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時流

国債保有偏在の是正と家計部門-国債ファンド構想

麗澤大学経済学部 教授 平山 賢一

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要約

金利のある世界へ至る途上で、日銀保有国債の縮減が進み、国債市場では投資家構造の偏在が脆弱性として浮上している。銀行・保険等はいずれも保有積み増しの余地が限られ、長期安定保有を担える主体として家計部門が重要性を増している。過去には中期国債ファンドを通じ個人保有比率が高まった時期もあり、適切な商品設計がなされれば家計資金の再参入は十分に可能である。MMFの復活や、物価連動国債(1年満期)の発行、将来的にはNISA口座の資産配分サポートなどを組み合わせることで、家計を含む多様な投資家基盤を形成し、日銀の国債縮減後の健全な資金循環を再構築することが求められよう。

特別寄稿

経営資本としてのファン株主

ファンベースカンパニー  COO/CFO 池田 寛人

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要約
 

  1. インベスター・リレーションズ(IR)やマーケティングの両面で注目を集める「ファン株主」について、株式会社ファンベースカンパニーの独自指標「ファン度」に基づき「ファン」を定義し、その効果を業種横断のデータ(好意度、応援意向)により可視化した。ファン株主を単なる施策対象ではなく、企業価値を支える経営資本として捉え、IRやマーケティングの実務に携わる担当者、そして経営者を対象として実践的な指針を整理した。
     
  2. ファン度の高い株主は、一般株主に比べて長期保有率が高く、配当や株価の変動に左右されにくい。彼らは議決権を毎回行使して反対票も少ないため、株主総会における強固な賛成基盤となり、安定した企業経営に寄与する。また、家族や知人に株式を推奨する意向が高く、信頼性の高い口コミを通じた株主基盤の拡大にも貢献する可能性が高い。
     
  3. 企業発信の情報に対する信頼度が低下する時代において、企業からの情報を確実に受け取ってくれる生活者である個人株主は、マーケティングの観点からすると「オウンドメディア(自社で所有・運営する情報媒体)」と捉えることができる。また、個人株主アンケートは回答率・理解度ともに高いため、「自社調査パネル(企業調査に協力する調査対象)」としての機能も期待される。さらには、個人株主向けコミュニケーションにおいて企業理念や事業ストーリー(事業構想から事業開発に至るまでの一連の流れ)を丁寧に伝えることで、ブランド価値が高まるだけではなく、株式という接点を通じた顧客との長期的な関係性構築の場、つまり「ファンコミュニティ」としても機能し得る。
     
  4. ファン株主づくりの第一歩は、自社にとってのファン像やファン度が高まるプロセスを関係部署で共通理解し、ファンが共感し応援したくなるコンセプトに基づいた施策に一貫性をもって投資することである。IRだけでなく、マーケティングや広報、採用などの各部門が横断的に取り組み、工場見学や、株主と協働する「共創イベント(企業が株主と対話し、協働して価値創造するイベント)」といった既存の活動を株主体験に昇華することで、資本コストを抑えつつ、株主体験を企業全体の価値向上に結び付けていくことができる。

特集1:金融市場のオンチェーン化の進展

米国で拡大するトークン化MMF-ブラックロックのBUIDLを中心に-

坂上 聖奈

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要約
 

  1. 近年、資産のトークン化(トークン化)が活発化しており、特に金融資産のトークン化が進展している。グローバルなトークン化の市場規模をみると、2025年11月時点で時価総額は3,600億ドルに達し、その大部分を金融資産のトークン化が占める。
     
  2. 米国では、トランプ政権によるデジタル資産政策を背景に、トークン化市場にかかる規制枠組みの整備が進んでいる。こうした政策を受けて、米国の主要金融機関では、トークン化市場への参入が相次いでいる。その中核を成すのが、MMFのトークン化である。
     
  3. 米国におけるトークン化MMF市場を牽引するのが、資産残高28億ドル以上の規模を誇るブラックロックの「BUIDL」である。BUIDLはもっぱら機関投資家に提供されており、レポ取引やデリバティブ取引の担保資産としての利用を軸に拡大している。
     
  4. トークン化MMFは、伝統的金融(TradFi)と分散型金融(DeFi)が交差する領域でスケール化に成功しつつある事例と言える。金融機関が規制や手数料の圧力に晒される中、分散型台帳技術(DLT)の活用でスケール化できるユースケースを模索していくことが求められよう。

