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野村資本市場研究所 研究理事 吉岡 伸泰
要約
2024年3月、新総裁就任から1年弱で日本銀行は非伝統的金融政策を終了させ、マイナス金利からの脱却に踏み切った。金利のある世界への移行に舵を切る一方で、わが国がデフレに陥った1990年代後半から四半世紀の政策運営を総括的に検証するために「多角的レビュー」を進めている。政策実践と理論分析の両面からこの四半世紀の総決算に取り組んでいると言える。また、この四半世紀は現行日本銀行法の施行期間とも重なっている。デフレ脱却を巡る各種の政策論争等を通じて、日本銀行は政策運営の方式を変化させてきたという歴史がある。
理論的な分析と併せて実際の政策過程を考察していけば、将来に向けた有意義な教訓が得られよう。
野村 亜紀子
要約
- 2024年は5年に1度の公的年金の財政検証が実施されると共に、厚生労働省の部会を中心に、確定拠出年金(DC)を含む私的年金改革の議論が本格化すると見られている。岸田政権の資産所得倍増プラン、資産運用立国実現プランの関連部分も取り込むことが想定されており、今般の私的年金改革は、「成長と分配の好循環」実現に向けた施策の一環としても位置付けられる点が特徴的だ。DC関連の主要な改革テーマとしては、拠出限度額、加入拡大、運用改善が挙げられる。
- DCの拠出限度額については、(1)個人型確定拠出年金(iDeCo)の2万円上限の撤廃、(2)企業年金のないiDeCo加入者の上限引き上げ、(3)団塊ジュニア世代の支援強化に向けたキャッチアップ拠出導入、(4)ライフコース多様化に対応する生涯拠出枠の導入、が求められる。
- DC加入者数は1,100万人を超えたが、さらなる加入拡大には、中小企業従業員の加入率向上が鍵を握る。自動加入制度のような大胆な施策の検討も求められる。
- DCの運用改善については、指定運用方法の利用促進策が重要である。指定運用方法の制度は2018年に開始されたが十分に活用されておらず、設定の義務化や投資信託の原則化といった施策を講じる余地がある。また、運営管理機関を含む専門家が、加入者に投資アドバイスを提供できるよう、制度を整備する必要がある。
- 拠出限度額や加入拡大の施策は、公的年金財政検証及び税制改正のスケジュールに沿って進められるが、運用改善関連はその限りでない。先行的に、着手可能な制度改正から実現していくべきであろう。
岡田 功太、中村 美江奈
要約
- 内閣官房・新しい資本主義実現本部事務局は2024年6月3日に、アセットオーナー・プリンシプル(案)を公表した。同案は、日本の年金基金や共済年金等のアセットオーナーに対する行動規範を示しており、アセットオーナーの資産運用の高度化を実現することを目的としている。
- 米国では、大学基金や財団など様々なアセットオーナーが先進的な運用手法を実践しているが、特にカリフォルニア州教職員退職年金基金(以下、カルスターズ)は、コラボラティブ・モデルという独自の運用コンセプトを打ち出し、資産運用の高度化に取り組んでいる。
- コラボラティブ・モデルとは、伝統的資産についてはインハウス運用(個別銘柄への直接投資)を行い、プライベート・エクイティ等については外部運用会社と共同投資等を行うことを指す。カルスターズは、同モデルを採用し、運用機能の内製化と外部知見の活用を適切に使い分けること等を通じて、リターンの向上を図っている。
- 今後、日本の公的年金及び共済年金は、投資対象資産の多様化に取り組むだけではなく、インハウス運用及び外部運用の最適な資産配分の策定や、共同投資の実施など多様な運用戦略の追求を通じて、資産運用の高度化を図ることも検討に値しよう。
宋 良也
要約
- 中国では2022年11月25日、個人型の確定拠出型年金制度として、「口座型」個人年金制度の試験運用が開始された。2023年末時点で、加入者数は既に5,000万人超となっている。少子高齢化が進展する中、持続可能な運営に支障を来す恐れがある公的年金(基本養老保険)と、カバー率の更なる拡大が難しい職域年金を補完する役割が期待されている。
- 「口座型」個人年金制度の試験運用が続く中、加入者の拡大は鈍化しつつある。その要因として、税制優遇措置を享受できる潜在的な加入者が限られることなどが挙げられる。また、加入者が拠出する掛金額の低下、十分な長期・分散投資が図られていないなどの課題が生じている。その要因としては、年金ターゲットファンドによる長期投資が出来ていないことや、加入者の金融リテラシー不足が挙げられる。
