特集1:株式市場の構造的変革

グローバルに拡大するSPACを通じた上場誘致競争

神山 哲也、岡田 功太、磯部 昌吾

要約

  1. 米国の特別目的買収会社(SPAC)市場が2021年に入って更に急拡大している。新規株式公開(IPO)調達額は、4月30日時点で年初来の累積で約1,000億ドルに達し、2021年の米国全体のIPOの約3分の2をSPACが占める。
  2. 米国SPAC市場の急拡大を踏まえ、欧州・アジアではSPACの上場誘致に向けた機運が高まっている。背景には、自国企業が米国SPACによる買収を通じて米国市場に上場することへの危機感がある。
  3. 英国では、新規上場の拡大を目指した英国上場制度レビューの一環として、SPAC規制の見直しを検討している。アジアにおいても、シンガポール取引所がSPAC導入に向けた規則案を公表し、香港政府もSPACに関する制度整備を行う方針を示している。
  4. こうした中で、米国ではSPAC市場の過熱への警戒もあり、証券取引委員会(SEC)が注意喚起を行うとともに、証券民事訴訟改革法のセーフハーバーの見直しといった形で、米国SPAC市場の健全化に動き始めている。
  5. 今後、伝統的なIPOとは別の上場手段として、SPACが非上場企業の資金調達手段を多様化させていくのかが問われることになるものと考えられる。グローバルに拡大するSPACが生み出した新たな上場誘致競争に引き続き注目すべきであろう。