「要約を見る」では論文の要約を、「全文PDF」では論文の全文をPDFで閲覧できます。

時流

課題解決型企業の創出に向けて

早稲田大学 常任理事、商学学術院 教授 宮島 英昭

要約を見る要約を閉じる

要約
 

問題を惹き起こすのではなく問題の解決によって企業が収益力を高めるという課題解決型資本主義の重要性がグローバルに主張されている。ステ-クホルダ-全体の利益の実現を社是、社訓とする伝統の強かった日本企業でも、2010年代後半から自社の存在意義の再定義を通じてパーパス経営への転換を進め、事業ポートフォリオの選択などの企業経営に基軸に据え始めた。この動きをさらに拡大するためには、パーパス経営を支える企業統治システムの整備が重要な条件となる。ここでは、この課題解決型企業の創出の観点から、上場会社が当面する課題を、取締役会の役割、株式報酬の利用、新たな所有構造の設計の3点について指摘する。

フランス銀行の責任投資戦略:サステナビリティの推進に取り組む中央銀行

フランス銀行 アジア太平洋地域代表 エルサ・オールマン博士

要約を見る要約を閉じる

要約
 

フランス銀行は物価と金融システムの安定を確保するために、気候変動リスクと環境破壊の観点を戦略に統合している。このアプローチの中核をなす責任投資戦略のもと、当行は中央銀行グリーン・スコアカードで3年連続首位を獲得している。2018年に責任投資憲章を導入して以来、当行のポートフォリオでは、ダブル・マテリアリティの原則に基づき環境・社会・ガバナンス(ESG)関連のリスクとインパクトを評価する評価額が、1,300億ユーロにまで増加した。当行の責任投資戦略は「気候と自然環境」、「ESG統合」、「株主エンゲージメント」という3つの柱を基盤とし、それぞれに具体的な目標が設定されている。2023年までに、全ての株式ポートフォリオを1.5°Cの温暖化シナリオに準拠させる目標が達成され、社債についても2026年までの準拠が目標に掲げられている。また、化石燃料に関する除外方針が厳格化されたことに加えて、グリーンボンドとテーマ型ファンドへの投資を通じて、エネルギー・トランジションと生物多様性保全に貢献する方針が採用されている。ESGに基づく除外比率は30%に引き上げられ、ソーシャルボンドとサステナビリティボンドの保有額は55億ユーロに達している。また、ガバナンスと気候目標の促進を目指した議決権行使方針のもとで、株主総会への出席率は 95%に達している。さらに、特に気候指標の公表を通じて、欧州の情報開示基準にも自主的に従っている。今後については、自然資本ファイナンスの拡大と自らの排出量の追加的な削減を目指している。当行は「気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)」の共同設立者として、サステナビリティを中核的な業務全体に引き続き取り入れている。
 

(本内容は参考和訳であり、原文〔Original〕と内容に差異がある場合は、原文が優先されます。)


 

原文(Original)
 

Banque de France’s Responsible Investment Strategy: a central bank that stands up for sustainability

 

Dr. Elsa Allman, Representative for the Asia-Pacific Region, Banque de France 

Banque de France integrates climate risks and nature degradation into its strategy to support price and financial stability. A key part of this approach is its Responsible Investment (RI) strategy, which helped it top the Green Central Banking scorecard for the third year in a row. Since launching its RI Charter in 2018, the Bank has expanded environmental, social and governance (ESG) coverage to EUR 130 billion in portfolios, applying double materiality to assess both risks and impacts. Its strategy is built around three pillars - climate and nature, ESG integration, and shareholder engagement – each declined in specific objectives. By 2023, all equity portfolios were aligned with a 1.5°C climate pathway, with corporate bonds set to follow by 2026. Fossil-fuel exclusions have been tightened, and investments now support the energy transition and biodiversity through green bonds and thematic funds. ESG exclusions rose to 30%, and social and sustainability bonds reached EUR 5.5 billion. The Bank’s voting policy promotes governance and climate ambition, with a 95% meeting attendance rate. It voluntarily aligns with European disclosure standards, notably by publishing climate metric. Looking ahead, it aims to expand natural capital financing and further cut its own emissions. As a founding member of the Network for Greening the Financial System, the Bank continues to embed sustainability across its core functions.