国際的なデジタル資産取引センターを目指す中国香港-ステーブルコイン発行とRWAトークン化実験の取り組み-

関根 栄一、宋 良也

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要約
 

  1. 中国香港特別行政区政府(以下、香港政府)は2025年6月26日、「香港におけるデジタル資産の発展に向けた政策」を公表した。2022年10月31日に公表した政策(バージョン1.0)に続くもので、今般の政策はバージョン2.0として、LEAPというフレームワークの下で、ステーブルコインの発行推進と、サンドボックスを活用したリアルワールドアセット(RWA)のトークン化を2つの柱に、香港が国際デジタル資産取引センターを目指す上での措置を盛り込んでいる。
     
  2. ステーブルコインの発行推進に関しては、法令に相当する「香港ステーブルコイン条例」が2025年8月1日に施行され、発行者ライセンス制度等の細則も公表されている。これらの規制の下、香港では法定通貨連動型のステーブルコインの発行のみが認められる。一方、マネー・ロンダリング等の対策として保有者の実名制が義務付けられており、コインの応用シーンの広がりに影響もあり得ると指摘されている。他に、香港の既存のキャッシュレス決済手段との関係で、ステーブルコインの利用シーンも問われている。
     
  3. RWAのトークン化に関しては、香港金融管理局(HKMA)が、既存の管理監督制度を基に、2024年8月28日に公表したプロジェクト・アンサンブル・サンドボックスに基づき、4つのテーマの下、対象資産や利用シーンを拡大し、参加者も具体的に募りながら進めている。
     
  4. 今後の注目点としては、①2026年のステーブルコインの発行に向けた審査状況、②RWAトークン化対象資産の拡大に向けた税制整備動向、③香港でオフショア人民元に連動するステーブルコイン発行を認めるかという政策的判断の行方、が挙げられる。

インドにおける金融資産トークン化の始動-新たな金融インフラ導入と譲渡性預金証書トークン化-

北野 陽平

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要約
 

  1. インド準備銀行(RBI)は2025年10月、新たな金融市場インフラの導入及び金融資産トークン化の取り組みの開始を発表した。同インフラは、「統合市場インターフェース(UMI)」と呼ばれる。
     
  2. インドではこれまで、金融資産トークン化に関する明確な規制枠組みが確立されていなかったが、UMIの導入により、規制当局の監督下で金融資産トークン化が可能となる。UMIの最大の特徴として、トークン化された金融資産がRBI発行のホールセール型中央銀行デジタル通貨(CBDC)により決済される点が挙げられる。
     
  3. UMIでは、あらゆる金融資産がトークン化の対象となり得るが、当初は短期金融資産に重点が置かれる。RBIは、UMIにおいて、商業銀行等が発行する譲渡性預金証書(CD)をトークン化する試験運用を開始した。トークン化されたCDが銀行間で取引され、ホールセール型CBDCにより決済されることで、決済の効率性向上やリスク低減が図られる。
     
  4. 今後、インドにおけるトークン化市場の発展には、インド証券取引委員会(SEBI)等によるセキュリティトークンの発行・流通に関する規制整備も重要となる。14億人超の人口を抱えるインドにおいて、金融資産トークン化がどの程度広がっていくのか、またどういったユースケースでスケール化していくのかという点は、リアルワールドアセット(RWA)トークン化を巡る動きが活発化しつつある日本にとっても参考になるものと考えられる。

特集2:米国プライベート・マーケットの最前線

米国プライベート・エクイティ・ファンド市場の変貌-セカンダリー取引とNAVファイナンスの活発化-

橋口 達

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要約
 

  1. 米国のプライベート・エクイティ・ファンド(以下、PEファンド)市場は、年金基金や大学などの機関投資家がアロケーションを高める中で継続的に拡大してきた。しかし近年では、イグジットの困難化や投資家への分配金の停滞も観察されている。そうした中、米国PEファンド市場の変化として、セカンダリー取引とNAV(純資産総額)ファイナンスの活発化が挙げられる。
     
  2. セカンダリー取引は、ポートフォリオ管理や流動性改善のためにファンドの持分を売却したい投資家や、投資先企業の企業価値向上のために運用期間を延長したい資産運用会社のニーズに対して、セカンダリー・ファンドなどの投資家が応えることで増加している。
     
  3. NAVファイナンスとは、PEファンドがファンドのNAVに基づいた金額を、融資や優先株出資により調達するファイナンス手法を指す。PEファンドにおいて、投資先企業を予定よりも長く保有して更なる価値向上を目指したり、また、その間にファンド投資家へ提供する分配金の原資を確保するべく、NAVファイナンスの利用が拡大している。
     