- これらの課題を解決するためには、日米欧などの先進国における個人年金制度の拡充策が参考となろう。例えば、個人年金への加入拡大を図るには、自動加入制度の導入や、TEE型の税制優遇措置の導入が考えられる。また、個人年金の運用改善のための施策としては、長期分散投資を促す商品設計や、運用指図を行わない加入者向けのデフォルト商品の設定、証券会社による投資アドバイス提供に関する制度の整備、といった施策が考えられる。
富永 健司
要約
- 近年、世界各国でスタートアップのエコシステムを創出する取組みが進んでいる。その中でも注目されているのが大学発スタートアップである。大学発スタートアップへの年間の平均投資額は、2013~2017年の66億ドルから2018~2022年の253億ドルへと、大幅に増加した。
- 本稿で紹介する米国のカリフォルニア大学バークレー校及びハーバード大学では、重層的なスタートアップ支援体制の下、有機的にヒト・モノ・カネを結び付け、大学における基礎研究等の成果をスタートアップの創出につなげている。
- 事業化支援では、製品・人材戦略の助言や専門家の紹介、市場や競合技術の分析を通じた商業化のフィージビリティ分析、外部専門家との連携による特許出願手続き、研究成果に係るライセンスの利用者の特定とライセンス付与に向けたマーケティング活動等が行われている。
- 資金調達支援では、ファンドによる資金調達機会の提供、アクセラレーター・プログラムの最終イベントであるデモデー等での投資家とのマッチング、大学発スタートアップに投資実績のあるベンチャー・キャピタルのリスト作成、投資家との対話に関するガイダンスを通じた関係構築支援等が行われている。
- 日本においても、大学を中心として、投資家・事業会社・金融機関をはじめとしたステークホルダーが協働し、持続可能な大学発スタートアップを創出するエコシステムの構築が進展していくのか、今後の動向が注目される。
北野 陽平
要約
- シンガポールは、近年スタートアップのハブとして存在感を高めており、スタートアップ・エコシステムのランキングでアジア首位となっている。シンガポールのスタートアップ・エコシステムを支える要素として、質の高い人材プール、良好なビジネス環境、豊富な投資家及び支援者が挙げられ、これらは政府・金融規制当局の取り組みにより強化されている。
- シンガポール企業庁は2017年、スタートアップ・エコシステム拡大に向けた取り組みとして「スタートアップSG」を開始した。スタートアップSGの下では、スタートアップ向け補助金やメンターによる支援、ファンド運用会社の税制優遇や政府系機関と第三者投資家の共同投資、スタートアップ支援者の費用補助等のプログラムが提供されている。
- シンガポール金融管理局(MAS)は、ベンチャーキャピタル(VC)等を対象とした規制枠組みの簡素化、資産運用委託プログラム、新たなファンド形態の導入により、スタートアップ投資家を誘致してきた。また、MASは、金融セクターにおけるイノベーションを促進すべく、補助金制度を通じてフィンテック・スタートアップの事業機会の拡大を支援している。
- 起業家育成においては、大学も重要な役割を担っている。シンガポール国立大学(NUS)が立ち上げた「NUSエンタープライズ」は、様々なイノベーション及び起業家育成プログラムを提供し、ユニコーン企業を含む多くのスタートアップを輩出してきた。日本の地方公共団体・大学・企業がスタートアップ支援分野でNUSと協力・提携する動きも見られる。
- 日本政府は2022年11月、持続可能な経済社会の実現に向けた取り組みの一環として、スタートアップ育成5か年計画を公表した。日本とシンガポールにおけるスタートアップ・エコシステム拡大に向けた取り組みは共通点も多く、今後、両国間の協力が進む可能性も考えられる。
小立 敬
要約
- 連邦預金保険公社(FDIC)は2024年4月、ドッド=フランク法第II編に規定された破綻処理法制である「秩序ある清算手続(OLA)」を米国G-SIBの銀行持株会社に適用し、米国G-SIBにとって望ましい破綻処理戦略であるシングル・ポイント・オブ・エントリー(SPOE)を含む、米国G-SIBを破綻処理するための枠組みを整理した文書を公表した。
- FDICは2013年に市中協議文書としてSPOEの概略を公表しているが、今般のFDIC文書をみると、2013年の市中協議文書と比較してSPOEには概ね変更はないように見受けられる。FDIC文書は、2013年以降のアップデートを図りながら、米国G-SIBの秩序ある破綻処理の枠組みを改めて確認するものとなっている。