防炎×サステナビリティ×金融

公益財団法人日本防炎協会 常務理事 満田 誉

要約を見る要約を閉じる

要約
 

火や火のエネルギーが必要不可欠な現代社会では、火を安全に取り扱い、火災を防止することが社会全体のサステナビリティ確保のために重要である。木造家屋の多い日本では、古くから火災防止は課題であった。戦後、建物を燃えにくくすること、消防車等の消防力を強化すること、さらには建築物等の内部に一定の設備を取り付けることと併せて、カーテンやじゅうたん等を改良し、容易に火が着かず、あるいは燃焼が続かずに消えるようにすること(防炎)が法制化され、火災を防いできた。防炎のための改良は多様な事業者が取り組んでいるが、多くの上場企業も防炎のための製品づくりを担っており、環境・社会・ガバナンス(ESG)投資としてご検討をお願いしたい。

ビジネスと人権-資本市場における新たな課題と展望-

evergreenp 代表 銭谷 美幸

要約を見る要約を閉じる

要約
 

人権リスクは法令遵守の域を超え、株価・格付・資金調達コストを左右する金融機関にとっての重要課題となった。欧州の人権デューディリジェンス(DD)法制(CS3D等)、米国の「ウイグル強制労働防止法」に規定される輸入禁止措置、アジア各国での「ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)」整備や人権尊重姿勢が実務とサプライチェーンに波及。日本でもガイドライン整備とNAP改定が進展。地政学・人工知能(AI)・気候正義の複合リスクを踏まえ、企業・投資家・金融機関には実効的DDと透明な開示が求められる。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)・「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」の開示要求、「赤道原則」に基づくプロジェクトファイナンス審査、不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(TISFD)の動きは、評価軸と資本コストの再配分を促す。実務対応は待ったなし、資本市場でも価値観の更新が始まっている。

特別寄稿

企業の開示情報の最適化に向けて-読み手の期待に応える情報開示体系の構築-

野村インベスター・リレーションズ エグゼクティブフェロー(野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター 客員研究員)佐原 珠美

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 有価証券報告書へのサステナビリティ情報の記載が上場企業に求められるようになったことで、多くの企業で複数の開示媒体の情報が重複したり、発信するメッセージに一貫性を欠くという課題が見られるようになった。
     
  2. 経済産業省の「企業情報開示のあり方に関する懇談会」は、2024年、法定開示書類と任意開示書類に分散している情報を一つの法定書類にまとめて開示することを提示した。これにより情報整理の過程で重複が解消され、必要な情報を効率的に届けることが可能になる。ただし、媒体の一体化を実現するには、各媒体の開示時期や関係機関の調整など、解決すべき課題が多く残る。
     
  3. 一部の日本企業は、主に任意開示媒体の情報最適化に向けて模索を始めている。情報の取捨選択・整理を始める企業や、有価証券報告書や統合報告書に情報を一本化する企業も現れ始めた。
     
  4. 海外企業の中には、財務・非財務情報の一体化を実現しているケースが多く見られる。欧州連合(EU)では法定開示における財務・非財務情報の一体化が進んでいる。英国の多くの企業は、統合報告書に相当する戦略報告書にガバナンスや財務情報を一体化して開示している。英国では、戦略報告書に企業固有の価値創造の仕組みや将来情報を記載し、それと合わせて財務・非財務・ガバナンス等の比較可能なデータを開示する傾向にある。情報の適切な棲み分け、メッセージの一貫性、各媒体間の連携という点で大いに参考になる。
     
  5. 開示情報の最適化については、①「企業独自の価値創造に関する重要な情報」を最上位の概念として整理すること、②その最上位概念を補完・実証する「比較可能な詳細情報」を一貫性・整合性を持って整理すること、そして、③両者を関連付けストーリー化することに留意したい。その上で、マネジメントからの重要なメッセージについては媒体間で一貫性を保つ必要がある。そのため、企業は部門横断組織などを通じて全社視点で情報発信の「目的」と「対象」を受け手視点で明確化し、各目的・対象ごとに情報を再整理しながら媒体の集約・統合を進めるべきである。複数媒体の情報の一貫性を保つためには、キーメッセージを各部門間で共有し、媒体発行後は社内外のフィードバックや最新の情報開示動向を踏まえて継続的に改善することが望ましい。

特集1:サステナビリティの最前線

野村サステナビリティ・ウィーク2025:「世界のカーボンプライシングを読み解く-いよいよ本格稼働するGX-ETS-」

加藤 雅貴

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 野村グループは20259月、「野村サステナビリティ・ウィーク2025」を開催し、「世界のカーボンプライシングを読み解く-いよいよ本格稼働するGX-ETS-」と題したセッションを行った。
     
  2. カーボンプライシングとは、端的には、企業等の排出する二酸化炭素(CO2)に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させ、CO2の排出削減につなげるために導入する政策手法であり、主な制度としては、炭素税、排出量取引制度(ETS)、カーボンクレジットが挙げられる。本セッションでは、2026年度から、日本においてグリーン・トランスフォーメーション(GX-ETSが本格稼働することを見据え、幅広い観点でパネルディスカッションを行った。
     
  3. 政策的観点からは、現実的なGXを着実に進めることやGX-ETSを日本経済の成長につなげることの重要性が指摘された。また、マクロ経済的観点からは、企業がカーボンプライシングへの対応を通し生産性を高めることへの期待が示された。他にも、東南アジア諸国連合(ASEAN)の事例として、ハイブリッド型のカーボンプライシングや国際的な協力が進められていることが紹介された。
     