  4. 今後の米国PEファンド市場をみるうえでの注目点としては、①投資先企業の保有期間延長のために組成される継続ファンドのパフォーマンス、②機関投資家のアセット・アロケーションの変化、③トランプ政権の政策の方向性、が挙げられる。

米国OTC マーケッツ・グループの海外企業誘致戦略-List Local Trade Global戦略の推進-

林 宏美

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要約
 

  1. ピンクシートと呼ばれる非上場株式の日刊気配表を起源とする米国の市場運営会社であるOTCマーケッツ・グループは、2023年頃から、「List Local Trade Global(上場は本国、取引はグローバル)」を促すスローガンを前面に出して、海外企業誘致戦略を推進している。自国の証券取引所への上場を維持しながら、グローバルで株式取引ができる状況を支援する、というスタンスである。
     
  2. 2024年のOTCマーケットにおける売買代金では、全体の約87%が海外株式で占められていた。OTCマーケット登録企業の本拠地の多様化が進み、海外銘柄数は2025年9月末時点で9,969に及ぶ。
     
  3. 海外企業のOTCマーケット登録が増えている背景には、米国証券取引委員会(SEC)登録が不要となる外国民間発行体の適用除外規定として、証券取引所法(Securities Exchange Act)規則12g3-2(b)が設けられている点がある。最上位のOTCQXインターナショナルへの登録では、適格外国取引所への上場を維持すれば、自国で求められる開示情報を英語で開示すればよいとされており、規制遵守コストが低い。海外投資家の日中取引を可能とする夜間取引プラットフォームの導入、海外企業誘致を円滑に進めるための海外証券取引所との協働も行っている。
     
  4. 近年取引の場をめぐる競争が激化する米国で、OTCマーケットは、セカンダリー取引の場としてのブランド力向上に軸足をおいている。日本の発行体が、自国の証券取引所上場を維持しながら、海外でのセカンダリー取引の場として米国OTCマーケットを主な選択肢の一つに入れる意義は、一考に値するのではないだろうか。

金融・証券規制

最終化された米国G-SIBsの厳格なレバレッジ規制の緩和-トランプ政権下の銀行規制改革への示唆-

小立 敬

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要約
 

  1. 連邦準備制度理事会(FRB)を含む連邦銀行当局は、2025年11月25日に米国G-SIBsに対する厳格な追加的レバレッジ比率(eSLR)を修正する最終規則を公表した。最終規則は2025年6月に公表された規則提案とほぼ同じ内容であり、eSLRをバーゼル基準と同水準に引き下げ、米国G-SIBsのレバレッジ規制を緩和するものとなっている。
     
  2. 米国G-SIBsのeSLRを緩和する理由は、レバレッジ規制は本来、リスクベース資本規制のバックストップとして位置づけられているものの、eSLRは厳格であるためにリスクベース資本規制に比べて制約的な資本規制となっているからである。特に米国債市場への流動性供給の役割を担う、米国G-SIBsの自己資本やバランスシートの制約を取り除くことが、重要な狙いとなっている。
     
  3. 今般の見直しの結果、eSLRの所要資本はリスクベース資本規制(Tier1比率)の所要資本に対して61~86%に収まると推計される。すべての米国G-SIBsでeSLRの所要資本がTier1比率の所要資本を下回ることから、eSLRはTier1比率のバックストップとしての役割を回復することになる。eSLRの修正によって削減されるTier1所要資本額は、銀行子会社では2,190億ドルに上る一方、持株会社では130億ドルに留まる見通しである。
     
  4. 現在のトランプ政権下で行われている銀行規制改革は、効率性、実効性およびリスクに見合った監督規制の枠組みを確保するための改革が中心であるように窺われる。eSLRの最終規則も国際的一貫性が重要であることを述べている。米国の銀行規制については、米国が国際基準から逸脱して独自路線を進んでいく可能性は今のところ低いように窺われる。

第15次5ヵ年計画から見る中国の資本市場改革-「包摂性」をキーワードにした投資促進策-

関根 栄一

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要約
 

  1. 2025年10月20日から4日間、北京市で中国共産党による第20期中央委員会第4回全体会議が開催された。会議では、2026年から2030年までの5年間の経済運営方針としての第15次5ヵ年計画(以下、計画案)が審議され、10月28日にその概要が公表された。
     