- FDIC文書は、米国G-SIBの秩序ある破綻処理のオペレーションをより明確化した。具体的には、金融危機後に導入された総損失吸収力(TLAC)を含む規制措置が米国G-SIBの破綻処理で果たす役割を明らかにしている。また、米国G-SIBは、破綻処理計画の策定プロセスを通じてレゾルバビリティ(破綻処理の実行可能性)を向上しており、破綻処理計画がレゾルバビリティの確保に重要な貢献をしていることが読み取れる。さらに、破綻処理の開始から安定化フェーズ、ベイルインを通じた破綻処理からのエグジットに至るまでの破綻処理のプロセスやオペレーションが具体化されている。
- 今後、FDIC文書が提示した米国G-SIBの破綻処理の枠組みが、市場参加者や投資家を含む幅広いステークホルダーにどのように浸透するかが、米国G-SIBの秩序ある破綻処理の実現可能性を高める上で重要な鍵となるだろう。
小立 敬
要約
- スイス政府・当局は、2023年3月のクレディ・スイス(CS)危機の教訓や課題を検討している。CSの監督当局であった連邦金融市場監督機構(FINMA)は2023年12月に、CS危機の教訓に関する報告書(FINMA報告書)を公表した。また、連邦参事会(内閣)は2024年4月、CS危機の教訓を踏まえてUBSを含む大きすぎてつぶせない銀行(SIB)の監督・規制の枠組み(TBTFレジーム)の強化を勧告する報告書(連邦参事会報告書)を公表した。
- FINMA報告書は、CS危機の経緯をグローバル金融危機にまで遡って整理するとともに、CS危機のソリューションとしてベイルインが適用される可能性があったことを記述している。その上で、CS危機の教訓と課題として、(1)ビジネスモデル、(2)コーポレート・ガバナンス、(3)変動報酬、(4)リスク管理および内部統制環境、(5)自己資本、(6)流動性、(7)再建計画、(8)破綻処理(計画)に関する論点を洗い出している。
- 連邦参事会報告書は、(1)危機を予防する枠組みの強化、(2)危機時の流動性の確保、(3)危機管理ツールの拡充という3つの焦点に関して、(i)コーポレート・ガバナンスおよび監督、(ii)自己資本規制、(iii)早期介入および再建、(iv)危機時の流動性確保、(v)破綻処理計画、(vi)危機時の協力という6つの行動分野を挙げ、37の具体的な措置を検討し、勧告を行っている。
- 連邦参事会報告書は、多くの監督・規制の分野にまたがる包括的な報告書となっているものの、具体的な措置は法律や政令の草案を待たなければならず、「印象的だがまだ曖昧すぎる」との評価がされている。他方で、両報告書は、日本の当局や金融機関が将来の危機に備える上で、参考となるべき重要なインプットを提供しているように窺われる。特に流動性ストレスに備えた秩序ある破綻処理の枠組みは、金融危機以降の金融規制改革の中で十分に議論されてこなかった。CS危機は世界に新たな課題を投げかけているのかもしれない。
門倉 朋美、神山 哲也
要約
- 近年、欧米を中心に個人投資家の情報源として、「ファイナンシャル・インフルエンサー(フィンフルエンサー)」を巡る議論が進められている。フィンフルエンサーは、個人による金融関連情報へのアクセスを容易にしている一方、彼らが提供する情報の透明性や正確性の欠如への懸念もある。
- フィンフルエンサーの提供コンテンツは、証券法制における投資の宣伝や推奨に該当する場合、当局の認可や情報開示が要件として課される可能性がある。
- 欧州連合(EU)や米国では、規制当局が既存の法規制の解釈を示したガイダンスの公表、金融事業者の宣伝・マーケティングの規制強化、フィンフルエンサーや金融事業者を対象とした法的制裁等の取り組みが進められている。
- フィンフルエンサーは、個人にとっての情報源としての役割も期待される。フィンフルエンサーのプラス面の妨げにならないよう、提供する金融関連情報の透明性向上、その是非を判断する個人の金融リテラシーの向上を両輪として取り組むことが重要と考えられる。
岡田 功太、橋口 達
要約
- 米国の資産運用業界では、比較的信用リスクの高い企業等に融資を行うプライベート・デット・ファンド(PDファンド)の存在感が増している。PDファンドの運用会社(PDファーム)は、プライベート・エクイティ・ファーム(PEファーム)から新たな企業等の紹介(ソーシング)を受ける形で融資を行っている。また、PDファームは、銀行に代わって、レバレッジド・バイアウト・ファイナンス等を行い始めており、融資規模は大型化している。