  4. 本セッションは、GX-ETSを含めカーボンプライシングを、企業自身のコミットメントもさることながら、国内外のステークホルダーによる取り組みも通して、企業、ひいては日本経済の成長につなげていくという視点を持つことが重要との示唆を得る内容であった。

野村サステナビリティ・ウィーク2025:「サステナビリティはどこに向かうのか-米国、欧州、そして日本-」

大川 隼人

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 野村グループは2025年9月、「野村サステナビリティ・ウィーク2025」を開催し、「サステナビリティはどこに向かうのか-米国、欧州、そして日本-」と題したセッションを行った。
     
  2. 本セッションでは、第2次トランプ政権発足を契機に米国で反ESG(環境、社会、ガバナンス)の動きが鮮明化するなど潮流が混沌化する中、日本、欧州、米国におけるサステナビリティの現在地を整理し、今後の行方を議論した。
     
  3. 欧州はESG支持を維持しつつも、競争力の維持・向上と防衛力の強化との両立を模索している。米国は連邦レベルで反ESGが強まる一方、州や民間の取り組みが継続している。全体として、サステナビリティは「現実志向」へ再定義されつつある。
     
  4. 日本はガバナンス改革・競争戦略に根差した企業価値向上を中心とする視座が重要であり、持続的・本質的なサステナビリティ推進を戦略的に検討していく必要性が高まっている。
     
  5. ​​​​​​​総じて、日本は企業価値向上というコーポレート・ガバナンス改革の原点を見失わずに、企業と投資家が実務と対話を深化させていくべきだと言える。

野村サステナビリティ・ウィーク2025:「中国・アジアのサステナブルファイナンス-グローバルサウスの視点も交えて-」

五島 佐保子

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 野村グループは2025年9月、「野村サステナビリティ・ウィーク2025」を開催し、「中国・アジアのサステナブルファイナンス-グローバルサウスの視点も交えて-」と題したセッションを行った。
     
  2. 本セッションでは、アジアのグリーンボンド市場やタクソノミーといったサステナブルファイナンスをめぐる論点や、アジアにおけるトランジション・ファイナンスの重要性等について、パネルディスカッションを行った。
     
  3. グリーンボンド市場の信頼性向上を目指し、国際基準への準拠も重視した、東南アジア諸国連合(ASEAN)・中国タクソノミーの策定の取り組みが紹介された。また、アジアのトランジション・ファイナンス推進に向けた日本の役割として、経済産業省による技術ロードマップに関するノウハウの提供や、日本の投資家による対アジア投資への期待が示された。
     
  4. 総じて、グリーン及びトランジション・ファイナンスを一層活性化させるためには、各国規制当局・企業・投資家・金融機関の協働を通じて、タクソノミー等の規制の策定から、移行計画の策定・実行、そしてグリーン及びトランジション・ファイナンス実行までの、一貫した流れを創出することが重要であることが示唆された。

特集2:人的資本への焦点

日米企業のファイナンシャル・ウェルネス支援の現在地

野村 亜紀子、中村 美江奈

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. ファイナンシャル・ウェルネス(金融面で幸福な状態)は、基本的には個人の問題だが、米国では職場を通じた従業員のファイナンシャル・ウェルネス支援が定着している。その背景には、生産性や業績にプラスと考えられていること、公的な医療保険制度が限定的で歴史的に職域の医療保険が極めて重要であること、確定拠出型年金の加入者向けサービスが起点になったことなどが挙げられる。
     
  2. 日本企業においても、人的資本経営の取り組みが強化される中で、従業員のウェルビーイングへの注目度が高まっている。売り手市場の雇用環境と相まって、企業は優秀な人材確保の努力が従来以上に求められている。日米の福利厚生制度をめぐる背景は様々な点で異なるが、急激な物価上昇への対応のような共通の課題も見られる。
     
  3. 米国では、多くの企業が従業員への金融面の支援について、法定開示のフォーム10-Kや任意開示で具体的に記載している。例えばコカ・コーラは、10-Kにおいて、個別の制度は国や地域に応じて競争力のあるものを提供する一方で、福利厚生戦略の中でグローバルな最低基準を設定すると記した上で、具体的な制度を紹介している。
     
  4. 日本でも、有価証券報告書や任意開示資料において、従業員のウェルビーイングについて記載する企業が増加しているが、金融面に絞り込んだ記載は未だ希少と言える。もっとも、味の素や富士通、武田薬品はウェルビーイングの1つの要素として金融面の重要性に言及する等、米国企業に近しい記述を行っているケースも出始めている。
     
  5. 特徴的なファイナンシャル・ウェルネス支援を追求し、開示を通じて投資家等のステークホルダーに伝えようとする米国企業の取り組みは、日本企業としても参照する余地があるものと思われる。

