成」した割合は低下した。個人投資家の企業経営や企業価値に対する関心が高まってきた可能性が考えられる。
     
  4. 機関投資家による2024年以降の議決権行使基準における注目点としては、(1)女性役員(ないしは取締役)の増員(最低1人から複数、取締役員数の10%以上など)、(2)社外取締役の増員(3分の1以上から過半へ)、(3)「エンゲージメントとエスカレーション」に対応するための議決権行使基準の見直しや考え方の整理、(4)有事導入型買収防衛策に対する議決権行使の考え方の整理、などが挙げられるであろう。それとともに、議決権行使を活かしながら、持続的な企業価値向上に向けた企業と株主との対話が一段と深化することにも期待したい。

英国CGコード改訂:大部分が撤回される-情報開示拡充よりも負担軽減を重視-

西山 賢吾

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要約
 

  1. 改訂作業が行われていた英国コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)であるが、英国FRC(Financial Reporting Council:英国財務報告評議会)は2023年11月7日、その改訂内容の大部分を撤回し、コード内における重複の修正と、内部統制関連について当初案より的を絞った改訂にとどめるとの声明を公表した。
     
  2. 企業不祥事の発生など昨今の英国の状況を考慮し、英国企業や株式市場の信頼回復を図るために、主に監査やリスクマネジメント、内部統制関連を中心とした改訂が提案されていた。その一方で、英国企業の成長や競争力の強化、英国株式市場の魅力向上が課題となる中、企業の情報開示に伴う負担増に対する懸念の高まりにも配慮し、両者のバランスを取ることを優先して、今回の決定に至ったものと考えられる。
     
  3. 情報開示の拡充とそれに伴う負担増への懸念との「せめぎあい」は、英国に限らず日本でも見られる。形式的な開示を脱し、実質的で株主や投資家をはじめとしたステークホルダーに資する情報開示の在り方、さらには今後の日本のCGコードの方向性を考える上で、今回の英国FRCの決定がどのような影響、結果をもたらすかが非常に注目される。

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