  2. 公表された計画案は、合計15章と61項目から構成され、重点12分野と香港政策も盛り込まれている。資本市場との関係を見ると、直接金融の積極的発展が明記されている。同案の策定に先立ち、既にテック系企業の香港での上場審査が加速しており、中国本土のエクイティファイナンスも回復期に入っている。
     
  3. 重点12分野の1番目では、伝統産業・新興産業・未来産業に分類した産業政策に言及している。資本市場関連では、産業振興に向け、新興企業に広く上場の機会を設ける「包摂性」と、株式発行制度の最適化を進める「適応性」をキーワードに改革を進めようとしている。
     
  4. 「包摂性」と「適応性」の下、向こう5年間、新興市場としての上海科学技術創業板に「成長セグメント」を設け、人工知能(AI)など先端分野で、赤字でも将来性のあるテック系企業の上場を進める方針である。産業振興を支える投資環境づくりの観点からは、政府投資基金も活用し、外国人投資家制度の最適化等を進めるとしている。
     
  5. 計画案では、人民元の国際化について積極姿勢に転じていることがわかる。クロスボーダー投資の促進に当たっては、国内金融システムの安定が重要であり、不動産業界、地方政府債務、中小金融機関に関わる3つのリスクを統一的に処理していく方針を改めて確認している。今後、資本市場の改革に向け海外の経験等がどのように中国側に参照されるのか、また資本市場版の計画がどのように策定されるのかが注視される。

個人マーケット

個人金融資産動向:2025年第3四半期-現預金比率が50%を18年ぶりに下回る-

大川 隼人

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要約
 

  1. 日本銀行「資金循環統計」によれば、2025年9月末時点の個人金融資産残高は2,286兆3,350億円となり、2四半期連続で過去最高を更新した(前期比2.1%増、前年同期比4.9%増)。2025年7~9月において、堅調な株式市場を背景に、株式等が前期比7.7%増、投資信託が同8.6%増となった。一方、現金・預金は同0.4%減となり、個人金融資産残高に占める比率は2007年9月末以来18年ぶりに50%を下回った。
     
  2. 2025年第3四半期(7~9月)中の動きを見ると、「現金・預金」は4.2兆円の資金純流出となった。その一方で、「債務証券」は11四半期連続、「投資信託」は22四半期連続の資金純流入となり、有価証券への資金のシフトは継続していると見られる。「上場株式」は株価上昇局面での利益確定売りが優勢となり資金純流出となった。
     
  3. 自由民主党と日本維新の会は2025年12月19日、令和8(2026)年度の与党税制改正大綱を公表した。今回の大綱は、超富裕層への課税の実効性を高めつつ、家計の資産形成を後押しするという二つの方向性を併せ持つ内容となった。超富裕層へのミニマムタックスの強化によって税の垂直的公平の確保を図る一方で、NISAの対象年齢や商品の拡充等が盛り込まれた。未成年期からの「長期・積立・分散」の実践を可能にし、親や祖父母世代も含めたNISA活用を一段と促すことが期待される。また、暗号資産所得の分離課税化も盛り込まれた。
     
  4. 政府は2026年の通常国会にて税制改正法案の成立を目指すことになるが、参議院が少数与党であること等を踏まえると、法案審議も含めた今後の動向には留意が必要である。

欧州貯蓄投資同盟を巡る動向-個人の市場参加を促す貯蓄投資口座-

加藤 雅貴、大川 隼人

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要約
 

  1. 欧州連合(EU)では、欧州全体の資本市場を活性化し、重点戦略分野などに効率的に資金を供給し、競争力を維持・強化するための取組みが進められている。特徴的な取組みは、資本市場同盟及び銀行同盟に始まり、それらを統合する形で、現在では貯蓄投資同盟が推進されている。
     
  2. 貯蓄投資同盟では、主に①市民と貯蓄、②投資と資金調達、③統合と規模、④単一市場における効率的な監督、という4つの政策分野に沿って施策が掲げられている。①の施策の一つである、貯蓄投資口座(SIA)は、個人による株式等への投資に税制優遇等のインセンティブを与え、個人の資本市場参加を促進する枠組みであり、個人がSIAを通じてリターンを得るとともに、EU域内の経済成長に貢献することが企図されている。
     
  3. 欧州委員会は2025年9月、加盟国に対してSIAに関する勧告を発出し、SIAの導入や既存制度の見直しを促している。本勧告ではSIAが備えるべき特徴を示しており、主な特徴としては、①越境でのサービス提供促進、②柔軟な対象商品、③税制措置、が挙げられる。
     