2025年の「従業員サーベイをサーベイする」-有価証券報告書開示は「小幅前進」だが注目度は高まる方向-

西山 賢吾

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1.  2025年3月が本決算のRussell/Nomura Large Cap構成企業195社の有価証券報告書を対象に、任意記載事項である従業員サーベイに関する記述を調査した。前回(2024年)と比較すると、サーベイに言及する企業やサーベイ関連の目標値を公表する企業、役員報酬に従業員サーベイの結果を反映させている企業の割合が上昇した。しかし、全般的には記述量や記載内容に大きな変化はみられず、有価証券報告書での情報開示は小幅の改善に留まった。
     
  2. 各社の開示の中では、①企業価値向上プロセスにおける従業員サーベイの位置づけを図表を用い明確化、エンゲージメントスコアの実績値、目標値、調査結果、それらを受けた今後の課題について言及する味の素、②組織に対する社員のコミットメントを測定する独自指標を採用、その目標値を設定するとともに、サーベイ結果から浮き彫りになった課題をベースに今後の重点課題や取り組みを記載する出光興産、③調査で得られた従業員満足度を人的資本上の重要戦略とし、従業員満足度と業績との関係を図示するディスコを好事例として挙げることが出来る。
     
  3. 人的資本の情報に関しては、企業戦略と関連付けた人材戦略や従業員給与・報酬の決定に関する方針、従業員給与の平均額の前年比増減率等を2026年3月期の有価証券報告書より開示することが検討される方向である。また法定開示情報と任意開示情報の位置づけや、企業評価の上で重要な情報の有価証券報告書への集約化を始めとした企業情報開示の在り方に関する議論も進められよう。少子高齢化が進んで良質な従業員の獲得に対する難易度の上昇が想定される中で、「人を活かす経営」を重視、実践して企業価値向上を図る「本気度」を見る上で、有価証券報告書での従業員サーベイに関する開示に一段の注目をしていきたい。

インフレ下の従業員の資産形成支援と職場つみたてNISA-従業員1万人アンケート2025からの示唆-

野村 亜紀子

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 物価高対策の重要性が指摘される中、企業による従業員の資産形成支援は、その観点でも有用な可能性がある。従業員が職場経由でNISA(少額投資非課税制度)を利用できるようにする職場つみたてNISAは、資産形成に関する福利厚生制度の新たな選択肢として注目される。企業としては、従業員のファイナンシャル・ウェルネス(金融面で幸福な状態)向上が、人的資本拡充、企業価値向上へと繋がることも期待している。
     
  2. 野村資産形成研究センターが2025年9月に実施した「ファイナンシャル・ウェルネス(お金の健康度)アンケート」(従業員1万人アンケート2025)によれば、職場つみたてNISAの利用者は全体の4.5%で、若年層の方が利用率が高かった。利用者は全体に比べて、勤務先への誇りや生産性に関する自己評価が高く、ファイナンシャル・ウェルネスも高かった。
     
  3. インフレ対応について、職場つみたてNISA利用者は、資産形成制度の拡充、研修会の開催といった、職場を通じた支援への期待が高かった。調査対象全体においても、資産形成の目的として「インフレに備えて」の回答割合が上昇しており、インフレ対応手段の一つとして職場つみたてNISAを打ち出せば、従前に比べてより多くの従業員のニーズに応えられる可能性が示唆された。
     
  4. 従業員のウェルビーイングを支援し開示する動きは日本企業の間でも増加しているが、金融面にフォーカスした支援は拡充の余地がある。企業のモチベーションをさらに高めるべく、公的主体がファイナンシャル・ウェルネス支援に積極的な企業を認定するような取り組みも、検討に値するのではないだろうか。企業と従業員、双方の観点から、ファイナンシャル・ウェルネス向上の工夫を重ねていくことが重要と言える。

特集3:トランジションをめぐる潮流

トランジション・ファイナンスの基軸としての「移行計画」

江夏 あかね

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 移行計画は、端的には、脱炭素化に向けて温室効果ガス(GHG)排出量をどのように削減していくか、事業を移行していくかといった道筋を示すものである。近年は、金融機関や投資家が投融資に当たって移行計画を活用する傾向が見られている。
     
  2. 世界では、2020年代に入って気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)による移行計画に関するガイダンス、英国の移行計画タスクフォース(TPT)による開示フレームワーク、国際会計基準(IFRS)財団が設置した国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)による気候移行計画ガイダンス等も後押しする形で企業による移行計画の策定・公表が進みつつあり、移行計画の開示を義務化している国・地域もある。
     
  3. 日本では、移行計画は、発行体や投資家により、脱炭素の取り組みの透明性・信頼性を高めるツールとして認識されているものの、開示内容にばらつきがあり、企業間での比較可能性が欠如している等の課題も指摘されている。
     
  4. 移行計画は、トランジション・ファイナンスの基軸として機能するポテンシャルが期待される。移行計画に関する今後の論点としては、(1)利用者にとっての有用性の確保・向上、(2)円滑かつ確実な移行を後押しする伴走者としての活用、(3)策定・開示も通じた企業価値向上、が挙げられる。

