金融・証券規制

EUにおける銀行規制改革パッケージ(CRRIII/CRDVI)の概要
-バーゼルIII最終化、ESGリスク、第三国支店を含む-

小立 敬

要約

  1. EUでは2024年6月19日、銀行規制改革パッケージとして第3次資本要求規則(CRRIII)および第6次資本要求指令(CRDVI)がEU官報に掲載され、7月9日に施行された(CRRIII/CRDVI)。
  2. CRRIIIは、バーゼルIII最終化の域内適用を規定するものであり、バーゼル銀行監督委員会が定めたバーゼルIII基準に準拠しながら規定している。ただし、銀行の所要資本を大きく増加させる分野や経済への影響が大きい分野に関しては、EU独自の経過措置を設けていることが特徴である。CRRIIIは2025年1月1日から適用されるが、マーケット・リスクの枠組みの改定、いわゆるトレーディング勘定の抜本的改定(FRTB)については欧州委員会が1年延期する方針を明らかにしている。
  3. 一方、CRDVIは、バーゼルIII最終化以外の銀行規制改革を規定するものであり、(1)環境/社会/ガバナンスに関するリスク(ESGリスク)の管理・監督の強化、(2)銀行の取締役等のフィット・アンド・プロパーを含む監督権限や制裁の強化、(3)EU域外国(第三国)の銀行の域内業務に関する規制強化を主な内容としている。CRDVIによってEUの銀行においてはESGへの配慮が不可欠なものとなる。また、支店形態で加盟国に進出する域外国の銀行は、銀行サービスのあり方に一定の影響が生じる可能性がある点に留意が必要である。
  4. CRRIII/CRDVIによって金融危機以降10年に及ぶ改革プロセスを完了することになることから、欧州委員会はEU銀行システムの全体的評価とプルーデンス規制と監督要件の枠組みに関する包括的レビューを実施する予定である。今後、欧州委員会による評価、レビューの結果にも注目する必要があるだろう。