- 更に、一部の大手PDファームは、銀行等と共同でPDファンド事業を展開し始めている。すなわち、(1)年金基金等から運用資金を受託し、銀行及びPDファームが共同でPDファンドを組成する、(2)銀行は、顧客企業のうち自ら融資するには信用リスクが高い企業等をPDファンドにソーシングする、(3)資産運用会社は、PDファンドに人員を含む運用リソース等を提供する、という形態の事業展開である。
- 足元、日本においても、年金基金等のアセットオーナーが運用を積極化する可能性があることに加えて、PEファームが日本企業への投資活動を活発化し始めている。このような状況を踏まえると、日本の銀行及び資産運用会社は、米国PDファームのように、共同でPDファンド事業を展開することも、有力な選択肢になり得よう。
宋 良也
要約
- 中国証券監督管理委員会(証監会)は2023年より、公募基金の手数料改革を進めている。背景として、公募基金の資産残高が拡大する一方、目下の中国株式市場の不調を受けて損失を被る投資家も増える中、改めて公募基金に係る投資家のコスト等の問題が注目されたことがある。
- 手数料改革の第1段階では、管理費・カストディー費の上限引き下げや、変動型管理費率の解禁が行われた。証監会としては、投資家と基金管理会社の利害一致や投資家による短期売買の抑制を通じて、長期分散投資を促進する狙いがある。
- 手数料改革の第2段階として、証監会が2024年4月に公布した「公開募集証券投資基金証券取引コスト管理規定」により、公募基金の売買執行コミッションの上限設定や、単一の証券会社への分配比率上限の引き下げなどが行われた。また、パッシブ運用の株式型公募基金に対し、リサーチ・アンバンドリング規制が導入されている。これらの施策は、基金管理会社や証券会社の収益やビジネスモデルに影響を与える可能性がある。
- 英国・欧州連合(EU)におけるリサーチ・アンバンドリング規制が修正を余儀なくされた中、中国では独自のアレンジを施したアンバンドリング規制を導入している。中国における今般の公募基金の手数料改革が、セルサイド・リサーチの縮小など、資産管理業界の競争環境にどのような変化をもたらすのか、今後が注目される。
江夏 あかね
要約
- 日本では、2009年から総人口の減少が続いている。人口減少と少子高齢化は、労働力供給の制約、貯蓄率の低下、財政悪化、社会保障制度の持続可能性の低下、地域社会の疲弊など、経済・社会面から様々な困難をもたらす可能性がある。
- 本稿では、総人口の減少が始まった2009年以降の地方財政を分析した。その結果、社会保障関係費が少子高齢化を背景に増大し、財政構造の硬直化が進んできたことが改めて浮き彫りになった。その一方で、地方税が増加傾向にある上、投資的経費の絞り込みや地方公共団体の財政の健全化に関する法律(地方公共団体財政健全化法)が後押しする形で地方債務残高が減少するなど、全体としての財政の健全性が維持されてきたことも確認された。
- 社会保障関係費の増加や公共施設等の適正化に向けた財源確保ニーズ等に鑑みると、今後も地方財政の持続可能性を確保する上では、地方公共団体による一層の工夫が求められる。主な工夫の論点としては、(1)財政規律の強化、(2)地域課題全体を踏まえた対応、(3)パブリック・ガバナンスへの着目、が挙げられる。
- 財政規律の強化の観点からは、日本の地方公共団体はこれまで、国から良好な関与・支援を受けてきた。国の地方公共団体に対するスタンスが将来的に大きく変更される可能性は低いと考えられるものの、厳しい国家財政の状況に鑑みると、現在と同様規模の地方への財政移転の継続が困難になることもあり得る。そのため、地方公共団体による歳出削減・歳入確保に向けてさらに努力を重ねることが重要と言える。また、EBPM(証拠に基づく政策立案)の活用も通じて、限られた財源をより効果的に利活用していくこともカギになる可能性がある。
関根 栄一
要約
- 2024年4月12日、中国国務院(内閣)は、「資本市場の管理監督強化、リスク予防及び質の高い発展促進に関する若干の意見」(2024年版9条意見)を公表した。同意見は、2004年及び2014年に続く、10年ぶり3回目の中国資本市場の改革に関する指針となる。併せて、同年2月に交代した中国証券監督管理委員会の呉清・新主席による初めての資本市場に関する指針でもある。