4年ぶりに更新された中国タクソノミー-炭素排出削減に向けたトランジションプロジェクトの導入-

宋 良也

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 中国人民銀行等は2025年7月、「グリーン金融支援プロジェクト目録(2025年版)」(以下、2025年版中国タクソノミー)を公布した。同目録は、2021年版中国タクソノミーを4年ぶりに更新したもので、中国の「国が決定する貢献(NDC)」における「3060目標」の実現に向けた重要な要素として位置付けられる。
     
  2. 2025年版中国タクソノミーでは、エクイティを除く全てのグリーン金融商品に一律適用された。主な改正点としては、①低炭素排出に向けたトランジション関連プロジェクトの導入、②炭素排出削減への貢献度合いのラベリング体系の構築、③カーボンロックインのリスクのあるクリーンコール関連トランジションプロジェクトの対象外扱い、が挙げられる。
     
  3. 今般更新された中国タクソノミーは、全般的に意義深い内容だったが、導入された低炭素排出向けのトランジション関連プロジェクトは、一般のグリーンプロジェクトと混在されており、明確にグリーンプロジェクトとトランジションプロジェクトを区分していない等の課題が残っている。
     
  4. 今後、中国のグリーンファイナンス市場の観点から注目され得る主な論点としては、①中国におけるトランジションタクソノミーが別途制定されるのか、②欧州連合(EU)やシンガポールのタクソノミーとの共通点をまとめるマジョリティ・コモン・グラウンド・タクソノミー(MCGT)が2025年版中国タクソノミーの公表を受けどのように更新されるのか、が挙げられる。

豪州と英国における環境目的に資するタクソノミーをめぐる動向-対照的な道筋と共通するトランジション志向-

江夏 あかね

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 世界各国・地域では近年、環境目的に資する経済活動を示すタクソノミー(分類枠組み)を策定する動きが観察されてきたが、2025年に入って各国・地域における対応の多様化が見られる。オーストラリアでは2025年6月にサステナブルファイナンス・タクソノミーが公表された一方、英国では同年7月、政府がグリーンタクソノミーの開発中止を発表した。
     
  2. オーストラリアのサステナブルファイナンス・タクソノミーについては、同国の産業事情等を踏まえて鉱業や農業等のセクターが対象とされたほか、グリーンとトランジションの2つの分類が示されたことが大きな特徴と言える。英国のグリーンタクソノミーについては、開発中止となったが、同国が環境目標の達成に引き続きコミットするとともに、ネットゼロ経済への世界的な移行と自然再生への投資を加速させるのに役立つべく、最善の政策を検討していく旨が明らかにされた。
     
  3. オーストラリアと英国は、タクソノミーについて対照的な道筋を選択したものの、ネットゼロ経済への移行(トランジション)をファイナンスや開示を通じて進めていくといったスタンスは共通していると解釈される。
     
  4. 世界のトランジションボンドの国別発行残高(2025年6月末時点、ブルームバーグのデータベースに基づく)を見ると、英国については全体の約3%、オーストラリアは実績がない状況である。両国においては、グリーンボンドを始めとして持続可能な開発目標(SDGs)に資する債券の発行は行われているものの、今後、タクソノミーをめぐる対応等も通じて、両国におけるトランジションファイナンスの活性化や、多排出産業も含めた発行体の多様化につながるのかが注目される。

ESG/SDGs

幅広い金融事業の排出量計測を論じるGHGプロトコル-資本市場業務・デリバティブ・投資助言等の検討-

五島 佐保子、磯部 昌吾

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 気候関連開示規制の導入を巡って揺り戻しも起こる中、新たに幅広い金融事業の排出量計測の議論が始まっている。目下、温室効果ガス(GHG)プロトコルは、投融資に加えた金融事業の排出量の任意計測を扱う区分「スコープ3カテゴリー16」の新設を議論している。
     
  2. GHGプロトコルは、従来から投融資以外の金融事業を任意の計測対象としてきたが、範囲や扱いは明確ではなかった。この点、カテゴリー16では、証券引受や合併・買収(M&A)仲介、投資助言、デリバティブ、現預金、保険引受、年金資産を含めることを検討している。
     
  3. カテゴリー16に含まれる金融事業の排出量計測を巡っては、これまでもGHGプロトコル以外の場において部分的には議論が行われてきたところ、その扱いや意義を巡る見解は様々となっている。
     
  4. カテゴリー16の排出量計測には課題も多い。GHGプロトコルは同一の排出活動に対する排出量の重複計算を従来から求めてきたが、カテゴリー16の新設により更に上乗せされるほか、計測手法も確立されていない。また、対象となる金融事業が持つ経済・社会的な意義との兼ね合いも論点となり得る。
     
  5. 経済全体で脱炭素を実現するためには、技術革新やコスト低減の取り組みも欠かせない。エネルギー安全保障や安価なエネルギーの確保、国際競争力といった要素も含めて、カテゴリー16がこうした分野への資金フローの活性化にどう貢献するのか注視する必要があるだろう。