  4. EU域内の越境障壁緩和について、税制など完全な統一は容易ではないが、SIAや貯蓄投資同盟を通じ、金融機関がより円滑に越境活動をできるようになるか、今後の動向が注目される。また、日本もEUと同様、家計の資産形成と自国の競争力強化を並行して推進する施策を講じており、SIAや貯蓄投資同盟がEU家計の投資行動や経済成長に与える影響は、日本の施策の方向性を検証するうえで参考材料となり得るだろう。

英国2025年秋季予算案における注目施策と示唆-ISA改革と英国企業への投資促進策-

関田 智也、中村 美江奈、加藤  雅貴 

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要約
 

  1. 英国では、経済成長と国民の生活水準の向上に向け、個人投資家の資産形成を促進する施策が進められている。2025年7月15日に英国政府が公表した金融サービス成長・競争力戦略、同日のリーブス財務相によるマンションハウス演説では、投資アドバイスを巡る新制度案や個人貯蓄口座(Individual Savings Account、ISA)の改革案が示された。
     
  2. こうした中、英国政府が2025年11月26日に公表した秋季予算案では、財政健全化に向けた税制改革や家計負担の軽減策の他、個人投資家の資産形成を促進するための制度変更や取り組みが盛り込まれた。
     
  3. 予算案で示された個人の投資促進策は、主に①預金型ISA(Cash ISA)の縮小、②ライフタイムISA(Lifetime ISA)の廃止、③個人による英国企業への投資を促進する英国投資ハブ(Investing in Britain Hubs)で構成される。これらの施策及び取り組みは、いずれも個人の投資促進を通じて、英国経済の成長へ貢献するものとして位置付けられている。
     
  4. 英国の施策及び取り組みは、資産運用立国を掲げている日本にとり、個人投資家の資産形成を巡る諸制度の利用促進や位置付けの再確認といった観点から示唆に富む内容である。証券投資の促進や制度の簡素化を狙いとしたISAの改正案や、自国企業への投資誘導を図る英国投資ハブが個人の投資行動や経済成長にどのような効果をもたらすのか、要注目と言えよう。

アセットマネジメント

世界的にプレゼンスを高める中東の政府系ファンド-経済多様化に向けた投資拡大と投資誘致-

北野 陽平、五島 佐保子

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要約
 

  1. 昨今、中東の政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド、SWF)は、世界的にプレゼンスを高めている。世界全体のSWFの運用資産残高は2024年末の約12兆米ドルから2030年までに約18兆米ドルに増加し、中東湾岸地域のSWFがその4割を占めると予測されている。
     
  2. 湾岸協力理事会(GCC)に加盟するサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェート、オマーン、バーレーンの6か国では、国家ビジョンにおいて脱石油依存及び経済多様化が最優先の目的とされている。GCC域内では、資本市場の発展が経済多様化を後押しすると期待されている。
     
  3. 経済多様化の推進においては、SWFが主導的な役割を担っている。SWFはかつて、資産保全を優先して債券等への保守的な投資を行っていたが、株式やオルタナティブ資産の割合を高めてきた。重点投資分野は、テクノロジーや再生可能エネルギーを含め、多岐にわたる。
     
  4. SWFは、GCC域外への投資において、伝統的に欧米に重点を置いてきた。しかし、近年では成長性の高いアジア、特に中国、インド、東南アジアへの関心を高めている。アジアへの投資を通じて、リターン獲得のみならず、自国へのイノベーションの取り込みも追求している。
     
  5. SWFは、GCC域外からの投資誘致にも積極的に取り組んでいる。そうした中、欧米の大手金融機関がホールセール証券事業やアセットマネジメント事業等の分野でGCC地域のSWFとの事業機会を見出しつつある。今後も同地域のSWFが世界的に影響力を高める中、グローバルな金融機関との連携・提携が加速する可能性が考えられよう。

金融イノベーション

AI規則を簡素化する欧州委員会の「デジタル・オムニバス法案」

江夏 あかね

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要約
 

  1. 欧州委員会は2025年11月19日、人工知能(AI)、サイバーセキュリティ及びデータに関する既存の規則を簡素化するデジタル・オムニバス法案を公表した。
     
  2. 欧州連合(EU)では他地域・国に先駆けて2024年8月にAI規則が施行され、2025年2月から段階的な適用が始まっていた。今般示されたデジタル・オムニバス法案では、企業のコスト負担を軽減し、イノベーションを促進すべく、ハイリスクAI関連規則の適用開始時期の延期や手続き簡素化の対象範囲の拡大等が示された。同法案は今後、加盟国と欧州議会の承認を経て決定することになる。
     