- 2024年版9条意見は、第1条の総論、第2条の株式発行・上場審査基準の厳格化、第3条の上場後の管理監督の厳格化、第4条の上場廃止制度改革の推進、第5条の証券・基金管理会社への管理監督強化、第6条の証券売買への管理監督強化、第7条の中長期資金の市場参画促進、第8条の改革開放の全面的推進、第9条の資本市場の質の高い発展の推進、の計9条から構成される。
- 2024年版意見は、質の高い経済発展に合わせて、資本市場でも質の高い発展を目指すとしているほか、今後5年間、2035年、21世紀半ばと、三つの時間軸を設定して実現すべき目標を分けていることも特徴である。
- 2024年版意見に基づき、「1+N」という形で、同意見に関連する規定、規則などが既に40本近く公表されている。株式発行市場では上場会社の選別が続き、株式流通市場ではプログラム取引への監視が続く見通しである。投資家層の育成では、投資資金の市場での長期運用を目指す一方、家計金融資産のうち2022年末時点で6割強に上昇した現預金の市場運用を促す仕組みの構築も課題である。
- 対外開放では、香港との間でストックコネクトの対象ETF商品の拡大が具体化している。ゼロコロナ政策期間終了以降も低迷中のエクイティファイナンスでは、中国企業の海外上場志向が出ている。科学技術金融、グリーン金融、金融包摂、年金金融、デジタル金融の五大分野の証券業での進め方も注視される。
塩島 晋
要約
- 日本では、中国経済の先行きに対する懸念の声も聞かれるが、その中心にあるのが、不動産市場の不調である。民間の不動産開発業者が経営危機に陥るなど、回復の兆しが見いだせておらず、政策面で複数の支援策を打ち出してきているが、好転には至っていない。
- 中国の不動産市場の需要側をみると、2011年以降、住宅不動産価格は5回のマイナス伸び率を記録している。供給側では、民営の恒大集団と碧桂園が経営危機に陥っている一方、国有業者の存在感は高まっており、不動産市場においても「国進民退」が加速している。
- 中国の金融当局は、低中所得者向けの保障性賃貸住宅を対象とするREITなど、様々な不動産市場のテコ入れ策を行なってきたが、効果は必ずしも十分とは言えないものであった。今後は、銀行の不良債権処理にも用いられた外貨準備を活用した救済スキームも考えられる。
- 中国不動産市場の調整と低迷は今後も数年間は続き、引き続き、中国経済の足かせになっていくものと予想される。中国は不動産バブルの崩壊に伴う混乱を避けるために、日本の経験を長年研究してきたが、その教訓が生かされるか、注目される。
北野 陽平
要約
- 世界最大の人口を有するアジアの大国であるインドは昨今、海外投資家の注目を集めている。同国は、人口増や若い人口構成に支えられ、アジア主要国の中でも特に高い経済成長を遂げている。また、中国の地政学リスク及び経済の先行き不透明感を背景として、インドの相対的な魅力が向上しているということもある。
- インドの株式市場や債券市場に投資する外国ポートフォリオ投資家(FPI)の投資残高は中長期的に拡大しており、純投資額(フロー)は2023年度(2023年4月~2024年3月)に過去最大を記録した。この一因として、FPIの投資促進のための制度整備が挙げられ、FPIの数は右肩上がりに増加してきた。
- インド向け外国直接投資(FDI)では、総じて外国政府系ファンドが存在感を高めている。インフラセクター向け税制優遇措置もあり、シンガポールや中東の政府系ファンドはインドの同セクターへの投資を拡大・強化している。また、世界的なプライベート・エクイティ(PE)ファンド運用会社も、今後インド向け投資を拡大・強化する方針を示している。
- インド政府は、国内初のスマートシティである「グジャラート国際金融テック(GIFT)シティ」に国際金融特区を創設し、外国の金融機関や投資家を誘致している。アブダビ投資庁は、外国政府系ファンドとして初めて、GIFTシティを通じてインドへの投資を行う計画であり、サウジアラビアも政府系ファンドの拠点設置を検討しているとされる。
- 国際協力銀行(JBIC)は2023年10月、日本とインドの経済協力強化の一環として、インドの政府系ファンドが運営する日印ファンド(India-Japan Fund)への出資を発表した。同ファンドは、インド国内の環境保全分野に加えて、日本企業と協業の可能性があるインド企業も投資対象としており、日本企業の事業機会の拡大等にもつながることが期待される。
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