グラス・ルイス、2027年より議決権行使の「単一」助言取りやめへ-影響は小さいだろうが行使判断へのAI活用進展には留意-

西山 賢吾

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 代表的な議決権行使助言会社のグラス・ルイス(Glass Lewis)は2025年10月15日、自社のビジネスモデル強化策の一環として、自社の見解に基づく議決権行使に対する単一の助言(推奨)を2027年にも事実上取りやめる方針であることを公表した。2027年以降は顧客の多彩な見方を反映した複数の考え方を助言として提示する方向である。
     
  2. 方針変更の理由の一つとして、AIなどの技術向上が議決権行使プロセスにも利用できるようになってきたことを同社は挙げているが、米国を始め各国・地域で、議決権行使助言会社が企業経営に与える影響への懸念と批判が強まっている点も考慮されたと推測される。
     
  3. 議決権行使助言会社の助言は2010年代頃までは一定の影響力を有していたが、近年ではグローバルな機関投資家は独自の議決権行使基準を策定し、そのコンセンサスを議決権行使助言会社が助言方針として取り入れているような事例も見られている。また、議決権行使助言を含めた機関投資家のスチュワードシップ活動支援のために必要な情報を提供することが、議決権行使助言会社にとっての主要なビジネスとして重要視されてきている。
     
  4. 確かに今回のグラス・ルイスの方針変更は、議決権行使助言会社が機関投資家の議決権行使をリードした時代の終焉を示すものとして象徴的と言える。一方、既にグローバル企業や機関投資家を中心に、収益拡大や企業価値向上を目指しつつ、グローバルに求められる規律も意識しながら、相互理解を深めるための対話(エンゲージメント)活動に力を注いでおり、彼らの行動への影響は小さいと考える。他方、議決権行使プロセスにおいてAI活用が進むと、一見画一的であるが、多くのデータと明確なロジックに裏打ちされた、企業側にとって「反論余地の乏しい」判断が増える可能性も考えられるため、今後の推移は留意したい。

日本のカーボンプライシングの概況

江夏 あかね

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 日本ではこれまで、2012年10月に施行された「地球温暖化対策のための税」(温対税)を始めとして、東京都及び埼玉県による排出量取引制度、証書・クレジット制度としてJ-クレジット、二国間クレジット制度(JCM)及び非化石証書といった複数のカーボンプライシング制度が導入されてきた。これらの制度は、企業等の脱炭素化に向けた意識向上、脱炭素投資の喚起に加え、国際協力への貢献等に一定の効果があったと評価される。
     
  2. 2026年度から排出量取引制度(GX〔グリーン・トランスフォーメーション〕-ETS)が本格稼働予定となっている。GX-ETSが既存のカーボンプライシング制度との相乗効果を創出するための注目点としては、(1)既存の制度との連携・調整、(2)カーボン・クレジット市場の質や透明性の確保、(3)日本のカーボンプライシング制度全体での適切な価格水準の形成や制度の最適化、が挙げられる。
     
  3. 特に、カーボンプライシングには企業の排出削減を促すといった効果が期待できる一方、二酸化炭素(CO2)排出に伴うコストが過度に高まれば、企業の生産活動に影響を及ぼし、日本の産業界の国際競争力の低下につながりかねない。その意味で、個々の制度のみならず、制度全体におけるプラスとマイナスの影響を定期的に検証し、適切な価格水準の形成や制度の最適化を図ることが、脱炭素化を進める上で重要になると言える。

ジェンダー平等に資するオレンジボンド-人口減少・少子高齢化が進む日本への示唆-

江夏 あかね

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. オレンジボンドは、端的には持続可能な開発目標(SDGs)の5番にも謳われているジェンダー平等を実現するためのプロジェクトに充当すべく発行する債券を指しており、オレンジ色は、SDGsの5番の色に由来している。
     
  2. オレンジボンドは、シンガポールの企業であるImpact Investment Exchange(IIX)が同社設立の特別目的事業体(WLB Asset II D Pte. Ltd.)を通じて2022年12月に発行したのが世界初、日本では伊藤忠商事が2025年9月に国内初の起債を行った。世界では2025年10月末時点で、10銘柄のオレンジボンドが存在するとみられる。
     
  3. 日本では、2009年から総人口の減少や急速な少子高齢化が進んでおり、女性や高齢者も含めた労働力確保に向けて、ジェンダー平等の実現等を目的として様々な取り組みが進められてきた。しかしながら、世界経済フォーラム(WEF)によると、日本のジェンダーギャップ指数(2025年)は118位とG7の中で最も低い水準となっている。
     
  4. 日本の金融市場でも、ジェンダー平等の実現に資する取り組みや金融商品はこれまでも見られてきた。しかし、今般、日本にも登場したオレンジボンドは、資金使途を日本のジェンダー課題解決に限定することも可能といった意味で、新規性があり、注目に値する。今後、日本にとってオレンジボンドが意義のある金融商品になるためには、発行額の蓄積や発行体の多様化のみならず、インパクトを確実に創出し、ジェンダー課題の解決に真に貢献していくことが大切と言える。