  3. AI関連規制をめぐる今後の論点としては、(1)国・地域による適切な法規制の整備及び見直し、(2)企業によるAIガバナンスの確保、が挙げられる。
     
  4. 1点目について、各国・地域はAIに関して異なる法規制のアプローチをとっている。しかし、AIの急速な発展スピードや経済社会にもたらす潜在的インパクトに鑑みると、適切な法規制の整備に加え、整備後についても法規制が目指す効果を発現させるためには適時に見直すことが、各国・地域の健全な発展に向けて重要と考えられる。
     
  5. 2点目について、近年は一部の投資家がAIガバナンスをめぐってエンゲージメントや株主提案といった行動を起こしており、その件数は増加傾向にある。AIガバナンスの確保は、投資家を始めとしたステークホルダーから選ばれるとともに、企業価値を保全・向上するために不可欠と言える。

米国におけるAI法の策定に向けた大統領令

江夏 あかね

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要約
 

  1. 米国のドナルド・トランプ大統領は2025年12月11日、「人工知能(AI)に関する国家政策枠組み」と題した大統領令に署名した。同大統領令は、米国のAIをめぐる競争力を強化すべく、州政府による過度な負担を招くAI関連規制を牽制し、国家レベルのAI法の枠組みを策定することを目指している。
     
  2. 同大統領令の主な注目点としては、(1)AI訴訟タスクフォースの設立、(2)AIに関する州法の評価、(3)州への資金援助に関する制限、(4)AIモデルに関する州法に対する連邦法の優越に係るポリシー・ステートメント、(5)立法勧告の作成、が挙げられる。
     
  3. 今般の大統領令をめぐっては、支持する声がある一方、AI関連法を制定している州以外からも、疑問視する声も出ている。加えて、トランプ大統領や一部の支持者は2025年に入って何度も州レベルのAI規制を阻止しようと試みてきたものの、いずれも失敗している。その意味では、同大統領が目指す連邦政府レベルのAI法の枠組みの策定が実現する可能性を見極めるのは現時点では時期尚早と考えられる。
     
  4. 米国のAIをめぐる法的環境は五里霧中とも言えるが、企業が価値を維持・向上させるためには、引き続きAIガバナンスを意識することが大切である。具体的には、米国も含めた自社のエクスポージャーがある国・地域の法規制をめぐる動きを注視しつつ、自社にとってその時々における最適な管理・監視体制を構築し、見直していくといった体制がますます重要になると想定される。

税・会計制度

スタートアップのM&Aと「のれん」を巡る議論-M&Aによる成長促進とのれんの償却負担-

板津 直孝

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要約
 

  1. スタートアップのM&Aを阻む要因のひとつとして、買収企業が「のれん」の償却負担に対する投資家のネガティブな評価を懸念する点が指摘されている。日本政府は、のれんの非償却を含めた財務報告の在り方を検討する必要があるとしている。
     
  2. のれんは、M&Aで支払った買収価額と被買収企業の時価純資産価額との差額である。スタートアップは無形資産が企業価値の中核をなすことが多く、一般に成長率が高いことから、スタートアップのM&Aでは買収企業に多額なのれんが 計上される傾向がある。
     
  3. のれんを非償却とした場合、のれんが償却されずに残存し続けることで多額の減損が生じるリスクがある。投資家の懸念は、取得したのれんが買収企業の財務状況と比較して多額であることに起因しており、単にのれんを非償却にすることで解消されるものではない。
     
  4. スタートアップのM&Aを促進する観点からは、のれんの非償却を検討するよりも、M&Aを通じた成長戦略に関して、投資家がM&Aの合理性や成果を評価できるように、買収企業が積極的に情報開示することが重要であると言える。
     
  5. 多額なのれんに対する投資家の懸念に対しては、国際的に監査報告上の対応も進展している。日本では2021年3月期より、「監査上の主要な検討事項(KAM)」を監査報告書に記載することが求められており、監査人が特に重要であると判断したのれんの減損処理の要否に関する検討も含まれる。M&Aに係る情報開示の充実とKAMの報告による透明性向上が相乗的に働くことで、スタートアップの成長に向けた、投資家との建設的な対話が一層促進されることが期待される。

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