ROEやジェンダー基準等の厳格化と高度の対話実現が焦点に-2025年議決権行使結果と今後の注目点-

西山 賢吾

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 2025年6月に開催された株主総会では、経営トップの取締役選任議案否決や、特別決議が要件である株主提案可決など、耳目を集める事例が見られた。とはいえ、Russell/Nomura Large インデックス構成企業ベース(196社)の結果を見ると、機関投資家の議決権基準が厳格化しているにもかかわらず、取締役選任議案を中心に多くの会社側議案の平均賛成率が前年を上回っており、基準厳格化への対応が順調に進んでいることを示した。
     
  2. 株主提案については、上程企業数、議案数とも前年を上回った。しかし、昨年に続き平均賛成率の低下及び賛成率が10%未満となった企業の割合の上昇が見られ、株主提案の内容の「質」が一段と低下しているように見える。
     
  3. 2026年以降の機関投資家による議決権行使基準改定において検討が進められるものとしては、①ROE(自己資本利益率)基準の引き上げ(主として8%)、②女性取締役の選任拡大(主として取締役会に占める女性取締役の割合10%以上など)、③社外取締役の選任割合(支配株主が存在しない企業に対しても取締役の過半の独立社外取締役を要請)、④社外取締役の独立性判断基準の一つとなる兼任社数の設定、⑤政策保有株式に関する数値基準の厳格化、などが挙げられる。
     
  4. 議決権行使基準の厳格化とともに、企業価値向上の観点から企業・投資家間での対話が活発化、高度化することにより、両者の認識ギャップの縮小が期待される。そのためには、企業・投資家間の双方から対話の内容や、対話を受けての今後の方針、対応といった情報の積極的な開示や説明も併せて求められる。特に機関投資家では「エンゲージメントとエスカレーション」の重要性が高まることが見込まれる。

低下幅が拡大したわが国企業の2024年度の株式持ち合い比率-時価総額の小さい企業や地銀での削減ペースは緩やか-

西山 賢吾

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 野村資本市場研究所で算出した2024年度の「株式持ち合い比率」は前年度比で低下し、6年連続で過去最低水準を更新した。保有主体別にみると、株式持ち合い比率を構成する上場事業法人、上場銀行、生命保険会社、損害保険会社のすべてで低下した。特に上場事業法人は前年度に比べ0.7ポイント低下し、最大の保有比率低下主体となった。
     
  2. 2023年度は持ち合い解消、政策保有株式の売却が進む一方、株価の上昇で保有株式の保有金額が増加したため、保有株式の対自己資本比は2022年度に比べ上昇した。2024年度は年末の株価水準が2023年度と大きく変わらなかったこともあり、低下が進んだ。一方で、時価総額の相対的に大きな企業では保有株式の圧縮が順調に進んでいるものの、時価総額の相対的に小さな企業では圧縮のスピードが緩慢なように見える。また、金融業の中では、メガバンクや生命保険会社・損害保険会社では圧縮が進んでいるが、地銀ではあまり進んでいない模様である。
     
  3. 株式持ち合い解消促進の一要因である、機関投資家の議決権行使における過大な保有株式に関する基準は2026年度以降さらに厳格になる可能性が高く、株式持ち合い比率の更なる低下につながるであろう。株式持ち合いを巡る今後の注目点としては、①いわゆる「政策保有株式ウォッシュ」の懸念への対応が2025年3月期以降の有価証券報告書において行われたことの影響及び効果、②取引の縮減等を示唆することで政策保有株式売却、持ち合いの解消を妨げる、いわゆる「政策保有株式を売らせない」問題に関する議論の進展、③持ち合い解消、政策保有株式削減で獲得した資金の使途の明確化、などが挙げられる。

「レジリエンス」をテーマとした地方債発行の動き-防災・減災×金融における新たなアプローチ-

江夏 あかね

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 地方債市場では2025年10月、「レジリエンス」をテーマにした債券の発行が相次いだ。横浜市は「浸水レジリエンス債」、東京都は「TOKYOレジリエンスボンド」、三重県は「みえグリーンボンド(水害レジリエンス枠)」を発行した。これらの債券は、「防災・減災×金融」の新たな手法に対する投資家からの注目も背景に、円滑に消化された。
     
  2. 3つの債券は、持続可能な開発目標(SDGs)に資する債券(SDGs債)としての取り扱い等でそれぞれ異なるアプローチが採られた。横浜市はSDGs債ではなく通常の地方債として発行した。東京都と三重県はSDGs債として発行したが、東京都は新たにレジリエンスボンドのフレームワークを策定して発行した一方、三重県はグリーンボンドにレジリエンス枠を設ける形での発行になった。しかしながら、3つの債券に共通しているのは、発行体が災害対策を通じたレジリエンスの強化にコミットするとともに、同テーマの債券発行の継続を念頭に置いていることと言える。また、横浜市と三重県については、従来から連携していた東京海上日動火災保険(以下、東京海上日動)が投資家となったことも通じて、利率を抑える形での起債が実現した。東京都についても、ユーロ市場にて旺盛な投資需要を得て良好な条件での起債となった。
     
  3. 日本の地方公共団体による防災・減災対策は、堤防や防潮堤等の物理的なインフラ整備といったハード事業に加え、人々の行動や情報、組織体制等、非構造的な側面から被害を軽減するためのソフト事業等、多岐に亘っており、近年の自然災害の頻発化、甚大化を踏まえて、多くの地方公共団体が対策を拡充している。今後も地方公共団体による防災・減災対策が果たす役割は大きいと想定される。
     
  4. 地方債市場にレジリエンスをテーマとした債券がさらに浸透していくためには、対象事業の実施や投資家との対話(エンゲージメント)を通じて地域の災害対応力が強化できるか、すなわちインパクトがしっかりと創出されるかがカギになると考えられる。

欧州金融機関初の防衛ラベル付き債券を発行したBPCE

関田 智也

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 欧州では、ロシアのウクライナ侵攻を契機として、安全保障を巡る危機感が急速に高まっている。欧州連合(EU)は、欧州の自衛力を迅速に高めるべく、2030年までに8,000億ユーロ規模の追加的な防衛投資を実現するという野心的な目標を掲げている。こうした環境下、公的資金のみならず民間資金の積極的な活用が、欧州の防衛セクター企業による生産キャパシティの確保・拡大や技術革新に不可欠であるとの認識が強まっている。
     
  2. しかし、グリーン・ソーシャル・サステナビリティ債券(GSS債)を巡る国際資本市場協会(ICMA)原則では、防衛を目的とした活動は適格なプロジェクトとして認識されておらず、これが環境・社会・ガバナンス(ESG)投資において防衛セクター投資が敬遠される一因になっているとみられる。また、2025年10月時点でEUによる共同防衛債の発行実績はなく、EU主導の防衛ラベル付き債券のフレームワークも存在していない。
     
  3. このような現状と政策目標のギャップを埋めるべく、欧州最大の取引所グループであるユーロネクストは、業界主導の「欧州防衛債券ラベル(European Defence Bond Label、EDBL)を2025年7月に公表した。そして、フランスの大手金融機関グループであるBPCE(Group BPCE)は、EDBL公表直後の2025年8月、欧州の金融機関としては初となる「防衛ラベル」を付した債券(European Defence Bond、EDB)を発行した。ユーロネクストのEDBLと、それに準拠したBPCEによるEDB発行は、金融市場から強い関心を集めた。
     
  4.  BPCEによる防衛ラベル付き債券の発行は、欧州の防衛資金調達に新たな道筋を開いた。今後、①欧州における防衛ラベル付き債券市場の標準化及び拡大が進むか、②本件を契機に欧州の主権・安全保障強化を目的とした公的資金調達の議論が前進するか、③防衛ラベル付き債券のESG投資における位置付けが今後変化していくか、が注目される。

米国の病院グループの資産運用戦略-日本の医療法人への示唆-

佐々木 遼太、橋口 達

要約を見る要約を閉じる

要約
 

  1. 近年、日本の地域医療を取り巻く環境は厳しさを増している。診療報酬の引き上げ幅を上回る物価高や人件費の高騰、病床利用率の低下、新型コロナウイルス感染症関連の補助金の終了等を受け、医療法人の医業利益率と経常利益率は、共に低下傾向にある。
     
  2. 米国においても、医業経営の状況は芳しくない。そうした中、米国の病院グループは、医業外収益の獲得を目的として、資産運用に注力している。米国最大級の病院グループであるクリーブランド・クリニックは、最高投資責任者(CIO)の主導の下、強固な運用体制を築いており、伝統的資産のみならず、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンド等のオルタナティブ資産にも積極的に投資している。
     
  3. ヴァンダービルト大学メディカルセンターは、OCIO(Outsourced Chief Investment Officer)を活用し、モルガン・スタンレーに全資産の運用を委託している。OCIOとは、OCIOプロバイダーと呼ばれる資産運用会社等がアセットオーナーから、運用の実行や資産運用会社のファンドの発掘等の運用関連業務を複数ないし全て請け負うサービスである。
     
  4. 現状、日本の医療法人では、資産運用が法規制により禁じられているわけではないが、厚生労働省の監督方針の存在もあり、米国のような資産運用が行われていない可能性がある。財務基盤を確保し、質の高い医療サービスの提供や地域医療の持続性を高めるために、医療法人の資産運用を後押しするような制度整備を検討してもよいのではないだろうか。

リサーチポータルに会員登録していただくと、全文をデジタルブックで無料で閲覧いただけます。